雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

多国籍軍への戦費支出を肯定した不破指導部

 すでにトピックスや投稿などで取り上げられているように、今回の東ティモールへの多国籍軍派遣に日本政府が財政援助をすることに、日本共産党指導部がはっきりと賛成の意を表明した。たとえば、志位書記局長は、9月26日のフジテレビの「報道2001」で、この問題についてこう述べている。

「私たちは、こんどの東ティモールに展開している多国籍軍については、国連決議のきちんとした裏付けもあり、道理をもった目的――現地の虐殺をやめさせる、治安を回復させる――をもって展開しているものであり、日本がこれに資金的な協力をするのは当然だと思っています。賛成です。
 湾岸戦争のときには、イラクにたいする多国籍軍の行動については、平和的な手段を尽くさないで戦争に走ったという点での批判をもっていました。ですから(資金協力に)反対の立場をとりましたが、今回については私たちは認めたいと思います」。

 この発言を受けて、不破委員長も、9月30日に放送された「朝日ニュースター」のインタビューで、あっけらかんと次のように述べている。

「東ティモール問題では、マレーシアで、むこうの外務省の方から、外交政策の話をきいたときに、なるほどと思ったのは、『多国籍軍と国連平和維持部隊はちがいます』という。まず『お金の出所がちがう』っていうんです(笑い)。多国籍軍は全部、自分もちだと。だから私たち、あまり十分(な部隊は)だせないのですと説明するんですよ。多国籍軍への財政的な支援というのは、そういう意味でも大事だということを、そこからも感じましたね。
 こんどの多国籍軍は、あきらかに国連の決議によって派遣されるもので、しかも目的がきわめて明りょうですから、日本が日本の憲法の許す範囲内で支援するのは当然です。その場合に、財政支援というのは、われわれは当然、賛成だということ――たしか日本で党の代表がいっていたと思うのですが、そういう立場をとります」。

 このように、志位書記局長および不破委員長は、東ティモールへの多国籍軍派遣に財政支援することにはっきりと賛意を表明している。これははたして政治的に容認しうることであろうか? いくつかの重要な問題を指摘しておきたい。

 まず第1に、この戦費支出への賛成が、明らかに、これまでの共産党の公式の立場と矛盾することである。湾岸戦争のとき、日本共産党は、米軍を中心とする多国籍軍への戦費支出にきびしく反対し、『赤旗』や街頭演説や国会での追及等を通じて、大々的に反対のキャンペーンを張った。志位書記局長は、湾岸戦争のときは「平和的な手段を尽くさないで戦争に走ったという点での批判をもって」いたから反対したと発言しているが、これは歴史的事実に反する。湾岸戦争に対する共産党の評価はたしかに、「急ぎすぎた戦争」というものだったが、この戦争の評価と、日本政府が戦費の一部を負担することとは、はっきり区別されて論じられていた。あのとき共産党は、湾岸戦争が「急ぎすぎた戦争」だから戦費支出に反対したのではなく(もちろん、それも理由の一部にはあるだろうが、より根本的には)、日本が憲法9条を持っており、したがって戦争の費用を負担することは許されないという立場をとっていたのである。
 いくつか証拠を挙げよう。
 まず、不破委員長は1991年1月18日の衆院本会議において、海部首相(当時)を追及して次のように述べている。

「首相、『多国籍軍』とは、今日の段階では、湾岸で現に武力を行使している軍隊であります。その戦費を分担するということは、武力行使に財政面から参加することにほかなりません。これは、国際紛争の解決のために武力を行使することを禁止している憲法の平和条項を、真っ向からふみにじることではありませんか。しかも、政府は、昨年の臨時国会で公約した『武器・弾薬の購入には使わない』という制限さえ投げすてようとしています。武力を行使する直接の主体がアメリカなどであって、日本ではないからなどといういいのがれは許されません。憲法問題をふくめ、首相の明解な見解をもとめます」(『湾岸戦争――日本共産党の立場』、日本共産党中央委員会、1991年、11頁)。

 わが党内にも国会のようなものがあれば、当然、不破委員長は、「憲法問題を含め、明解な見解を求め」られたであろう。
 さらに、同年同日の参院本会議で、立木副議長(当時)は、次のような緊急質問を行なっている。

「日本国憲法は『国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段として永久にこれを放棄する』と明記しています。日本政府がすすめようとしていること[戦費支出]は、戦争への具体的な経済協力、参加にほかなりません。このような戦争への政府の積極的な関与がどうして憲法のこの精神に違反しないというのでしょうか。これは憲法の精神の逸脱であり、ハッキリした答弁をもとめるものであります」(同前、19頁)。

 われわれも不破・志位両氏に「ハッキリした答弁を求め」たいところである。さらに、1991年1月27日付の『赤旗日曜版』に志位書記局長が登場して、湾岸戦争をめぐってインタビューに答えている。その中で志位書記局長ははっきりとこう述べている。

「政府は、アメリカの強い圧力にこたえて、1兆円をこすといわれる莫大な追加の戦争費用を出そうとしています。しかも、政府は昨年の臨時国会で自分たちのいった公約を反古にして、この費用で武器や弾薬を買っても結構ですという態度です。熱い戦争がまさにおこなわれている、その戦争をたたかっている軍隊のために、費用を出していこうということは、まさに戦費の面から日本が湾岸戦争に参加することにほかなりません。これが国際紛争にたいする武力の行使を禁じた日本国憲法の平和原則の蹂躙であることは明らかです」。

 また、同年1月17日に行なわれた不破委員長の記者会見において、次のように述べている。

「財政支援だといっても、これは戦争行動への財政的な参加にほかならず、国際紛争を武力で解決することを禁止している日本の憲法が絶対に許さないことだ」(同前、134頁)。

 この種の発言はさらにいくつも引用できるが、煩雑なのでこれぐらいにして、最後に、『日本共産党の70年』で、この問題がどのように記述されているかを確認しておこう。

「露骨な対米追随の海部内閣は、多国籍軍への90億ドル支出をもりこんだ90年度第2次補正予算の成立をねらった。党国会議員団は、多国籍軍への資金提供は、戦費調達そのものだと補正予算に断固反対した。しかし、自公民戦争協力ブロックによって第2次補正予算案は、まともな論戦もおこなわれないままわずか3日で衆議院を通過した。
 上田副委員長は参議院予算委員会で海部内閣の戦費支出『合憲』論にたいし、従来の自民党政府が、武器輸出3原則は憲法の平和主義にのっとったものだと主張してきたことをあげ、同じ武器でも、武器そのものを輸出すれば違憲、一方、武器購入資金の提供は憲法上許されるという矛盾をきびしく追及した。政府側は答弁に窮し、しばしば審議が中断、戦費負担の違憲性がうきぼりとなった。しかし第2次補正予算はわずか6日間のスピード審議ののち、自公民の賛成多数で成立した。公明党の補正予算賛成は、13年ぶりのことであった。外国の軍隊への戦費支出を公然と決定したのは、戦後はじめてだった」。

 このように、当時共産党は、湾岸戦争の評価とは独立した論理で、すなわち日本国憲法9条の論理にもとづいて、多国籍軍への財政支出を厳しく批判していたのである。この点についてはっきりと釈明を求めたい。

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