こうした一連の暴言によって防衛次官の辞任に追い込まれた西村真吾は、しかしながら、いかなる反省もしていない。辞任して1週間も経たないうちにさっそく『週刊新潮』誌(11月4日号)に「私の『防衛論』どこがケシカランのか」という手記を発表し、悲劇のヒーローを気取りながら、恥知らずな開き直りと見苦しい言い訳を展開している。
西村は、この手記の冒頭部分で、「なぜあんな現象が起こってしまったのか、それは今考えても、私にはよくわかりません」と述べている。そして、山本七平の書いた『「空気」の研究』なるものを引き合いに出し、説明のつかない熱狂的空気がつくりだされたからではないかと示唆している。ずいぶん無責任な言い草ではないか。
ついで、西村は、インタビューでの自分の発言について開き直りと言い逃れを試みている。
「しかし、私は何も日本が核武装すべきだと言ったわけではありません。核の抑止力についての説明をしたのです」。よくもこのようなことが言えたものだ。すでに引用したように西村は日本の核武装についてはっきりと次のように言っていた。
「核を持たないところがいちばん危険なんだ。日本がいちばん危ない。日本も核武装したほうがエエかもわからんということも国会で検討せなアカンな」。
このように、核の抑止力一般についてではなく、日本も核武装したほうがいいという議論を国会ですべきだと西村は言っている。ごまかしは通じない。
さらに、不審船撃沈発言についても見え透いた言い訳がなされている。
「我が艦隊に攻撃を加えてきた場合には、ことと次第によっては撃沈せねばならない。相手が攻撃を加えてきても、撃たずに死ぬのですか」。
だが、『週刊プレイボーイ』のインタビューでは、どこにも「相手が攻撃を加えてきた場合」などという限定は付けられていない。先ほど引用した部分をもう一度読んでほしい。しかも、西村はそのとき、攻撃されてから反撃するという専守防衛論をあからさまに嘲笑していた。
「大川 ……『専守防衛』というのも意味がわからない。
西村 あれは相手が撃つまで撃ったらアカンっちゅうこと。ところが今、相手が持っているのはミサイルでっせ。一発で何十万人と死ぬ。それ撃たれてから反撃しようにも、命令を下す内閣総理大臣が死んでしまっておれへんがな(笑)」。
また、国会の発言でも西村が専守防衛を否定していたことは、本稿の最初に紹介した通りである。今さら何を言っているのか。
続いて西村は、国軍創設の必要性について、国際法のイロハさえ理解していない珍論をふりまいている。
「我が国政府は、自衛隊は海外では軍隊と扱っていただいていますが、国内では軍隊ではないといっている。これは攻めてくる相手にどういう口実を与えるか。日本政府が軍隊ではないといっているのですから、国際法上は違法なことをしている戦争犯罪人と見なされる可能性がある。捕虜になったときに軍人としての待遇を受けられない可能性もある」。
政務次官であった時期が短かったからなのか、国際法について勉強する時間はどうやらなかったようだ。国際法の違反がまずもって問題になるのは、当たり前の話だが、武力侵略に反撃したことではなく、そもそも武力侵略してくることである。そして、国際法上、武力侵略に対する自衛反撃は認められている。その反撃主体が軍隊という呼称を持っていようがいまいが、そんなことは何の関係もない。もし軍隊という呼称を持っていなければならないのなら、武力侵略に対する現地住民の自主抵抗は国際法違反という奇妙なことになるだろう。
侵略に対する武力反撃において問題になるのはあくまでも国際法ではなく、日本国内の憲法である。なぜなら日本は、憲法上、自衛のためであれ武力の行使は禁じられているからである。日本の憲法は、日本の平和と安全を、武力の脅しではない方法で守ろうとするものである。それは、西村の好きな言葉を用いて表現するなら、男(国家)はすべて潜在的に強姦魔(侵略者)であるという前提に立つことなく、とりわけ、抑止があろうがなかろうが絶対に自分は強姦魔(侵略者)にはならないという固い決意の上に立って、この世からあらゆる強姦(侵略)もその恐怖もなくすことで、自分自身のみならず、すべての諸国の平和と安全を確保しようとするのが、日本国憲法の立場である。
この手記の中でいちばん驚かされるのはやはり、例の「強姦」発言について言い訳したくだりであろう。
「私が使った言葉のみを取り上げて、私が女性蔑視しているという指摘がある。私は国防を大切にし、女性を大切にする体制を作るべきだと言っているのですよ。それがなぜ蔑視なのか。しかも私がそれ(強姦)を欲しているという風な報道まであるのですが、こちらに至ってはもはや驚天動地のことです」。
「驚天動地」なのはわれわれの方だ。『週刊プレイボーイ』のインタビューで西村は何と言っていたか。誤りなきよう、もう一度引用しておこう。
「強姦してもなんにも罰せられんのやったら、オレらみんな強姦魔になってるやん。けど、罰の抑止力があるからそうならない」。
罰せられないかぎり強姦すると公言して恥じない男が、「女性を大切にする体制」などとよく言えたものだ。また同じインタビューで、女性を「柔らかい乗り物」などと表現したり、よりにもよって女性議員に面と向かって強姦発言をしている。これが女性蔑視でなくて何だというのか?
さらにこの手記の中で、西村は、徴兵制発言をした鳩山民主党党首の扱いに比べて、たかだか核武装発言をした自分の扱いがこんなに大げさなのはおかしいとマスコミに文句を言っている。まったく自分の立場をわきまえない発言だ。鳩山の徴兵制発言はもちろん重大な問題である。しかし、鳩山は政府の何らかの職務に就いているわけではない。それに対して、西村は政府の一員であり、しかも、防衛行政の要とも言える防衛次官の任に就いている。そういう重要な公的人物が堂々と核武装の必要性について雑誌で公言したのだから、大問題になるのは当たり前ではないか。しかも、西村自身、以前の国会発言の中で、徴兵制を肯定する発言もしっかりしているのである。
以上が、「このオレの意見を聞きたいんやったら言ったろうやないけ」と大言壮語をしていた男の小心な言いわけである。批判されないとタカをくくっていたときには、下劣な大言壮語を繰り返し、世論から指弾されるやいなや、いっさい反省はしないくせに言い訳と開き直りに終始する。セクハラを訴えられた大阪府知事の横山ノックと大同小異の卑劣さではなかろうか。