今回の決議および報告において、いくつか重要な課題やテーマが無視されているか、不十分にしか取り上げられていない。ここでは、そのうち、私たちが最も重要で切実であると考えている3つの課題についてそれぞれ取り上げたい。
性差別を克服し、真に男女平等的な社会をつくりあげることは、青年のみならず、21世紀におけるすべての人々にとっての最も重要な課題の1つである。だが、この問題はとりわけ青年にとって、そして青年の民主的組織たる民青同盟にとって切実である。
それは第1に、青年が性的好奇心の最も旺盛な時期にあり、同時にさまざまな面で未熟であるからである。こうした特徴は、青年の集まりである民青同盟の日常の活動においても見られ、同じ班の同盟員の間や、あるいは幹部同盟員と下級同盟員との間で、性や恋愛の問題をめぐるトラブルや人権侵害に類する行為が起こる原因となっている。日頃から、同盟員(とりわけ幹部の男性同盟員)が、何よりも女性の人権や感受性に最大限の配慮をし、女性同盟員が本当にこの組織の中で能力と要求を発揮できるような環境を作り出すことは、青年組織たる民青同盟にとって、きわめて重要な課題である。
第2に、青年は未来を担う世代だからであり、この世代において男女平等的な規範やものの考え方が定着しないかぎり、将来における性差別の克服など実現不可能だからである。とりわけ、現在の日本社会においては、ポルノ・買春という形で「女性の性的モノ化」が急速に進められ、そのターゲットは何よりも青年に向けられている。他方では、性差別的な古い慣習や考え方(女は家庭に、女は子供を産んでこそ一人前、など)に対する批判意識が強いのも、昨今の青年の特徴である。青年の現状は、この意味で、古い世代に比べてより遅れた面とより進んだ面の両方を持ち合わせている。先進的青年の部隊である民青同盟は、この両面を正しく理解し、遅れた側面を克服し、進んだ側面をいっそう伸ばして行くイニシアチブをとることが求められている。
第3に、若い女性は、最も性的な被害を受けやすい立場にあり、実際に、この日本社会において繰り返し性的被害を受けているからである。また職場では、セクハラの脅威にさらされているだけでなく、不安定雇用や低賃金を押しつけられたり、男性社員の小間使い的役割をさせられていたり、結婚や出産を契機として退職を陰に陽に勧められたり、などのいやがらせを受けている。これらの問題は、女性問題であるとともに、青年問題でもある。
以上の観点に立つならば、今回の決議および報告において、性差別の問題がまったくと言っていいほど取り上げられていないのは、重大な欠陥ではないだろうか。かろうじて、決議の第3章(2)の「学習・教育」部分の最後に、「性の商品化、ギャンブル、麻薬・暴力など社会的病理・退廃現象とたたかい、人間らしい生き方を身につけることが重要です」と述べられているだけである。「性の商品化」の問題は、ギャンブルや麻薬と並べて「退廃現象」としてひとくくりにされ、男女平等の問題としては取り上げられていない。
昨今、女性の人権をめぐって大きな変化が生じている。1993年12月の国連総会において「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が採択され、1995年9月に北京で開かれた第4回国際女性会議では、女性に対する暴力や人権侵害を告発し、性差別の撤廃を高らかに宣言する北京宣言および行動綱領が採択された。この流れを受けて、昨年、男女平等参画社会基本法が国会で成立するともに、日本で極端に遅れていた児童買春・ポルノ禁止法も国会で成立した。これらの法律は、さまざまな限界や欠陥を持ちつつも、真の男女平等や子供の人権擁護を目指す国際的な大きなうねりを背景にしたものであり、重要な意義を持っている。しかし、これらの動きは、決議でも報告でもまったく言及されていない。
他方では、女性の人権を侵害する多くの問題も最近頻発しており、政治的にも重大な反響を呼び起こした。西村元防衛政務次官の性差別発言、元大阪府知事の横山ノックによるセクハラ事件などがその代表例である。しかし、これらの事件は、決議および報告の中でまともに取り上げられていない。西村防衛次官の発言はもっぱら「核武装発言」としてのみ言及されているだけであり(報告の「一」の(1))、その性差別的内容については、まったく触れられていない。横山ノックのセクハラ事件については、言及すらされていない。
女性の人権擁護と真の男女平等を目指す国際的・国内的流れとともに、ポルノ・買春の蔓延や、西村発言や横山ノック事件に見られるような女性の人権侵害と性差別を助長する逆流も存在する。この2つの相対立する大きな流れが、21世紀を前にして激しくせめぎあっている。未来を担う民主的青年組織である民青同盟は、この2つの対立する流れに注目し、女性の人権擁護と真の男女平等を目指す流れの先頭に立たなければならない。
決議の第2章(1)の「民青同盟のめざす新しい日本」の中には、「1)大企業・ゼネコンのもうけ優先ではなく、くらしと自然環境が大切にされる日本」、「2)日米安保条約をなくし、アジア・世界の人々といっしょに、世界平和と核兵器廃絶に貢献できる日本」、「3)『いじめ』や教育のゆがみに苦しむ青年を一人も残さず、憲法が生かされ、民主主義の花ひらく日本」などの項目が列挙されている。私たちは、これらの項目と並んで、性差別の問題に関する独立した項目をもうけ、男女平等の問題や「女性の性的モノ化」の問題を取り上げるべきであると考える。
また、昨今、市民運動レベルで広範に取り組まれている、夫婦別姓の実現、事実婚差別や非嫡出子差別を撤廃する運動、労働時間を削減して男女ともに家事や育児を担えるような体制づくり、といった諸問題についても、決議および報告のどちらにおいても取り上げられていない。これらの問題についても、切実な青年問題として正面から取り組むべきであろう。
この点では、民青同盟が、8月9日付『民青新聞』の記事の中で、「性の商品化」の問題と、同棲の問題とを、「退廃」という言葉でいっしょくたにしているのは問題である。「性の商品化」の問題は「退廃」の問題ではなく、男女平等の問題である。他方、「同棲」は、本サイトの投稿欄でも取り上げられていたが、「退廃」でも何でもなく、むしろ「法律婚」とは別の婚姻形態を模索する試みであり、何ら非難に値しない。この点での明瞭な区別が必要である。道徳主義的なアプローチに陥ることなく、言葉の広い意味での政治的な立場から、性やジェンダーの問題を積極的に取り上げるべきだろう。