まず、志位書記局長の報告のうち、第一部「情勢発展の特徴と日本共産党の政策・路線の生命力」から検討していきたい。
第一部の最初の章では、「党の提案・行動が、まだ第一歩だが、現実政治を動かす時代に」と題して、この間、「日本共産党の存在感が増し」、党の政策・提案への共感がこれまでになく広がり、現実政治を実際に動かしつつあると述べられている。もしこれが本当なら非常に結構なことだが、しかしこれはいささか過大評価であろう。5中総報告が具体的にあげている北朝鮮問題にしても、介護保険問題にしても、原子力政策にしても、共産党の提案・行動が現実政治を動かしたとは必ずしも言えない。
たとえば、北朝鮮問題に関しては、基本的にはアメリカと北朝鮮との関係改善が軸となってこの間の変化が生じたのだし、介護保険に関しては、ずさんな計画と決定的な準備不足が実施前に明々白々となり、報告自身も述べているように、自自公の選挙目当てで保険料の徴収が一時的に延期されるにすぎない。原子力政策に関しては、JCOのあまりにもひどい管理・運営によって生じた戦後初の臨界事故が重大なきっかけになっている。
したがって、これらの実例は、共産党の政策の相対的正しさ(つまり、与党勢力や準与党勢力のでたらめな政策に比べての正しさ)を示すものであったのはその通りだが、このことと、共産党の政策が現実政治を動かしたというのとは、次元が異なると言うべきだろう。
しかし、もっと重要なのは、この章において、共産党の政策と行動が現実政治を動かしたと言われているにもかかわらず、その「行動」として挙げられているのが、もっぱら共産党中央幹部と党国会議員の「行動」だけだという事実である。共産党が深く関与しているもろもろの大衆運動のことも、また末端の支部で取り組まれている草の根の党活動のことも、この章ではまったく触れられていない。とくに介護保険問題では、民医連や医労連をはじめとする共産党系の大衆団体が熱心に運動に取り組み、対話・宣伝などで一定の広がりを獲得している。もし現実政治を動かす力があるとすれば、まさにこのような草の根の運動にこそ着目すべきであろう。
さらにつけ加えて言えば、4中総を前後する時期、共産党が非常に悪い意味で「現実政治を動かした」事実については、都合よく忘れられている。言うまでもなく「日の丸・君が代」問題のことを言っているのだが、国会内で唯一、政党として「日の丸・君が代」を国旗・国歌として認めないという立場を公式にとっていた共産党が、昨年2月に、国旗・国歌の法制化を積極的に打ち出し、国民的討論さえ経れば「日の丸・君が代」が国旗・国歌になるのもやむえないという発言をしたことで、校長の自殺をきっかけに一気に「日の丸・君が代」の法制化の流れが浮上した。敵失をうまく利用した自民党は、公明党を抱き込んで、ついに、念願であった「日の丸・君が代」の法制化を強行した。まさに、共産党の誤った現実主義が、反動的な方向で現実政治を動かしてしまったのである。
帝国主義化と新自由主義化の流れに抗して現実政治を進歩的な方向に動かすことは、きわめて困難な課題であり、党の国会議員のあれこれの政治戦術や野党対策によっては実現しえない。そのためには、草の根の大規模な大衆運動が必要である。だが、帝国主義化の流れに沿った方向で現実政治を動かすことは、きわめて容易であり、ほんのわずかな政治的ミスでも重傷になりかねない。ましてや、党の現実主義をアピールして政権に早く入りたいという思惑がある場合には、そのミスの規模はますます大きく頻繁になり、したがって、それがもたらす政治的結果もますます致命的なものになるだろう。