小淵内閣は、景気回復をはかると称して、わずか1年半で100兆円をこえる大借金財政を行ない、大企業に大盤振舞をやった。その一方で、大企業減税、高額所得者減税を強行し、税収を著しく落ち込ませた。日本の財政構造は、歴史的にも世界的にも例を見ないほどの巨額赤字財政となり、債務残高は国と地方を足すと645兆円という天文学的な数字にまで膨れあがった。これは、赤ん坊からお年寄りまで、すべての国民が一人あたり500万円以上の借金をかかえることを意味する。これにさらに、年々の巨額の利子が加わるので、これ以上借金をしなくても(もっとも、小渕内閣は2000年度予算でも50兆円を超える追加借金を予定している)、またたく間に債務総額は1000兆円を越すだろう。
近いうちに大増税と国民向け予算の大幅切り捨てが強行されるのは目に見えている。だが、それは、再び景気に冷や水を浴びせることになるだろう。すると再び、巨大公共事業を中心とした景気刺激策がとられ、財政赤字はさらに膨れ上がる。こうして、景気対策と称した旧来の土建型ケインズ主義政策と、赤字削減と称した増税および福祉切り捨ての新自由主義路線とが、相互に刺激し、相互に拍車をかけあいながら、とめどなく進行し、自滅の道へとひた走ることになる。
この「死の二輪車」にストップをかけることができるだろうか? それははたして資本主義の枠内で可能だろうか? 645兆円という巨額な赤字(それは年々、自動的に増えていく)はまだ今のところ、単なる数字の羅列であるかのように国民に受けとめられており、実感を持って受けとめられていない。だが、この借金は結局、個々の国民が負担させられるのであり、それは、とりわけ下層部分に破滅的な結果をもたらすだろう。資本主義がいったいどのような助け船をこれらの人々に差し出すというのだろう?
志位報告は、この極度な放漫財政について「国を滅ぼす、犯罪的というほかない」ものだと厳しく糾弾している。まったく正論である。だが、それに対して共産党指導部は何を対置しているだろうか。
今回の志位報告は、4年前の総選挙で共産党が提案した「財政再建10ヵ年計画」をふまえて、新しい財政再建計画を提案すると述べている。その第1の柱は、浪費構造を思い切って見なおすとして、公共事業の半減、銀行への税金支援の中止、米軍への思いやり予算の廃止をはじめとして軍事費の半減などである。第2の柱は、大企業と高額所得者を優遇している不公平税制をただすことだとしている。そして、志位報告は、以上の計画を実施に移せば、財政再建が可能であるとして、次のように述べている。
「現在の財政破綻は、きわめて深刻なものであり、単年度の財政赤字を一挙にゼロにすることはできません。財政再建には、どうしても一定の期間と、段階的な見通しが必要となります。しかし、この二つの柱を実行に移せば、国民負担増によらず、また福祉やくらしのための歳出の削減によらず、国民生活の充実にあてる予算を確保しながら、財政を立て直す道が開かれます。消費税の減税と廃止への道も、こうした財政の民主的再建のなかで、その可能性が開かれます」。
以上の財政再建構想については、いくつかのレベルで検討すべき論点を含んでいる。
まず、全体としての性格であるが、今回の説明を読むかぎりでは、4年前の再建計画案と比べて根本的な違いはとくに見いだされない。銀行支援分の削減という項目が新たに加わったが、銀行支援自体がこの4年間に加わった新たな財政支出であるから、その分の削減にすぎない。収入の面でも、大企業と高額所得者優遇の不公平税制是正は以前からの政策の継続である。この間、大規模な法人税減税と金持ち減税が行なわれたのだから、当然、法人税率と所得税および地方税率を少なくとも以前の水準に戻すことが必要なはずであるが、今回の提案を読むかぎり、そのような政策は出されていない。大企業の税金逃れのルートを塞ぐことと、利子・株・土地からの所得を含めた総合課税化をはかるとしか述べられていない。これらの改革はもちろん必要であるが、まったく不十分である。「財政再建の負担を大企業と金持ちに負わせろ!」をスローガンとし、法人税、所得税の最高税率の大幅引き上げを主張すべきである。所得税は地方税と合わせて、少なくとも最高税率を70~80%に引き上げるべきである。
第2に、以上のような財政再建策をたとえ実行に移せたとしても、645兆円の赤字が根本的に減少するとは考えられない。年々の利子を合わせて考えれば、あれこれの支出や収入の改善だけでは、根本的な解決にはなりそうもない。よりラディカルな手段、すなわち、債務利子の帳消しないし大幅減額、そして場合によっては小規模国債保有者の分をのぞいて、債務元本の部分的破棄が必要になるかもしれない。このような措置はもちろん、経済の安定を脅かし、資本主義の根幹を揺るがすことになるだろう。だが、今後長期にわたって、資本家の政府のもとで、労働者と下層市民の生存権を奪うような福祉切り捨てと大増税という大収奪政策が強行される事態が起こるならば(そして、それは不可避である)、このようなラディカルな措置に対する下層民衆の支持が増大する可能性がある。その場合に、そうした政策提示のイニシアチブを、ネオファシスト的右翼ポピュリスト派がとるのか、それとも社会主義的左翼政党がとるのかによって、日本社会の運命は大きく左右されるだろう。
これは、非現実的な想定ではない。右派の石原都知事が大銀行への積極的な増税案を出したことに注目するべきである。左翼政党が悪しき現実主義に走り、思い切った改革案を打ち出さないならば、大胆な右派が下層民衆の支持をかすめとっていくだろう。
第3に、より部分的な論点だが、それでも非常に重要なのは、今回、久しぶりに軍事費削減の主張が出されていることである。前回の4中総に対する批判論文のなかで、われわれは次のように述べている。
「『経済・財政政策の転換のための闘争』の項では、あいかわらず無駄な公共事業の問題のみが取り上げられ、軍事費の削減について何も語られていない」。
今回、軍事費の削減(半減程度だが)が再び提起されたことは積極的なこととして評価したい。しかし、その主張が再び棚上げされないとも限らない。警戒を怠ることのないようにしなければならない。
第4に、すでに引用した部分から明らかなように、消費税廃止どころか、98年参院選挙であれほど宣伝された消費税減税さえもが、「消費税の減税と廃止への道も、こうした財政の民主的再建のなかで、その可能性が開かれます」として、事実上先送りされている。これは、共産党が参加する政権が成立したとしても、当分の間、消費税の減税は行なわれないということを意味する。98年参院選においてわが党が消費税の即時減税を主たる争点として大幅な得票増を獲得したことを考えるならば、このような路線変更は有権者に対する裏切りではないだろうか?
いずれにしても、今回提示されたのは全体の大枠だけであり、新しい財政再建案が正式に発表されたときに、改めて検討したい。