日本共産党5中総の批判的検討

1、志位報告の検討(1)――国内外の情勢と共産党

党のアジア外交について

 前回の4中総において、外国の諸党に対する原則が確認され、保守政党や与党であっても、自主独立・対等平等・相互不干渉の3原則さえ守られれば相互に交流を深めていくという立場が表明された。われわれは、批判論文の中で、この新しい立場が無原則的な交流に導きかねないことを批判し、なかんずく、次のような警告を発した。

「党指導部は、先の3つの形式的基準を、『保守政党』や『与党』一般にまで広げようとしている。つまり、場合によっては、相手の党がたとえ、国内で革命派や左翼を残酷に弾圧しているようなブルジョア独裁政権の与党であっても、相手が友好的関係を求めてくるなら、先の3つの基準を満たしているかぎり、それらの党との友好と協力を積極的に進めることもありうるということである。もちろん、国際連帯の運動をこれまで以上に積極的に進める必要はあるが、このような没階級的・没政治的な基準は危険であり、裏切りの道具になりかねない」。

 その後の経過は、この警告の正しさを完全に確認した。昨年秋、不破委員長を団長とする東南アジア歴訪団は、マレーシアとシンガポールの開発独裁政権の高官と「友好的」に交流し、それらの政権の反動的政策を黙認し、許しがたい政権賛美を行なった。5中総は、この東南アジア歴訪について反省するどころか、「日本の外交に影響を及ぼした」として全面礼賛している。
 近い将来における政権入りを念頭に置いたこの新しい外交路線は、国際連帯の主たる対象を、単にアジア重視にしたということではなく、各国の革命勢力や進歩的野党勢力から政府と与党勢力に移したということを意味している。われわれは、ブルジョア的開発独裁政権と多国籍企業によって搾取され抑圧されているアジア諸国の底辺民衆を無視したこのような「野党外交」を、きっぱりと拒否する。
 しかし、それと同時に注目すべきは、アジア外交を論じたこの章で、安保条約廃棄の問題が強調されていることである。

「わが党が、これらの外交的転換の提案ができるのは、日米安保条約廃棄という確固とした立場に立っている党であるからです。安保廃棄によってこそ、さきほどの三つの内容[問題の平和解決、アジア外交重視、自主・独立]での日本外交の民主的転換を、全面的に実行する確かな展望も開かれてきます。一昨年秋の3中総決定では、『日米安保廃棄派が国民多数派になる努力を正面から追求する』ことをよびかけましたが、安保廃棄を国民世論の多数派にしていくための独自の努力に粘り強くとりくむことを、わが党の綱領的任務としてあらためて強調しておきたいと思います」。

 ここで述べられているように、中央委員会総会で安保廃棄が強調されたのは、前々回の3中総においてであった。この時も報告したのは志位書記局長である。その2ヵ月前に安保廃棄棚上げの不破政権構想が打ち上げられ、それに対する批判と困惑が党内外で高まりつつあった中での提起であった。しかし、3中総後、ごく短期間だけ安保の問題が『しんぶん赤旗』の紙面に登場しただけで、ほとんど安保廃棄のための独自の努力は追求されてこなかった。不破委員長が報告と結語を担当した4中総では、この問題はほとんど取り上げられなかった。今回、志位書記局長が報告した5中総で、あたかも思い出したように安保廃棄の問題が再度強調されている。
 これは偶然だろうか? それとも、これは、不破委員長と志位書記局長との間の何らかの意見の相違を反映しているのだろうか? 指導部の一枚岩を誇っているわが党において、そしてあらゆる反対派が一掃されてすでに数十年経過しているわが党において、指導部中枢にこのような意見の相違があると考えるのは、非現実的であろう。また、誰が報告するのであれ、その報告文章は基本的に事前に常任幹部会の討議と承認を経ており、報告における強調点の多少の相違が、報告者の意見の相違を反映しているとみなすのは、強引に過ぎるだろう。しかしながら、報告文章は基本的に報告者が起草すると思われるので、そこには、「意見の相違」とはいわないまでも、多少の「温度差」や姿勢の相違が反映されている可能性は否定できない。

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