日本共産党5中総の批判的検討

1、志位報告の検討(1)――国内外の情勢と共産党

帝国主義グローバリズムの世界支配

 志位報告の第1部第4章は国際情勢、とりわけアメリカ覇権主義の問題がクローズアップされている。この章全体を通じて言えることだが、「アメリカ帝国主義」と表現すべき部分ですべて「アメリカ覇権主義」という曖昧な用語が使われている。「覇権主義」という言葉は、階級的規定を伴わない政治学用語である。昨今、帝国主義という言葉がますます後景に退き、ますます「覇権主義」という没階級的用語が多用されるようになってきているが、その傾向はこの報告においてきわめて顕著である。
 具体的な中身に入るが、志位報告は、アメリカが平和秩序を真正面から破壊する傍若無人さを発揮していると厳しく批判し、軍事的な面でも経済的な面でも、国際的な批判と抵抗にさらされ、アメリカの覇権主義的路線の破綻が明らかになってきていると述べている。このような厳しい批判は大いに正当であり、積極的な役割を果たすものだと考える。また、昨年11月に行なわれたWTOの閣僚会議において、アメリカとEUと途上国の間で厳しく意見が対立し、合意に至らなかった事実、あるいはまた、「グローバル化」のかけ声のもとで進められているアメリカ多国籍企業中心の国際秩序の押しつけが、悲惨な状況を世界に、とりわけ途上国にもたらしている現実が告発されている。

「国連開発機構の年次報告では、『所得と生活水準の世界的不平等はグロテスクなほどになった』と告発しています。ユニセフの報告書では、『グローバル化がすすむなかで、貧困のもとで暮らす人は増え続けている。…世界の経済が二極化して、豊かな国と貧しい国、豊かな人々と貧しい人々との格差が広がるに従って、貧しさがいっそう深刻化している」とのべています。国連食糧農業機関(FAO)の報告書は、『世界の発展途上国の栄養不良人口は、七億九千万人に達している』と告発しています」。

 こうした現実の告発はきわめて積極的な意味を持っており、アメリカ多国籍企業を中心とした帝国主義的国際秩序と闘うという世界人民の共通の課題を正当に提起している。しかしながら、こうした積極性にもかかわらず、なおいくつかの重大な弱点が見られる。
 まず第1に、この「グローバリズム」の中心を担っているのがアメリカ帝国主義であり、アメリカの多国籍企業であるのは間違いないとしても、基本的にはすべての先進資本主義国がそれに加担しており、そこの多国籍企業が、それぞれの経済規模に合わせて、この帝国主義的グローバリズムを推進しているのである。とりわけ、日本帝国主義と日本の多国籍企業も、グローバリズムの波に遅れてはならないと、アジア中心にその支配と進出を強めている。このことを直視しないかぎり、国内情勢と国際情勢とは有機的に結びつかないまま、並列されるだけに終わってしまうし、日本における闘いの国際的位置づけも国際的展望も曖昧になってしまう。
 第2に、「国際的な抵抗と批判」と言われているが、その中身については曖昧であり、実際にヨーロッパ諸国や北アメリカやラテン・アメリカ諸国で起こっている人民の草の根の闘いについては、まったく紹介されていない。ヨーロッパ諸国における反失業闘争、北アメリカでの移民労働者を包括した新しい労働運動の高揚、メキシコをはじめとするラテン・アメリカ諸国での反グローバリズムの闘争、そして何よりも、シアトルでのWTO閣僚会議に標準を合わせて、世界中から結集した労働運動家、市民運動家の連帯闘争などについて、一言も触れられていない(『しんぶん赤旗』で現在、「雇用を守る、日本と世界」という連載が続けられ、世界各地の闘争が紹介されているというのに)。
 第3に、帝国主義的グローバリズムに対して何を対置するべきなのかについて、きわめて不十分である。もちろん、帝国主義国と多国籍企業のためのグローバリズムに対置すべきは、偏狭な民族主義でもなければ、何らかの宗教原理主義でもなく、労働者・市民・農民の国際連帯でなければならない。そして、帝国主義的グローバリズムに対する労働者・市民・農民のこの草の根の国際的闘いは、ただ世界社会主義の展望と結びつく場合のみ、勝利することができる。しかしながら、志位報告で対置されているのは、国連憲章と軍事ブロックの解体のみである。

「国連憲章にもとづく平和の国際秩序か、アメリカが横暴勝手に覇権をふるう侵略と干渉の『国際秩序』か――二つの国際秩序のどちらに未来があるかは明りょうであります。日本共産党は、地球的規模での軍事ブロック解消を展望しながら、それ以前の課題としても、あらゆる覇権主義に反対し、国連憲章にもとづく平和の国際秩序を確立することを目指して、広い国際的共同をつくるために全力をあげるものであります」。

 アメリカの無法な軍事的冒険主義に比べれば国連憲章のもとづく世界秩序がよりましであることは言うまでもない。だが、国連憲章が、ユニセフやFAOの報告している悲惨な世界の現状をどのように解決してくれるというのだろうか。

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