大阪府知事選挙の教訓

2、今回の知事選挙の特殊性

 今回の知事選挙は、これまでの知事選挙と共通する諸問題と同時に、いくつかの特殊な側面を持っていた。
 まず第1に、今回の府知事選挙が、前任者のセクハラ事件に伴う在宅起訴と引責辞任という前代未聞の事態によって生じたということである。横山ノックのセクハラ事件は、ひとりの女子大生の勇気ある告発によって明らかとなった。大阪地裁の判決(99年12月13日)では「わいせつ行為」が「執拗かつ悪質」であり「計画性すら伺われる」ものであり、「自らの行為を反省するどころか、海外のブランド品を交付することにより解決しようとする」ものであったこと、さらに「逆告訴」をしたことについて、「現職知事の立場にある権力者がわずか21歳の女子学生を罪に陥れようとした極めて違法性の強い行為である」と断じ、横山ノックの女性蔑視的なゆがんだ人権感覚を府民の前に暴露した。
 この裁判を通じて、これまで横山ノックが「人柄」で支持を集めていた分、そのまま我が身に跳ね返り、「ノック辞任」の広範な世論が喚起されることになった。超党派の女性議員らによる抗議集会、各種女性団体による署名行動、各地の市町村議会からの辞任を求める意見書の提出、HPサイトも活用した「こんな知事いらん」運動など、騒然とした雰囲気の中、横山ノックは辞任に追い込まれた。しかし、横山は、自らの罪を認めて辞任したのでもなければ、ましてや謝罪や反省をしたのでもない。どこまでも横山は開き直り、被害女性に対してまったく不誠実な態度をとりつづけた。横山ノックの恥知らずな性差別的姿勢を、ここで改めて糾弾したい。
 したがって、今回の選挙では、女性差別の問題、男性の性差別意識、セクハラ事件を構造的に生む社会風土、知事を筆頭にした大阪府行政の人権意識の根本的問い直し、そして何よりもこのような知事を推薦し支えてきたオール与党勢力全体の人権意識といった問題が、重大な争点になった。府知事選挙に限らず、女性の人権問題がここまで重要な争点となった首長選挙はなかったのではないだろうか? その意味で、今回の選挙は、大阪府だけにとどまらない普遍的な意義を有していたとさえ言える。
 第2に、長期にわたるオール与党政治の根源的矛盾が顕在化しはじめたことである。全国の地方自治体のなかでも、最もはやくオール与党政治が確立したのは、皮肉にも革新府政を誕生させ、民主勢力が一定の勢力を保持している大阪であった。横山ノックが前回(99年4月)、革新候補との一騎打ちで獲得した235万票は、たしかに史上最高の票数ではあったが、そもそも非共産陣営は、横山ノック票を加えれば、この20年間一貫して200万票以上を獲得しており、その点では「安定」した票数を維持していた。また、政策的にみても、都市博中止でわずかながらも面目を保とうとした青島前都知事にくらべ、就任直後に公約をひるがえし、あらゆる面でオール与党と行動をともにした横山ノック府政は、その支持層が無党派層にあるにもかかわらず、政治的にはオール与党政治そのものであった。オール与党陣営が、前回候補者を擁立できなかった背景には、そもそも横山ノック府政がオール与党の障害物とならないばかりでなく、むしろ横山ノックの「人気」を積極的に活用することで、府民収奪の「行革」や大企業のための大規模公共事業を推進するという立場をとっていたからであった。つまり横山ノックとオール与党との持ちつ持たれつの「ギブ・アンド・テイク」路線が、彼らの基本路線であった。
 したがって、セクハラ疑惑が民事での敗訴が確定してからも、共産党以外の各会派は横山ノックの政治責任をあいまい化し、不問にするためのあらゆる手立てをほどこしてきた。民主党系の議員会派も、共産党議員が提出した不信任決議に反対するという恥知らずな態度をとった。しかし、現職知事の家宅捜査、刑事告訴にまで事態がおよぶにあたって、ついに当の本人が辞任をせざるえない情勢にいたり、まさに府民の正義は革新の候補者以外に存在しえないという状況が生まれた。
 もちろん、現実の政治的な力関係からして、これがただちに革新府政の誕生とはいえないだろう。しかし、一昨年に、一騎打ちで勝利した東大阪市を想起するまでもなく、21年ぶりの革新府政の誕生をもたらすような飛躍の可能性は、十分現実性を帯びていたといえるだろう。

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