この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。
今年の1月16日に発表された民主党の選挙政策は、全部で7つのパートから成っており、そのパート6で、安保・防衛問題についての民主党の選挙政策が提示されている。それを簡単に検討することで、民主党の親帝国主義的な性格について明らかにしたい。
まず、このパートの冒頭において、民主党は、現代の世界と日本についての基本的認識を以下のように示している。
冷戦下における一種の世界秩序が崩れ、地域紛争や、貧困、人権侵害、環境破壊、国際テロ、麻薬、エイズ、難民、地雷など新たな脅威が顕在化しています。 第二次大戦後の日本は、冷戦構造の中、外交・安全保障上の判断と責任の多くを米国に依存し、自らは経済成長に専念してきました。しかし、世界で新たな秩序と平和のあり方が求められている現在、「平和の最大の受益者」であった日本が、その特徴や経験、得意分野を最大限活用して「平和を創る国」として積極的に貢献する時だと考えます。
この認識はまさに、小沢一郎が政治改革のときに訴えていたものと、その基本構造においてまったく同じである。冷戦構造のもとでアメリカに依存して経済成長に汲々とする一国平和主義から脱皮して世界の秩序維持のために日本が積極的に国際貢献するべきだ、というわけである。
次にその具体的な安全保障政策について見てみよう。民主党は自衛隊の果たすべき役割について、日米支配層の求めるものを、自らの政策として次のように定式化している。
東西冷戦の終結により、日本に対し大規模な直接侵略がなされる可能性は低下しました。しかし一方で、テロリズムやゲリラ的活動、生物・化学兵器の使用、領土・領海・領空(領域)への不法侵入、ミサイルや核兵器の拡散など新たな脅威の可能性が生じ、北東アジアには警戒を要する状況が残っています。このような安全保障環境の変化に柔軟に対応するため、防衛大綱の機動的な見直しを行い、前記の多様な脅威への対応に加え、災害派遣、PKO活動などの国際協力活動、周辺事態における日米協力、海外における邦人救出など、自衛隊が重要かつ多様な役割を果たせるようにします。
このように、防衛大綱の機動的な見直し、北東アジアの脅威への対応、PKO活動などの国際協力、周辺事態における日米協力、海外における法人救出、こうした活動において自衛隊が重要な役割を果たすことを民主党は主張している。現在の日米支配層の要求水準からすれば、これで基本的に満たされていると言える。
さらに民主党は、以上の一般的認識を、続く文章で次のように具体化している。まず、多様な脅威への対応についてはこう述べている。
大規模直接侵略を主として想定して構築されてきた自衛隊の装備、配置及び構成について抜本的な見直しを行い、テロリズムやゲリラ的活動などの新たな脅威に、日本が原則として単独で対処できる体制を早急に整備します。
ソ連の侵略を想定した配備から、より小回りのきく防衛体制へ、というわけである。これによって、より容易に軍事力が行使されることになる。
続いて民主党は「緊急事態における自衛隊の活動ルールを法制化する」と題して、次のように有事法制の制定を要求している。
出動した後の自衛隊の活動ルールについては、法律の規定がほとんど存在していません。現状のままでは、日本に対する直接侵略などの緊急事態があった場合、自衛隊の活動が円滑に行われないことで国民の生命・財産に対する侵害が拡大するか、もしくは、自衛隊が超法規的措置を取らざる得なくなってしまう可能性があります。これを回避するため、あらかじめ緊急事態における法律関係について十分な議論を行い法制化を進めます。この場合、どのような緊急事態においても自衛隊などの活動がシビリアン・コントロールの下にあり、国民に対する必要以上の権利制限とならないよう、国民の権利、とりわけ憲法上認められた基本的人権・表現の自由を保障します。
より容易に軍事力を行使する体制をとれば必然的に、それに応じた有事立法が必要になる。憲法9条のおかげでいまだに有事立法のない日本において、有事立法を制定することは、現在の支配層にとって焦眉の課題である。民主党は、その有事立法の制定を円滑に進めるために、「国民の権利の制限にならないよう」という美辞麗句を付加する。
次に軍事費と装備調達について、民主党は次のように言う。
限られた防衛予算のもとで必要な装備を整備していくためには、陸海空横並びの考え方から脱却して、想定される脅威に対応した予算編成を行います。また、コスト削減の観点から汎用品については、その範囲を拡大しつつ、一般入札の積極導入をはかります。随意契約・指名競争入札の対象となる装備などについても、透明性・客観性・公正性を担保できるような装備調達方法に改革します。
より効率的で充実した装備調達のためのコスト削減という観点はあっても、軍事費そのものを削減するという観点は微塵もない。
続けて民主党は、情報収集活動の重要性を強調し、情報収集衛星、すなわちスパイ衛星を自前で持つことを要求している。
専守防衛を国是とする日本にとって情報収集・分析・対応能力の向上は喫緊の課題です。そこで「日本が運営する情報収集衛星を保有すること」「情報本部の充実をはかること」の二つに最優先で取り組みます。
以上の防衛政策に続いて、「より望ましい日米安全保障体制」について述べられている。最初に、安保体制についての基本認識が語られている。
民主主義と自由主義経済という価値観を米国と大枠において分かち合い、米国と安全保障・経済面で緊密な関係を構築してきたことが、戦後日本の安全保障と繁栄に大きく貢献してきました。国民の安全確保は、国家にとって最も基本的な責務であり、国の平和と安全を守るためには、日本自身の外交防衛努力が基本となることは言うまでもありません。しかし、これと並んで、日米安全保障体制もわが国の安全保障政策の最も重要な柱であると考えます。
民主党の安保政策論の一つの特徴は、党首である鳩山の持論に影響されて、日本独自の努力、日本独自の国益が強調されていることである。これは、高度に発達した帝国主義的基盤を持つにいたった日本独占資本の相対的自立派利害を代弁している。たとえば、周辺事態法の運用にあたっては「わが国の主体性を十分に確保する」と述べたり、また、在日米軍基地のあり方については「不断に見直します」と言い、また日米地位協定についても、「運用改善・見直しに向け、米国と交渉していきます」と主張している。
アメリカに対する、このきわめて曖昧でおずおずとした「自立性」の主張は、日本独占資本の自立派の政治的脆弱さを示して余りあるものである。彼らはおそろしく臆病であり、アメリカの怒りを買わないよう細心の注意を払いながら、多少の「自立性」を獲得したいと思っている。そして、アメリカの怒りや不信を買わないための最大の保障は、けっして共産党とともにそれを要求しないことである。
民主党は、「自立性」を多少主張した後には、ただちに米軍のプレゼンスの意義を高く評価することで、バランスを保とうとする。
アジア太平洋地域において、経済的に圧倒的な存在である日米両国が外交安全保障両面で緊密な協力体制を築いていることが、この地域の安定要因になっています。またアジア太平洋地域における米軍のプレゼンスは、NATOのような集団的安全保障の枠組みを持たないこの地域の平和と安定に重要な役割を果たしています。当分の間、日米安保体制の実効性を高めることが、アジア太平洋地域の平和と安定のための重要な基盤と考えます。その際、日本としては、同盟国としての信頼関係を構築しつつ、米国の行動が米国の国益に偏りバランスを欠いたものとならないよう、率直に協議します。
米軍のプレゼンスへの最大限の賛辞と、それが「米国の国益に偏りバランスを欠いたもの」になる危険性への恐る恐るの言及、こうした態度は実によく民主党の本質を示している。
次に、民主党は国連と関係した自衛隊の活動について述べている。まず、日本のPKO活動については次のように述べられている。
国連が行う国際紛争の解決に向けての交渉、仲介や平和維持活動(PKO)の展開は、世界の平和と安定のため重要な役割を果たしており、日本もより積極的に協力していく必要があります。PKO活動については、「PKO協力法」施行後七年を経て国民の間にも理解と支持が定着したと認識し、国際的な平和の維持に対する積極的な貢献を行う基本的な政策と位置づけます。また、現在凍結中の紛争停止や武装解除の監視、緩衝地帯における駐留・巡回などのいわゆるPKF活動についても、その凍結解除に向け、国会審議を開始します。
このように、PKO活動の積極的評価と推進の姿勢を示しているだけでなく、いわゆるPKF活動についての凍結を解除することを求めている。
さらに民主党は多国籍軍への自衛隊の参加についても次のように述べている。
安全保障理事会で議論を尽くし、正式な決議が行われた場合には、その決議に基づく多国籍軍の役割は評価されるべきです。しかし一方で、日本国憲法は、多国籍軍の武力行使を伴う活動への参加を禁じていると考えるべきです。また、自衛隊が武力行使を行わない場合には自衛隊の多国籍軍への協力が憲法上可能ですが、戦争終了後の協力や資金協力を別とすれば、自衛隊の多国籍軍への協力については慎重を期すことです。
正式な決議がある場合の多国籍軍の行動やそれへの協力が無条件に支持され、武力行使が伴わない行動に自衛隊が参加しても合憲であると強弁されている。参加そのものについては「慎重を期す」と言われているが、けっして反対の姿勢はない。
しかし、多国籍軍の場合にかろうじて見られた「慎重な」姿勢は、国連軍の場合には見当たらない。
「国連憲章第四二条、第四三条の特別協定に基づく」という意味において正式の国連軍は未だ編成されたことがなく、当分の間その可能性は低いと考えられます。国連設立時の精神である国連を中心とする集団的安全保障体制の確立に向けて真摯な努力を続けるべきであり、正式の国連軍が編成される場合には、これに参加します。
国連軍への参加はもちろん、憲法9条からして絶対に認められないことである。民主党は、続く文章で憲法との整合性について検討するとうたっているが、参加の方向性に何の変化もない。
最後に沖縄の米軍基地問題については、国内への移設による整理・縮小だけが述べられており、全体としての米軍基地そのもの撤去、縮小については何も言われていない。
以上が、民主党が最近発表した選挙政策における防衛関係の政策である。周辺事態法の運用、有事立法の制定、PKF活動の凍結解除、多国籍軍への協力、国連軍への自衛隊の参加、アジア太平洋地域における米軍のプレゼンスの積極的評価、いずれも、日米支配層の求める諸政策を忠実に再現している。多少の「慎重さ」の強調はあるが、そうした限定は、世論を納得させる役割は果たしたとしても、日米支配層の手を縛るものにはまったくなっていない。
自由党の小沢や自民党内右派と違って、民主党は、自ら積極的に軍拡と帝国主義的対外政策のレールを敷くわけではないが、すでに敷かれたか、敷かれつつあるレールをしっかりと進むつもりでいる。この意味で、民主党は受動的な帝国主義派であると言えるのではないだろうか。