萩原遼元赤旗特派員による共産党批判について

10、陰謀論と北朝鮮敵視

 萩原氏の政治的限界は、続く文章にもさらに見ることができる。萩原氏は、この間の新ガイドライン法をはじめとする反動化に、何と金正日政権がアメリカの命令に従って意識的に寄与したという「陰謀論」を展開している。

 ガイドライン法は日米安保条約に賛成する日本の政治勢力がアメリカ政府の要請をうけて結んだものである。これに加えて北朝鮮の金正日政権もこれの成立に応分の役割を果たした。アメリカと北朝鮮は93年から94年にかけての北の核疑惑をめぐる戦争瀬戸ぎわの危機を94年10月の米朝合意によって手打ちした。このときアメリカは北朝鮮の核開発ストップを条件に金正日体制の擁護を約束した。食糧やエネルギーをアメリカに依存することによって北朝鮮はアメリカに弱みを握られた。同時に北朝鮮は、在韓米軍3万7000人という弱みを握り、いわばこれを人質にとった形でアメリカをゆさぶることを学んだ。両者はそれぞれ相手の弱みを握りながらも、圧倒的な力をもつアメリカには楯つけないヤクザの親分子分のような関係が生まれた。こうした関係の中からガイドライン法が生まれた。ヤクザの親分から「ちょっと暴れてこいや」と命じられた子分よろしく、北朝鮮は98年8月には日本に向けてテポドンを射ちこんできた。日本は大騒ぎとなり、TMD(戦城ミサイル防衛)の導入へと動きだした。そして99年3月、ガイドライン法の国会審議のまっさい中に“不審船”と呼ばれる北朝鮮の高速艇2隻が日本の領海で挑発行動をおこなった。「自衛隊はなにをしているのか!」の世論がたちまちつくられた。ガイドライン法は国会を通過した。
 この陰謀がまんまと成功したことに味をしめたアメリカは、ガイドライン法によってこれからの日本の政治を思いのままに操作できるキーボードを握ったといえるであろう。

 萩原氏は一方では、北朝鮮の金正日政権が日本に大量破壊兵器を打ちこむ可能性があると脅しながら、他方では、この同じ政権が、アメリカの言いなりになって、日本の反動勢力のために「応分の役割」を果たしてやったというのである。何という矛盾した説明であろうか? 何と北朝鮮というのは便利な存在なのだろうか。
 さらに萩原氏は、金正日について「ヒトラーを上回るファシスト」と呼んでいる。かつて、湾岸戦争のとき、イラクのフセイン大統領は「ヒトラーを上回るファシスト」と呼ばれ、イラクへの大規模な攻撃が正当化され、それによって10万人以上のイラク人が殺された。イラクがいったいそれだけの外国人をいつ殺害したというのか? いったいファシストに近かったのは、イラクのフセインなのか、それともイラク攻撃を指示したアメリカのブッシュなのか? ユーゴスラビアへのNATO攻撃のさいには、今度はミロシェヴィッチが「ヒトラーを上回るファシスト」と呼ばれた。そして今度は、金正日が「ヒトラーを上回るファシスト」と呼ばれている。だが、ヒトラーは、ユダヤ人をはじめとする民族的少数派を600万人殺しただけでなく、ソ連との戦争では、ソ連人民2000万人以上を死に追いやり、ヨーロッパでも1000万人以上を死に追いやった。ヒトラーは、次々と侵略と殺戮を繰り返し、あやうくヨーロッパ全土を支配下に収めかねなかった。金正日がヒトラーを上回るためには、北朝鮮の人民を全員殺しても足りない。そしていったいいつ、金正日が、他の国々に大規模な侵略を行なったというのか? 
 むろん、私たちは、フセインもミロシェヴィッチも金正日も、一瞬たりとも擁護するつもりはない。彼らはいずれも反動的独裁者であり、その国の人民の手によって打倒されなければならない。だが、彼らはいずれも小物の独裁者であり、ヒトラーの足元にも及ばないだけでなく、「民主主義的」政治家のブッシュにすら及ばない。これらのプチ独裁者たちを「ヒトラーを上回るファシスト」呼ばわりすることは、現在の情勢においては、アメリカ帝国主義にイデオロギー的に奉仕することを意味する。

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