雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

選挙への還元をはかる不破指導部

 いよいよ総選挙の日程も決まり、選挙に向けて各党が本格的に動き出している。その中でとりわけ共産党の動向が大きな注目を受けている。共産党がこの選挙でどのような結果を残すことができるかは、日本政治の今後にとって、当然、重要な意味を持っている。私たちもまた、それぞれの持ち場において、共産党の躍進のために奮闘する決意である。
 しかしながら、総選挙がいかに重要なものであれ、それに問題を還元することはできない。ところが、3月31日に東京体育館で行なわれた「全都・党と後援会総決起集会」で不破委員長は、長大な基調報告の中で、経営支部の直面する困難に言及して、次のような驚くべきことを述べている。少し長くなるが重要なので、引用しておきたい。

ある地区委員長の方がいうのですよ。”経営での活動がなかなかたいへんなのだ。要求がいっぱいあるから要求でたたかおうといっても、なかなか立ちあがってくれない。しかしそういう人たちに選挙で共産党を支持してくれというと、支持はしてくれる”と。
 私はその話を聞いて、実はそこに一番大事な問題があると思いました。
 というのは、今日の経営の実情をみますと、会社がおかれている状況や、組合の動きからみても、要求をもって職場で立ちあがって、そこで闘争の見通しをひらくということには、なかなかむずかしい問題があります。
 しかし、いまの世の中の特徴は、さきほど雇用問題の話をしましたが、政治を変えることがこれだけ全国的な問題になっている、その政治を変えてこそ大経営の雇用の問題でも中小企業の問題でも解決の見通しがひらける、そこまでみんなの身近な問題と政治とのつながりがはっきりしてきているときです。
 一方では、職場でも共産党員を差別するこれまでの体制が、一連の裁判で負け、現実にも崩れてゆく条件がありますから、その面では活動の条件が広がっています。だからいま、”要求ではたたかいに立ちあがってもらえないが、共産党支持ならやってくれる”というところに、活動のうえで一つの要となる点があります。
 共産党支持を思いきって広げ、労働者の要求もエネルギーも、そこへまとめて政治を変える力にするならば、それが労働者がいま職場にもっている力を、日本の政治を変える力として大いに発揮する道になります。そこに自信をもって活動してほしいということを、今日は一言、そういう悩みにこたえる問題としていいたいと思っているのです。(拍手)
 ”経済闘争をやって、そのなかで自覚が高まり、政治闘争へ発展する”という図式がよくあるのですけれども、世の中はそういう図式どおりには動かないのですね。政治の問題で矛盾が鋭くあるときには、そこにあらゆる力が集中して、そのことが経済を変える力にもなる瞬間ということがあるもので、今はまさに、そういう瞬間だということをよくわきまえて活動したいと思います。

 以上の引用文は、この間の不破指導部の戦術的方向性を決定した配慮が何であるかをきわめてはっきりと示している。経営支部をはじめとする下からの運動の困難さと行き詰まり、その一方での、共産党の選挙での表面的躍進、これをふまえて不破委員長は、下からの大衆運動の構築に力を割くよりも、選挙に集中すべきである、なぜなら、現在の情勢は、政治が焦点になっており、政治が変われば経済や雇用もすべて変わるからである、と説明する。まさに、われわれがこれまで何度となく指摘してきたとおりのことが書かれている。
 現在の不破指導部の日和見主義路線は、下からの運動の停滞ないし後退と表面上の共産党の選挙での躍進という2つの相対立する動きから生まれた。下からの運動を防衛し、その陣地を堅持し、粘り強く広げていくという地道な活動に展望を失った不破指導部は、選挙での躍進に目がくらんで、この方面に運動を集中させることで、情勢の打開が実現できると考えるようになった。「一点突破、全面展開」というわけである。
 「日の丸・君が代」問題をめぐる不破指導部の立場の根底にあったのも、これと同じ配慮である。「日の丸・君が代」の押しつけに反対する現場の闘争をこのままずるずる続けても展望がない、それならいっそう、法制化することですっきりした方がよい。これが、「日の丸・君が代」問題の「国民的解決」と呼ばれる「戦術」の根底にあった発想であった。
 だが、下からの運動が停滞ないし後退しているもとで、いつまでも選挙における躍進を続けることはできない。土台が侵食されつつあるもとで大きな建物を――しかも政権という大建造物を――建てようとするならば、その建造物もろとも土台が崩壊しかねない。しかも、その建造物そのものが手抜き工事の産物である。不破指導部は、しっかりと大衆運動という土台に根を張った柱や壁で建物を建てるのではなく、必死になって右にウイングを伸ばして、建築材料になりそうなものを片っ端からかき集め、まともな設計図(政策)もなしに突貫工事で建設しようとしている。このようにして建てられた建物は、少しでも嵐が吹けば倒壊し、その中の住民の生命を脅かすとともに、しっかりとした柱や土台部分までも崩壊させることだろう。

2000/5/12  (S・T)

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