日本共産党の総選挙政策の批判的検討

3、平和と憲法政策の検討(政策3)

 第3章「平和の憲法をつらぬくか、軍事優先で憲法踏みにじる道か」の冒頭には次のように書かれている。

「戦争はしない、軍隊はもたない」――自民党政権は、この憲法第九条をずたずたにする政治をすすめてきました。「軍隊をもたない」は、自衛隊創設によって破られましたが、こんどはアメリカがアジアでおこなう干渉戦争に日本も参戦するガイドライン法=戦争法がつくられ、「戦争はしない」の原則まで踏みにじられようとしています。

 まったく同感である(細かい話だが、ガイドライン法というのは不正確で、「新ガイドライン法」と書くべきだろう)。昨年成立した周辺事態法=新ガイドライン法によって、日本は本格的に米軍の後方支援という名の戦争行為を行なうことが定められた。日本とアジアの未来を左右するこの大問題を総選挙の重大な争点の一つにすることは当然のことである。しかし、「戦争はしない」という原則は、新ガイドライン法によって踏みにじられようとしているだけでなく、「有事の際には自衛隊を活用するのは、当然」と発言した不破指導部によっても踏みにじられているのではないのか? それとも、周辺有事の戦争だけが「戦争」で、日本有事の戦争は「戦争」ではないとでも強弁するつもりなのか? 
 共産党は、新ガイドライン法に反対して闘った。その取り組みは十分とは言えなかったかもしれないが、しかし立派な闘いであった。だが、安保条約が存続するもとでの日本有事において「自衛隊を活用するのは、当然」などと言い放つことは、この立派な闘いをも蹂躙することではないのか? いや、これまで一貫して平和運動に取り組んできた人々、自衛隊に反対して闘ってきた人々、その運動と理念を蹂躙することではないのか? 政権に入れば、有事の際に自衛隊を活用する(つまり「売られた戦争は買う」)と公言している政党が、「『戦争はしない』の原則まで踏みにじられようとしています」と言ってみたところで、説得力があるのだろうか?
 この章の問題はまだある。「戦争法の発動阻止。道理ある平和外交でアジアと世界に働きかける」という小見出しのついている文章には、何ゆえか「戦争法の発動阻止」について何も書かれていない。書かれてあるのはただ、「アジアの平和の流れを促進すれば、、朝鮮半島や台湾問題での発動をねらう戦争法を無力化できます」ということだけである。「戦争法の発動を阻止する」というのは、下からの大衆運動と世論によって行なうことだとばかり思っていたが、そうではなく、アジアの平和の流れを促進することで、そもそも戦争法を発動できない環境をつくることだけであったようだ。これは、かつて社公合意において、安保条約廃止の運動に取り組むよりも、国際的な平和的環境づくりを重視したのと、何が違うのだろうか? そのとき共産党は、この「国際環境づくり」論を、事実上の安保容認論だとして糾弾したものだ。
 問題はまだある。日本共産党は、昨年の6月に行なわれた4中総において、「戦争法の発動を許さない」政権を提唱し、次のような明確な基準を高らかに宣言した。

政権の問題は、情勢の展開に応じて、安保条約の廃棄の立場にたつ民主連合政府の成立以前にも、さまざまな形で日程に上ってくるし、いろいろな角度からの接近が問題になるということは、以前からあきらかにしてきました。どんな段階で、どんな形態の政権を問題にするときでも、私たちは、戦争法にたいする態度の問題を、政権の性格にかかわる基本問題として位置づけ、重視する必要があります。これは、戦前から侵略戦争に反対することを一貫した伝統としてきた党として、当然のことであります。

 つまり、どんな形態、どんな段階の政権であっても、「戦争法にたいする態度の問題を、政権の性格にかかわる基本問題として位置づけ、重視する」ということである。だが、このときの高らかな宣言はそれっきりとなり、その後、2度と省みられることはなかった。この「政策と訴え」においても、この「戦争法に対する態度」という基準について何一つ述べられていない。「戦前から侵略戦争に反対することを一貫した伝統としてきた党として、当然のこと」という高邁な自負はいったいどこに行ったのだろうか?
 さらにまだ問題はある。この「政策と訴え」には、かろうじて小見出しに「戦争法の発動阻止」とあるが、戦争法の廃止について何一つ書かれていない。不破委員長によれば、戦争法は9条を廃止する法律である。そして、共産党はこの「政策と訴え」で、憲法9条を守ると宣言している。ここで問題が生じる。9条を廃止する法律をそのままにしておいて、いったいどうやって憲法9条を守るというのだろうか? 力関係として実現できるかどうかは別にして(あらゆる政策がそうだ)、周辺事態法=新ガイドライン法の廃止をなぜ政策として掲げないのか? この点について納得のいく説明ができる方がいれば、ぜひ説明をお願いしたい。
 なお、この「政策と訴え」には、有事立法についてもかろうじてワンセンテンスだけ書かれている。

自民党政府は、戦争法を発動する準備として、有事立法の策定をねらっていますが、日本共産党はこのようなたくらみに反対します。

 これだけである。これほど重要な問題であるにもかかわらず、たったこれだけ。しかも、有事立法の策定を狙っているのは何も自民党政府だけでなく、野党である民主党も自由党もそうである。なぜこの重大な事実に触れないのか?

 さらに、「軍事費削減」問題は、財政再建を扱った項目(第2章と、「分野別政策」の最初の項目)でのみ扱われており、平和の問題、憲法の問題を扱っているこの章ではまったく言及されていない。自衛隊の存在こそ、安保・米軍と並んで9条を踏みにじる最たるものである。憲法擁護とアジアの平和のために、経済大国たる日本が率先して軍縮を行ない、最終的に軍隊を解消することが必要である。しかし、この「政策と訴え」においては、軍事費削減についてまったく言及がなく、単なる財政問題に矮小化されてしまっている。

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