雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

<雑録―2>共産党にいっさい「上下関係」がない?

 新たに委員長に就任した志位和夫氏は、11月29日に放映されたCS朝日ニュースターのインタビューの中で、新三役(議長、委員長、書記局長)について聞かれたなかで、次のように答えている。

 私たちは、党のなかにいっさい序列はつけないという考えなんです(小林「はい」)。これは、指導部間でも序列はないですし、それから中央委員会と、たとえば都道府県委員会、地区委員会、そして支部のみなさんの間にも、いっさい上下関係はない。今度の規約でも、「上級」「下級」という言葉は極力なくしたんですね。つまり、日本共産党員として、機能や役割の分担はしているけれども、負っている仕事はみんな尊いわけですから、そういう点では、みんな平等なんですね。

 実際に、党の現状がここで描かれているようなものだとすれば、それはすでに党内部で共産主義社会が実現しているということになるだろう。だが、もちろん、階級社会において、その階級社会を覆そうとする組織の中ですでに共産主義が実現することなどありえない。実際、共産党内部には峻厳な上下関係がある。規約でいくら「上級」「下級」という言葉を減らそうとも、どの機関に属しているかによって、各々の党員が持っている権限には、天と地との差がある。われわれ一般党員は、常任幹部会を招集することができないだけでなく、それを傍聴することもできない。その議事録を読むことさえできない。人事についていっさい口出しすることもできない。党の委員長(ないし議長)はマスコミで好きなだけ「内部問題」を外部に持ち出したり、決定と異なる発言をすることができるが、われわれ一般党員が同じことをすればたちまち「査問」の対象になる。党の幹部は、実質的に一個の分派として行動することができるが、一般党員が同じことをすれば分派活動の罪でたちまち除名される。党の幹部はいつでも横の連絡をもって全国的に行動することができるが、一般党員は支部の範囲内でしか行動することができない。党のトップに関しては、その規律違反を問えるような党員はどこにもいない。いったんトップになったなら、けっしてそのトップを辞任させることはできない、等々、等々。
 なすべきことは、「上下関係などございません」などという見え透いた嘘をつくことではなく、実際に存在する上下関係、序列、権力関係を承認した上で、トップが暴走できないような実質的仕組みを確立すること、上級が誤りを犯したときには、下級からでもそれを是正し、必要とあらば役職から解任することのできる仕組みをきちんと整備すること、上級の権力を制約する明文的な制度を整備すること、下級組織および一般党員の権利を実質的に保護し発展させる明文の保障を設けること、権利が侵害された場合に、それをすみやかに是正し救済する制度をつくること、少数派が多数派に転化できる制度を整えること、等々である。
 現代の民主主義的憲法は、まさに社会に存在する権力関係を承認した上で、その権力を民主主義的に制約し、権力を相対的にもたない人々の権利を保護するという観点のもとに構成されている。しかし、スターリン以来の共産党の規約は、そのような観点とはまったく反対に、できるだけ上級の権力を確保し、できるだけ権限を上級に集中し、下級が上級に対して組織的に逆らえないように念入りに構成されている。近代ブルジョア憲法にさえ劣るそのような規約のあり方は、「党と国家とは違う」あるいは「党のルールと社会のルールは違う」、「党は自由結社である」、「党は闘う前衛党であり、討論クラブではない」という理屈で正当化されてきた。今回の新規約においても、「上級」「下級」という言葉はたしかに減らされていても、上級機関や幹部の権力を制約し、下級組織および個々の党員の権利を実質的に保護する新しい仕組みは何一つ導入されなかった。それどころか反対に、かつての規約でさえ保障していた多くの権利が、実質的にはほとんど守られていなかったという理由で、あるいは、いかなる理由も提示されることなく、削除された。今回の規約改定によって、上級の権力はますます増大し、一般党員の権利はますます卑小なものとなった。党内の民主主義的手続きによって少数派が多数派となる可能性は、以前にもまして完全に閉じられた。「政権交代」の可能性は、党そのものが崩壊するのでないかぎり、絶対に不可能になった。民主主義的なルールにもとづいて政権交代を実現することが絶対に不可能な体制を、人は「独裁」と呼ぶ。その意味で、わが党の内部体制は、「上下関係がない」どころか、究極の上下関係たる「独裁」体制にかぎりなく近くなった。
 こうして、党幹部がマスコミ向けに語る建前と、現実に存在する党内の実態との乖離は、党創立史上、最もはなはだしいものになっている。党幹部が語る言葉は、偽善という厚化粧にますます覆われている。だがどんなに厚化粧しても、党官僚による独裁という醜い素顔を隠すことはできない。

2000/11/30  (S・T)

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