ドイツ共産党のインタビュアーは第二の質問として、「ブルジョア・マスコミも自衛隊にたいする日本共産党の態度の変更に大きな注目を寄せました。あなたは、日本共産党のこの新しい態度をどう定義しますか」と尋ねている。それに対する不破議長の回答を見てみよう。
日本の憲法は、日本が「戦力を保持する」ことを禁止する、つまり、常備軍をもたない、という特別の条項をもっています(憲法第九条)。日本共産党は、この条項を、日本が平和的な進路をすすむうえで、また世界の平和に独自の貢献をするうえで、きわめて積極的な意義をもつ条項だと評価しています。……
わが党は、以前から、自衛隊が憲法違反の存在であることを明確に指摘し、この状態をあらためて、日本が、憲法第九条の完全実施、すなわち自衛隊の解消にむかってすすむべきことを、主張してきました。憲法と自衛隊の問題で、こういうきちんとした立場に立っている政党は、日本では日本共産党のほかには存在しません。
すでに何度もわれわれからその誤りを指摘されているにもかかわらず、不破議長はあいかわらず、憲法9条をめぐる嘘を繰り返している。とりわけ、日本の事情や憲法9条をめぐる学説的到達点について何も知らないであろうドイツ人のインタビュアーに対して、このような嘘をつくことは、なおさら許しがたい。
まず「日本の憲法は、日本が『戦力を保持する』ことを禁止する、つまり、常備軍をもたない、という特別の条項をもっています(憲法第九条)」と不破議長は言うが、憲法9条は「戦力一般」と「国権の発動による戦争」全般を禁止しているのであって、「常備軍」だけを禁止しているのではない。いいかげん、このような初歩的な嘘をつくのはやめたらどうか。さらに、不破議長は「憲法と自衛隊の問題で、こういうきちんとした立場に立っている政党は、日本では日本共産党のほかには存在しません」と言うが、これも見え透いた嘘である。新社会党も、憲法9条を完全実施する立場であり、しかも、9条の言う戦力を「常備軍」に限定していないし、自衛隊の活用を容認する立場でもない。どちらが「きちんとした」立場であるかは、はっきりしている。
不破議長は続けて、昨年の党大会における新しい方針に関する説明に移り、次のように述べている。
今回の第二十二回党大会の決定の特徴は、自衛隊の解散を将来の目標として一般的に主張するだけでなく、二十一世紀の早い時期にこの目標を完全に達成することをめざして、どのような道筋をとおってそこに接近してゆくかを、段階を追って明確に示したところにあります。
この展望では、
(1)現在の自民党政権のもとで、自衛隊の海外派兵と憲法改悪に反対し、軍縮を要求してゆく段階、
(2)民主的な政府を樹立し、そのもとで日米安保条約(アメリカとの軍事同盟)を廃棄するとともに、それに対応する内容で自衛隊の改革と軍縮を逐次実行してゆく段階、
(3)自主的な平和外交でアジアにおける平和的な国際関係の構築に貢献しながら、自衛隊の解消への国民的な合意をすすめてゆく段階、
などが大きな区切りとなるでしょう。
この道をすすむ過程では、民主的政府が成立したあとでも、自衛隊が存在する時期が過渡的には当然生まれてきます。党大会の決定は、この時期に、国民の安全をまもるために自衛隊の役割が必要とされる情勢が生まれた場合には、自衛隊を「活用」することもありうることを、明らかにしました。これが、新しい問題提起として、マス・メディアでもかなりの関心を呼びましたが、問題の核心は、わが党が、そういう過渡的な時期の問題までふくめて、自衛隊の解消への道筋をより全面的に明らかにしたところにあったのです。
「問題の核心」は、もちろん、「そういう過渡的な時期の問題までふくめて、自衛隊の解消への道筋をより全面的に明らかにした」ことにあるのではない。なぜなら、このような段階解消論は今から20年近くも前に、すでに社会党が明らかにしているからである。この段階解消論は結局、自衛隊の長期存続論でしかなく、90年代の自衛隊堅持論の序曲でしかなかった。したがって、20年遅れの段階解消論を唱えたことが、問題の核心ではない。昨年の大会決定の核心は、次の三つである。
1、自衛隊の当面存続を、「力関係」の不利さによるやむをえないものとしてではなく、アジアにおける完全な平和が実現するまでは自衛隊は平和の維持に必要であるとする「自衛隊必要論」にもとづいて正当化したことである。この立場から自衛隊そのものの容認まで、数歩しかない。
2、自衛隊の解消に向かう条件として、万万万が一でも侵略の可能性がなくなってから、という非現実的な基準を持ち出したことである。これは事実上、自衛隊の半永久的存続論である。
3、そのような長期的に存続しつづける自衛隊を、必要な場合には「活用」することを「政治の当然の責務」としたことである。
だが、以上のような核心的ポイントについて、不破議長は、このインタビューで、あえて語らないか、あるいは、曖昧に語っている。まず、1と2のポイントについては、何も語っていない。3についてはかろうじて語っているが、大会決議では「政治の当然の責務」と傲慢に言い放ったのにもかかわらず、このインタビューでは、「党大会の決定は、この時期に、国民の安全をまもるために自衛隊の役割が必要とされる情勢が生まれた場合には、自衛隊を『活用』することもありうることを、明らかにしました」としか言われていない。「活用することもありうる」などという言い方は、明らかに大会決議の立場と矛盾する。実際、『赤旗学習党活動版』で出された意見の中には、「当然」という言い方をやめて、場合によっては活用することもある、という表現にすべきではないか、というものもあった。だが結局、党中央はこのような意見を却下した。自衛隊の活用は、「ありうる」などという曖昧な表現ではなく、「政治の当然の責務」として是認された。
これは、党中央の立場が多少なりとも変わったことを意味しているのではなく、相手に応じて言い方を変えているにすぎない。右派世論やマスコミに向けては、「万万万が一の危険性がなくなってから」とか「自衛隊の活用」の側面を強調し、党員や支持者に対しては「自衛隊をなくす具体的な道筋を明らかにしたのだ」という側面を強調し、「活用」については曖昧な言い方をする。すべての人を満足させ、すべての人に受け入れてもらおうとする。これが、「多数者革命」ならぬ「多数者迎合」路線の必然的帰結である。