都議選の結果と参院選の展望(座談会)

2、石原都政への「是々非々」論の問題性

 次に、今回の都議選で、指導部の立場としていちばん深刻な問題だと思われる、石原都政への「是々非々」の立場について意見をどうぞ。

 これは、私の周りでも本当に不評だった。これでは選挙は戦えない、という声も多くの人から聞いた。おそらく、私の周囲だけでなく、もっと広範にそういう声は挙がっていたと思う。これまでの保守都政で、共産党が基本的に対決ではなく「是々非々」で取り組んだ都議選は、たぶん、今回が初めてだと思う。前回の青島都政のもとでさえ、基本的には対決姿勢が中心だった。しかも、石原都政は、単なる保守都政の一つではなく、最も悪質で反動的な新保守都政だ。防災訓練に名を借りた自衛隊の治安出動訓練も、本当に戦争並みのものすごさだったし、「三国人」発言や「民族DNA」発言もファシスト顔負けだ。また、ディーゼル車の排ガス規制に取り組んだというが、臨海副都心開発は手つかずであり、この開発事業によっていっそう自動車公害がひどくなるのは目に見えている。シルバーパスの廃止にしても、老人医療助成の縮小・廃止にしても、これまでのどの保守都政もやらなかったことだ。いわば、福祉の聖域に手をつけたもので、これまでの保守都政の福祉切り捨て路線と一線を画した福祉大リストラだ。いくら、共産党が、福祉切り捨て反対を言っても、「是々非々」を言いつづけるかぎり、石原都政はそんなに悪いものではないらしい、という意識が有権者に広がり、結局、石原がやっている「悪いこと」に対する都民の意識もちっとも先鋭にならない。共産党がやっていることは、いわば、絶えずブレーキを踏みながらアクセルを吹かそうとするものだ。あるいは、マッチを絶えず湿らせながら火をつけようとするものだ。これでは、とても闘えない。敗北して当然だと思う。

 たしかに、私も「是々非々」論は大問題であり、党指導部の大失態だったと思う。しかし、それだけで今回の敗北の原因とすることはできないと思う。やはり異常な小泉人気が大きな原因になっていると思う。

 もちろんそうだ。しかし、今回の「是々非々」論が、革新的世論の中で、共産党に対する権威や信頼を決定的に傷つけたことは明らかだ。これは、ちょっとやそっとでは回復できないダメージだ。革新票自体が少なくなっているので、選挙の動向にそれほど大きな影響を与えないという言い方も可能かもしれないが、それはたぶん、革新系有権者に対する過小評価だと思う。
 その点で重要だと思うのは、今回の現職都議の中で、おそらく最も一貫して石原都政と対決してきた杉並区の福士敬子が、4年前の都議選の時よりも8000票以上も票を伸ばして当選したことだ。彼女は、組織のない一人会派の都議であったにもかかわらず、ここまで票を伸ばした。この杉並区では、共産党は何とか現職議員を当選させたとはいえ、得票率は激減している。前回の19・12%から10.91%へとほとんど半減だ。票数も6000票以上減らしている。このことを重視すべきではないのか? 石原都知事の人気に恐れをなして、「是々非々」を打ち出した共産党が半減し、組織もないのに石原都政への対決姿勢を鮮明にした福士が大幅に得票を伸ばした。これは、石原好きの無党派票に迎合する路線が根本的に間違っていたことを示しているといえるのではないか。

 たしかに、その選挙結果は重要だ。共産党が首尾一貫して、石原都政の反動性を主張し、それとの対決路線をしっかりと構築していたら、今回のような大敗北は免れたかもしれない、と私も思う。でも、まだ少し引っかかるのは、社民党の票の出方だ。社民党もいちおう石原都政反対だったと思うが、今回、大幅に減らして、唯一の議席も失っている。

 そもそも、一議席しかなかった社民党が石原都政に対決してきたかどうか疑問だし、たとえいくつかの反動法案に反対していたとしても、そのイメージはとても有権者には伝わっていないだろう。

 その点を正確に判断するために具体的な数字を挙げておくと、実は、社民党は言われているほど票を減らしていない。トータルで見るとたしかに、社民党は共産党と並んで票を減らしているが、実はこれは、前回立候補していたいくつかの選挙区で立候補を見送ったことで生じた得票減だ。前回と今回両方に立候補したところだけを見ると、社民党は、むしろ得票を増やしている。たとえば品川区では、前回4894票から6980票へと2000票以上も増やし、得票率も4・74%から5・33%へと増やしている。大田区でも、4406票から1万953票へと6000票以上も増やし、得票率も2・10%から4・04%へと倍増している。板橋区でも、4463票から1万2298票へと8000票近く増やし、得票率も2・73%から5・94%へとこれも倍増だ。だから、必ずしも社民党が票を減らしたとはいえない。前回と今回両方立候補者を出したところを総計すると、減らした選挙区もあるが、トータルでは約1万5000票も得票を増やしている。

 なるほど。そのような細かい数字までは見ていなかった。すると、実質的に得票を減らした革新候補者は共産党の候補者だけということになるのかな。そうだとすれば、やはり共産党自身の問題を改めて問う必要が出てくる。

 私もその点は非常に重要だと思う。けっこう活動家の中では、今回の敗北にショックを受けながらも、あの小泉人気なら仕方がないとか、公明党の組織票が民主党に流れたからだとかいうような形で今回の敗北を他力的に総括してしまう傾向も見られる。よくよく見れば、そんな簡単ではないということがわかるはずだ。もちろん、前回、無党派票をとくに多く集めた共産党が、今回の小泉人気であおりを食ったという側面はあるし、公明党の組織票の動きもあったのだが、そればかりを強調すると、主体的問題の方に目がいかなくなる。

 その点でもう一つ聞きたいことがある。各種の世論調査を見ても、石原への支持率は8割にものぼっている。そうした中で、反石原を打ち出してもどれだけ浸透力があるかが問題だ。

 たしかに、石原への支持率が異常に高いのは事実だが、そんなことを言えば小泉もそうであって、小泉政権にも「是々非々」でいいということになる。さらに言えば、高い支持率というのは、主体の取り組みと無関係な単なる所与のものではない。共産党が2年前の石原都政成立時点から一貫して石原の危険性を訴え、それとの対決姿勢を明確にしていたら、石原に対して中立的な部分の一部は批判派に、支持派の一部は中立になったかもしれない。共産党がこの2年間というもの一貫して「是々非々」主義でやってきたことで、逆に石原の高支持率を支える役割を果たしてきたとも言える。さらに、今年の2月からは、事実上のみならず、宣伝の面でも「是々非々」主義を大いに強調するようになった。これは不破の積極的なイニシアチブでなされた転換だが、これによって、「共産党でさえ是々非々なんだから、石原もそんなに悪い人物ではないらしい」と考えた有権者も少なからずいたはずだ。このことの犯罪性は本当に深刻だ。

 まとめると、今回、やはり石原都政に「是々非々」で臨むという基本路線そのものが、根本的な誤りであり、それがまた、選挙での敗北にもつながっているということでいいだろうか。

 その点でもう一つだけ最後に言っておきたいのは、選挙の敗北の原因が何であれ、あの極右の石原に対する「是々非々」という立場そのものが、左翼政党、革新政党として絶対に許されない裏切り行為だということだ。選挙で敗北したから問題だ、というような捉え方にとどまるのは絶対に間違いだ。選挙で勝とうが負けようが、石原都政に対して徹底対決しかありえない。これは、左翼政党としての原則の問題、歴史的な存在意義の問題だ。

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