都議選の結果と参院選の展望(座談会)

3、民主党と公明党

 先ほど、社民党の話が出たが、多くの選挙区で共産党と最終議席を争った民主党についてはどうか? ちなみに具体的に挙げておくと、共産党現職が次点で、民主党候補(推薦を含む)が最下位当選だった選挙区は、港区、文京区、目黒区、渋谷区、中野区、世田谷区、立川市、日野市、北多摩3区の合計、9選挙区にも及んでいる。11議席減のうち、ほとんどが民主党に競り負けたという格好になっている。そして、競り負けた選挙区の少なからぬところで公明党は候補者を出しておらず、さっきも少し話に出たが、公明党の組織票の一部が民主党に回された可能性は大きい。

 さまざまな情報からして、それはおそらく間違いないだろう。しかし、ここでも「悪いのは公明党」と言ってすますことはできないと思う。ここでは、共産党指導部の戦略上の誤りと戦術上の誤りの二つが重なっていると思う。
 まず、戦略的誤りについて言うと、共産党は、1998年の参院選での大躍進以来、いやより正確には、その少し前あたりから、「オール与党批判」を後景に退けて、民主党に対する宥和路線をとってきた。民主党は、97年末の新進党の解体とその有力な一派(羽田孜など)の合流によって、97年の都議選時点よりもはるかに新保守主義的なブルジョア政党になったにもかかわらず、共産党指導部は1997年当時に堅持していた「総保守化」論を撤回し、民主党への露骨な接近を試みた。参院選直後の首相指名選挙では、第一回の投票から菅直人に投票することまでやった。当時の不破委員長は、安保政策を棚上げしてまで、民主党を含む暫定的な野党連合政権案を一方的に打ち上げた。それ以降も、共産党指導部は、時おり、「健全な野党批判」を口にしつつも、実践においては、民主党に対する本格的な批判を回避しつづけた。これによって、民主党との綱領的・政策的対決点がひどく曖昧にされてしまった。今回の都議選でも、たしかに、シルバーパス問題などで、民主党もその有料化に賛成したという文脈で民主党批判もしたが、民主党のもつ特殊な問題、すなわち、新自由主義政党としては自民党よりも右であるという本質についてはほとんど問題にしてこなかった。このことが、今回の都議選での競り合いで、大きな失敗をもたらしたと思う。
 もう一つの戦術的ミスだが、共産党指導部は、民主党への批判を回避する一方で、今回の選挙でも、またそれ以前でも、公明党たたきを全党挙げて取り組んできた。『しんぶん赤旗』を見ても、毎日のように公明党に対する批判の記事が掲載されている。これは、公明党の反共意識をますます増大させ、今回の選挙において不必要な困難を作り出した。今回、公明党は立候補者の全員当選を死守するという選挙方針をとっており、候補者を出していないところでは、公明党が候補者を出している選挙区に票移動させただけでなく、共産党と競り合っている民主党にも一部票を回すということもした。これが、最終版での競り合いで、共産党にとって非常に痛い結果となった。公明党幹部はほくそ笑んでいることだろう。しかし、公明党は、今日の支配階級の路線の中では、何ら中心的位置を占めていない。公明党は基本的に、共産党と同じく、「構造改革」によって切り捨てられる層に依拠している。その反共主義はすさまじいが、階層的には同じ味方の位置にある。にもかかわらず、共産党は、この2年間、公明党批判に異常な執念を燃やしてきた。もちろん、公明党の反共謀略ビラは許せないし、それに対する原則的な批判は必要だが、共産党のとった対応はむしろ、公明党=創価学会との泥仕合という印象を強く有権者に与えるものだった。これは、はっきりいって、戦術的に重大なミスだったと思う。

 いくつかの重要な論点が提示されたが、まず民主党に対する戦略的誤りについてお願いします。

 おおむね同じ意見だが、少し異論がある。今回、共産党はいちおう、小泉「改革」にきっぱり反対という立場で選挙に臨んだ。この点で、改革推進の民主党との政策的対比をそれなりに形づくったと思う。その点は評価されていいのではないか?

 たしかにその通りだ。小泉政権の「構造改革」路線に共産党が反対したのは正しいし、それは立派なことだが、しかし、この反対論は、いくつかの点でその威力を殺がれてしまっていた。
 まず第一に、いま問題になっている民主党に対する態度そのものだ。共産党は小泉改革を、大企業と大銀行を助け庶民に痛みを押しつけるものとしてきっぱり反対し、民主党は、われこそは小泉改革の元祖であり、自民党に代わって小泉改革を最も積極的に推進していくのだと主張している。まさに正反対である。このような対立は、『さざ波通信』がこれまで繰り返してきたとおりである。つまり、共産党と民主党とは、その依って立つ階層的基盤も、政策的方向性も、綱領的立場もことごとく正反対であり、最も深く対立しているというのが、『さざ波通信』がその開設以来一貫して主張してきたことだ。にもかかわらず、共産党指導部は、政策的方向性が正反対の民主党といっしょに政権を作ることができると主張し、その実現に並々ならぬ熱意を示した。こうした態度によって、党員のみならず、支持者の民主党に対する姿勢はまったく曖昧模糊としたものになってしまった。あたかも、同じ方向性を持っているが、それが不十分なだけの政党であるかのように認識されてしまった。もちろん、不破委員長(当時)などは、時おり、民主党が共産党と反対の方向から自民党を批判している、という言い方をする時もあったが、そのような基本的な点を、倦まずたゆまず宣伝するようなことはまったくしてこなかった。共産党が、公明党に対して行なった批判のせめて半分でも民主党批判に費やしていたら、状況はまったく変わっていただろう。話を戻すと、このように共産党が、小泉改革と対決するといいながら、その小泉改革を推進するという民主党とほんの少し前まで政権を作ろうと努力してきたことは、今なお有権者の記憶に新しい。このことは、小泉改革批判の威力と権威を大きく引き下げた。
 もう一つ、共産党の小泉改革批判の威力を殺いだのが、先ほどから問題になっている石原都政への「是々非々」論だ。今回、都議選において自民党が出したポスターの中で最も目立っていたのは、小泉の顔をどーんと真中に配置し、その横に大きく、「石原知事と共に改革断行」というスローガンを入れたポスターだ。このポスターは町じゅうに貼られ、非常にインパクトもあった。つまり、小泉は、石原都政の方向性がまさに、小泉改革を先取りしているとみなしているのだ。そして、これは正しい。小泉内閣のみならず、有権者も、石原と小泉をかなり重ねて見ている。にもかかわらず、共産党は、この瓜二つの石原都政と小泉内閣に対し、一方には「是々非々」という及第点を与え、もう一方には「弱い者いじめ」という落第点を与えた。これでは、有権者は混乱するばかりだし、共産党の訴えもまったく胸に響いてこない。

 たしかに、石原と小泉に対するこのような評価の使い分けは、二枚舌と思われかねないし、戦術的にも賢明ではなかった。そういえば、かつてのタカ派首相である中曽根は、最近マスコミに登場して、自分と小泉と石原と鳩山は同じタイプの政治家、同じDNAをもつ政治家だとうれしそうに語っている。そこにはたぶんに、自己顕示欲の現われもあるのだが、その言っていることはだいたい当っていると思う。この4者に共通しているのは、国家主義的民族主義と新自由主義への固執だ。そして、この二つこそ、現在の支配層の基本路線だ。

 そう。そして共産党は、この4者のうち、2人(中曽根と小泉)には反動政治家として落第点を出し、残り2人(石原と鳩山)には「是々非々」の及第点を与えている。このような成績評価にはいかなる首尾一貫性も、原則性も、説得力もない。

 もう一つの論点であった公明党についてはどうか?

 この点については私もまったく同意見で、公明党との泥試合にはいささか辟易している。今回の選挙でも、最終日の深夜に、一部地域の共産党組織は、中心的活動家を動員して、公明党の謀略ビラ(と思われるもの)に対する反撃ビラをいっせいに配布した。これはもちろん、都委員会から降りてきたビラだ。例の、共産党専従者による少女強制わいせつ事件をネタにしたビラに対する反撃なのだが、このビラはわれわれの所でも非常に評判が悪かった。このビラはたぶん、共産党への得票を減らしただけだと思う。

 私のところにはそのようなビラは入っていなかったが、知り合いに聞くと、謀略ビラの方は入らず、共産党の反撃ビラだけが入っていて、非常に悪い印象をもったそうだ。

 選挙最終版に謀略ビラを出すのはもちろん許せないことだが、しかし、それに対しては共産党はもっと堂々と落ち着いた姿勢を見せてほしい。必死になって反撃ビラを撒くことに、貴重な組織力、労働力、時間を費やすのは馬鹿げている。これは本当に組織にとって消耗だし、撒く側もちっとも元気が出ない。基本的な政策論争を回避して、反共イメージに訴えるのが謀略ビラの目的だとすれば、こちらがそれにいちいち反応して反撃ビラを出したりすれば、それはむしろ敵の思う壺になっているような気がする。

 同感だ。根本的な対決軸は、共産党と公明党の間にあるのではなく、小泉、石原、民主党、自民党の保守・新保守陣営と、共産党を含む革新陣営との間にある。この基本的対決軸を握って離さず、それを中心にすべての論戦を組み立てていくべきだ。その基本的対決軸さえ有権者の中に明らかにできれば、保守・新保守の陣営に組み込まれている公明党の本性もまた明らかになる。公明党の反共攻撃に対しては、ビラの中の小さなコラムで一言二言触れるだけでいい。

 以上をまとめると、民主党、公明党をめぐって共産党の戦略および戦術に重大な誤りがあったこと、それが今回の選挙でも大幅な議席減につながったということですね。

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