都議選の結果と参院選の展望(座談会)

4、党指導部の総括の仕方

 今回の都議選の結果に対する党指導部の総括の仕方について論じてほしい。6月29日に都道府県委員長会議が開かれて、かなり詳細な総括が行なわれたようだが。

 まずこれについて言っておきたいことがある。今回、これほどの大きな歴史的後退を喫したにもかかわらず、都道府県委員長会議での不破議長の都議選総括報告の全文が、今なお『しんぶん赤旗』に発表されていないことだ。参議院選挙に関する志位委員長の報告は7月1日に掲載されたが、不破議長の報告は要旨が報道されただけで、なぜか全文が公表されていない。いったいこれはなんなのか? これほど重大な問題について、なぜ都議選総括を全党員に公表しないのか?

 それはたしかにおかしい。志位委員長の報告にしても、なぜか共産党のホームページにはアップされていない。不破議長の報告が公表されないかぎり、全党での正確な討論など不可能だ。いったい指導部は何を考えているのか?

 6月30日の『しんぶん赤旗』を読むと、どうやら不破議長は「石原都政の誕生とそれへの態度」という重要論点についても報告したようだ。このテーマでいったいどのような報告がなされたのか、これは非常に興味深いし、全党員が知るべき問題である。多くの党員はみな口をそろえて、是々非々論は問題だと主張していた。この問題が都道府県委員長会議で報告されたのに、われわれ一般党員は何が報告されたのか知らないというのは、いったいどういうことか。

 その他の点についてはどうか? 『しんぶん赤旗』の報道では、今回、共産党の得票率(15・6%)が、昨年総選挙における東京ブロックでの比例得票率(14・3%)を上回ったことを非常に強調していて、言わばそこに希望を見出しているようだが。

 それははっきり言ってまったく非科学的な分析だと思う。なぜ今回の都議選で共産党の得票率は昨年の総選挙比例区での得票率を上回ったのか? それは簡単な話だ。比例選挙では、どの地区、どの地域にいても、すべての政党選択肢が保障されている。つまり、有権者は、どこにいても、比例区に候補者を出しているすべての政党の中から自分の支持する政党への一票を入れることができる。それに対して、都議選では、各選挙区ごとの政党(ないし無所属)候補者の中から投票相手を選ばなければならない。その選挙区で、社民党が候補者を出していなかったら、革新系有権者は共産党候補者に入れるしかない。共産党はすべての選挙区で候補者を出したが、社民党はたったの6選挙区しか出していない。ということは、この6選挙区以外では、社民党に入れるという選択肢はなく、したがって革新系有権者は共産党に入れるしかない。都議選での共産党の得票率が、昨年の総選挙の得票率を上回ったのは、これが決定的であって、別に共産党への支持が昨年から伸びた結果ではない。

 ちなみに数字を示しておくと、昨年の総選挙での比例得票率ではなく、小選挙区得票率でみると、東京で共産党は平均15・8%を獲得しており、これは今回の都議選の平均得票率15・6%を0・2ポイント上回っている。

 数字は嘘をつかない。今回の都議選では、小選挙区選挙の場合とよく似た効果が生じている。他に革新政党の候補者がいなければ、唯一の革新候補者に革新票が集中し、実力以上の得票率が得られることになる。だから比べるべきは、比例の得票率ではなく、むしろ小選挙区の得票率だ。それと比べて今回減っているということこそ問題にすべきだろう。なのに、不破議長も『しんぶん赤旗』も、小選挙区得票率については黙して語らない。

 さらに細かい数字を示しておくと、今回の都議選で、社民党や革新系候補者がまったくいない選挙区での得票率と、革新系候補者が他にもいた選挙区での得票率を比べると、前者では全体として平均得票率を上回る得票率を獲得しているのに、後者では逆に全体として平均得票率を下回る得票率しか得ていない。たとえば、福士敬子が立候補した杉並区では、共産党候補者の得票率は10・91%で、平均得票率を5ポイント近くも下回っている。また、社民党が候補者を出した区部の品川区、大田区、世田谷区、板橋区、練馬区を見ると、この5選挙区における共産党候補者の平均得票率は約12・8%で、都全体の平均得票率を2・8ポイントも下回っており、昨年の総選挙での東京都比例得票率よりも1・5ポイント低い。また、区部以外でも、社民党候補者が出た八王子市では、共産党候補者の得票率は13・44%で、やはり全体の平均および昨年の総選挙比例得票率よりも低い。逆に、自民党候補者との一騎打ちとなった1人区の青梅選挙区と昭島選挙区では、共産党候補者の得票率はそれぞれ24・62%、28・39%で、平均を10ポイント前後も上回っている。

 社民党候補者ないし革新無所属候補者と競合した選挙区で、平均して共産党候補者が昨年の総選挙での得票率よりも低い得票率しかとれなかったということは、共産党は、昨年の総選挙時点から力を増大させたのではなく、むしろさらに引き下げたという教訓が出てきてしかるべきだろう。

 ちなみに、昨年総選挙の東京での小選挙区を見ると、自民党との一騎打ちとなった選挙区は一つもなく、立川、青梅でも3人が立候補している。だから、今回の都議選の方が有利だったともいえる。

 そういう細かい数字はなかなか一般の人が知らない事実だ。たしかに、今回の都議選の得票率が昨年総選挙での比例区得票率を上回ったのだと言われると、共産党の成績はそんなに悪くないのかなと思わされてしまう。私もそう思っていた。ところで、共産党の得票率が昨年総選挙の比例区での得票率を上回ったことには、そういった選挙制度の違いによる票の出方の差以外には何か要因があるのだろうか。

 これはおそらくあまり数字的には重要な意味を持っていないが、政治的に意味があると思われる要因は、昨年の総選挙の時は、共産党の政権入りが取りざたされ、下手すれば共産党がかつての社会党の二の舞になる危険性があり、あえて共産党への投票を控えた左派有権者がかなりいたが、今回は地方選挙であり、しかも共産党の後退は最初から明らかだった。昨年の総選挙では共産党への投票に躊躇した左派有権者も、今回は共産党に一票を投じただろう。そういう要因も、数字的にはごく小さいが、おそらくあるだろう。

 ところで、不破議長の報告では、民主党との力関係を、共産党に有利な方向で大きく変えることができたという総括になっている。つまり、昨年総選挙における民主党の得票は東京比例区で約165万票、共産党が約80万票と、民主党が共産党の2倍獲得したのに、今回の都議選では民主党が約65万票なのに、共産党は75万票獲得したからだが。

 それも一部は数字のマジックだと思う。民主党はすべての選挙区に候補者を出しているわけではない。また、もっと重要なのは、たしかに、昨年の総選挙時と比べて民主党との力関係が大きく変わったが、これは別に共産党が力を伸ばしたからではなく、単に民主党が小泉人気のあおりで激減したからにすぎない。民主党は共産党は比べものにならないぐらい無党派票に依拠した政党だ。しかも、小泉改革のおかげで民主党は完全に埋没した。小泉人気のあおりを最も受けた政党は間違いなく民主党だ。これを力関係の有利化とみなすのは危険だと思う。単に、自民党に野党全体が水をあけられた結果にすぎない。

 民主党は昨年総選挙の比例票から100万票を失い、自民党は60万票を増やした。おそらく、自民党が増やした票のほとんどは民主党から移行したのだろう。公明党はトータルで昨年の総選挙での得票とほとんど変わらない。今回公明党が立候補したのはたったの23選挙区だけなのに同じだけの得票を得たということは、恐るべき組織力だ。

 いずれにせよ、不破議長の報告は、共産党に関するかぎりかなりいいかげんで大雑把な比較をしているという印象を免れない。そもそも全文を読むことができないので、どこまで数字を出して語っているのかわからないが、『しんぶん赤旗』の報道を見るかぎりではかなりいいかげんだ。

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