参院選を振り返って(座談会)

2、投票率の問題

司会 小泉首相のあの圧倒的な人気のもとで、投票率が6割を越えるのは間違いないと見られていましたが、実際にふたを開けてみると、投票率は56・44%で、前回の58・84%よりも2ポイント以上低い結果になりました。これはどうしてでしょう?

 これは2つの側面から考える必要があります。今回の投票率が前回より低かったという側面ばかりが強調されていますが、しかし、92年、95年の参院選と比べるとかなりの高率です。92年は約50・7%、95年は史上最低の投票率で44・52%でした。全般的な投票率低下という歴史的傾向からすれば、今回の56・44%は前回と並んでかなり高い投票率であったと見るべきでしょう。
 それでも、前回より低くなったのは、1つには、小泉の姿にキャーキャー声援を送っていた若い層が必ずしも政治的関心と結びついておらず、必ずしも投票所にまでは足を運ばなかったということが考えられます。
 もう1つには、小泉政権が成立してからしばらくの時間があったおかげで、有権者の中に多少の迷いないしバランス感覚が生じた結果だとも見れます。その「迷い」にはさらに2種類あると思われます。
 1つは、おおむね小泉政権支持派の「迷い」ないしバランス感覚です。どういうことかというと、各種の世論調査で小泉自民党の圧倒的勝利が明らかになってきた。こういうときに、あえて自分が投票に行かなくても小泉自民は勝つだろう、という感覚です。
 もう一つは、小泉改革に対する支持から少しづつ離れかけた層の棄権です。政権成立当初は小泉改革に大きな期待をかけ、5月か6月ごろまでは小泉自民党に入れようかと思っていた人が、その後の論戦の過程の中で、必ずしも小泉改革はいいことばかりではないということに気づきはじめた、しかしだからといって、明確に反対というスタンスをとるところまでは行かない、そこで棄権した、ということです。自分が棄権すれば、結局は、小泉自民優勢の状況のもとでは自民党を勝たせる役目を消極的に果たすことになるわけですけれども、これらの有権者は、棄権することで一種の消極的支持を小泉に与えたと思われます。積極的に賛成も反対もしないが、とりあえず一回やらせてみよう、それからもう一回判断しよう、という感覚です。
 前回、共産党に投じた人々のかなりの部分は、こうした形で棄権に回った可能性があります。これは、あとで共産党の敗北について語るときにもう一度言及する機会があると思います。

 圧倒的な小泉人気で、結果がみえているから棄権した、そういう人が小泉内閣を支持する側にも、反対する側にもいたでしょうね。また、当日の投票率の推移をみると、日中の暑さがそういう棄権を後押ししたように思えます。

 それと同時に、全体的傾向としてやはり、選挙や政党政治そのものに対する不信あるいは無関心というのも、小泉内閣の登場のいかんにかかわらず、社会全体として進行しているという側面も見逃せないと思います。1995年の参院選は歴史的低投票率で、50%を大きく割ったんですが、このときも、自民党に対抗する新進党という大政党があって、自民党に対する現実的な対抗政党が存在するようになり、また93年の改革騒動がまだ覚めやらぬ状況でした。そこに参加した公明党も猛烈な組織戦を展開しました。そうした状況であったにもかかわらず、投票率は44%という信じがたいほど低い数字でした。その後、投票時間が延長されるなどしたおかげで、投票率が持ち直しましたが、やはり全体としての低下傾向は否めないと思います。

 その背景として、全体としての社会システムから取り残された部分ないし脱落した部分が投票に行かなくなったという現象が起きているのかもしれません。アメリカではすでに、下から10分の1の低所得層の投票率は10%程度であり、逆に上から10分の1の高所得層の投票率は90%です。アメリカの選挙制度はとっくに、社会の上から3分の1の人々によって選挙結果がすべて決まる階層社会になっています。日本でも、階層分化のせいで、そのような状況に近づいているのかもしれませんね。

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