朝日記者との不破インタビューを評す

 「テロは世界を変えたか」と題した不破議長のインタビュー(以下、単にインタビューとする)が『朝日新聞』10月26日付に掲載され、10月29日と30日には、そのほぼ全文が『しんぶん赤旗』に掲載された。このインタビューは、そのタイトルが示すように、9月11日の米同時多発テロ事件を契機として世界の現状をどのように見るかがテーマになっており、事件後のアメリカによる「報復戦争」と日本の政治状況に関するものから、グローバリゼーションの捉え方やマルクスの思想まで、実に多岐におよんでいる。その意味で、現在の日本共産党指導部の思想と基本的立場を知るには、格好の材料となっている。
 ここでは、構成の都合上、インタビューの順番には関係なく、いくつか重要と思われる点について検討する。引用は、『しんぶん赤旗』に掲載されたものである。

1、ゆがめられたマルクスの「科学の目」

 まず、最後から2つめの項目「マルクスは、それぞれの社会の独自の発展の論理を探求した」の中で、不破議長(以下、不破氏)は、マルクスが歴史的事件について語るときの姿勢を以下のように述べている。

 彼はアメリカの新聞の通信員でしたから、たとえばスペインでなにか大事件がおきて、つっこんだ論説を書こうとするときには、必ずスペインの歴史を徹底的に勉強して、スペイン社会の内的な発展の論理をつかみだす努力をしたものでした。世界を図式的な枠にはめこむようなことは絶対にしない。その社会の歴史そのもののなかから、どういう進歩の流れ、発展の論理があるのかをつかみだすのです。だから、アジア社会を見るときにも、アジア社会の研究のなかからこの社会がどういう進歩の展望をもつかを明らかにしようとしました。
 私たちが、マルクスから学ぶべきものは「科学の目」です。十九世紀の世界を見て彼が出した結論の一つひとつが二十一世紀に通用する値打ちをもつわけではない、という場合は、たくさんあります。しかし、十九世紀の世界を見たその方法、考え方のなかには、いまに生きる科学性があるわけですから、この「科学の目」をうけつごうということを、私は自らの指針としています

 ここで言われていることはその限りでは正しい。しかし、マルクスがある社会の「内的な発展の論理」をつかみだす努力をする際には、必ず階級的視点を持っていたということを付け加える必要がある。マルクスは、被抑圧階級と支配階級との闘争が歴史を作るということを忘れることはなかった。われわれが『さざ波通信』の創刊号から縷々(るる)指摘しているように、不破氏の基本的思想は「国民主義」というべきものであり、マルクスの階級的観点とは異なっている。
 では、不破氏が言うところのマルクスの「科学の目」によって、米同時多発テロとその後の「報復戦争」でゆれるイスラム社会を彼はどのように見ているのか? 先の引用のあと、次のように言う。

 その目で見ると、先ほどいいましたように、イスラム社会が第二次世界大戦が終わってからのこの半世紀のあいだに発展させてきたものは、民族自決であり、民主主義の前進であり、人権の前進なのです。国ごと民族ごとに、いろいろな道を通りながら、また時には逆流も経験しながら、歴史も世界も進歩してゆくわけで、最後は、それぞれの国で「国民が主人公」になる方向に発展してゆく、私は、世界史のこの大きな流れは変わらないと思います。

 これがマルクスの「科学の目」で見たものなのだそうである。イスラム社会が「逆流も経験しながら、歴史も世界も進歩してゆく」――これが、人類が神よって創造されたと広く信じられていた時代に言われた言葉であるなら進歩性もあるだろうが、これでは実際には何も言っていないに等しい。このインタビューは、従来からの階級的視点の欠落に加え、このような不破流「科学の目」で貫かれていることをまず確認しておく。
 「科学の目」が明らかにしなければならないことは、いかにして進歩するのか、である。そのための具体的事実の具体的分析こそが求められている。

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