朝日記者との不破インタビューを評す

3、テロについての新規定とお粗末なアメリカ批判

 三つ目は、インタビューのメインテーマである米同時多発テロに関する不破氏の基本的な見方についてである。インタビューに沿って見ていこう。
 彼は、テロが「局地的な問題」から「世界全体が対処しなければいけない二十一世紀の大問題になった」と規定している。

 いままでテロというのは、基本的には世界でもあれこれの地域での局地的な問題だったのですが、それが文字どおり国際テロとなり、世界全体が対処しなければいけない二十一世紀の大問題になった、ということは明白だと思います。
 「何が変わったか」という最初の設問にもどりますと、世界を脅かす形で国際テロの問題が現れたこと、さらに、国際社会がこの問題にどのように対応して解決するかという問題が提起されていること、こういう点に、二十一世紀的な新しい問題があると思っています。

 不破氏のテロに関する新規定は、「明白だ」と言うだけで何の理由も根拠も示していない。テロ行為の発生した場所がリビアだったら「局地的な問題」で、アメリカ本土だったら「世界全体が対処しなければいけない二十一世紀の大問題」になるとでも言うのだろうか? そうではあるまい。
 おそらく不破氏がテロについて「世界全体が対処しなければいけない二十一世紀の大問題になった」と言うとき、彼が念頭に置いているのは、彼が力説してやまない「国連主導の平和秩序の建設」のことであろう。つまり、結論が先にあるから、テロが「二十一世紀の大問題」になった理由を示せないのである。いずれにせよ、われわれにとって必要なことは、具体的事実の具体的分析であって、もったいぶった言葉で具体的事実を規定したり定式化したりすることではない。
 今問題とされているのは、テロ一般ではない。それは、アメリカを標的としたジハード(聖戦)を糾合するイスラム急進派の武装・テロ組織であり、それはソ連軍の侵攻(79年)後のアフガニスタン内戦においてアメリカ帝国主義やその中東における同盟国(パキスタンやサウジアラビア)によって育成された「アラブ・アフガン」と呼ばれるジハード組織に端を発している。また周知のように、今回の米同時多発テロに関与したとされるウサマ・ビンラディンらのイスラム急進派の武装・テロ組織は、タリバン支配下のアフガニスタンにその根拠地をもっている。
 ソ連撤退後(89年)のアフガニスタンは、この地域の天然資源とその利権・輸送路に利害関係をもつロシアやイラン、そしてアメリカの重要な同盟国であるパキスタンなどによる介入によって内戦が激化し、アフガン国内の民族間の亀裂はぬきさしならないものになった。こうして国が荒廃したところへ、パキスタンなどで学んだイスラムの神学生らによる原理主義的運動体であるタリバン(「学生」という意味)が平和を切望するアフガン国民の世論を背景に急速に支配地を広げて現在にいたった。だが、タリバンは、中東におけるアメリカの同盟国パキスタンの人的・資金的支援を受け、サウジアラビアの宗教警察をまねた弾圧組織でもってその特異な社会制度をアフガン人民に押しつける反動勢力である。タリバンがその同志たる「アラブ・アフガン」と呼ばれるイスラム急進派の武装・テロ組織を庇護したのは、当然のなりゆきであった。そして、この過程においては、アメリカが「“あとは野となれ”式の態度をとった」(インタビューより)とは少しも言えないのである(『タリバン』アハメド・ラシッド著、講談社、を参照)。
 いずれにせよ、今回のテロ問題は、「世界全体が対処しなければいけない二十一世紀の大問題」というよりも、アフガニスタン内戦と深く結びついた問題なのである。
 もっぱら抽象的な規定でことたれりとする不破氏は、この「大問題」なるものについての解決方法についても、ごく一般論以上のものを提示しえない。

 これは国家間の戦争ではないのです。相手は国際組織、国際的なテロ集団であって、地球上、どこでなにをやるか分からない勢力です。それを本当に追いつめるためには、全地球的に、どこの国でもこういうテロは許さないという意思統一が政府レベルでも国民的規模でもなされ、テロ勢力にはどこにも足場も逃げ場もないという状態を地球上につくりだすことが先決です。

 この主張なら、世界中どこのテロ組織についても同じことが言えるだろう。テロを生んだ「社会の内的な発展の論理をつかみだす努力」などまったく必要ないのではないか?
 実際にアフガニスタンの歴史をたどり、その「内的論理」をつかむならば、テロ組織を根絶するためにまずもって必要なことは、アフガニスタンの各軍事勢力に向けての他国からの援助・介入をいっさい排することであろう。それだけでも、タリバンの支配力も、テロ組織の勢力も十分に弱まる。※
 その点においても、パレスチナにおけるイスラエルの国家テロを黙認しているのと同様に、サウジアラビアやパキスタンによるアフガン内戦への介入を支援ないし黙認したアメリカ帝国主義の罪は巨大である。彼らにはそもそもテロの根絶を語る資格はない。それどころか、アメリカ帝国主義が対タリバン戦争に踏み切ったことは、彼らが民間人の犠牲をいとわず、アフガン内戦に直接武力介入してその支配勢力の転覆を狙っているということだ。そして事態の経過は、彼らの狙いどおりにすすんでいる。それは、湾岸戦争やユーゴ空爆と同様に、民族自決に対するじゅうりんであり侵略行為である。
 どんなに困難であろうとも、テロの根絶の条件たるアフガンの変革はアフガン人民の事業であり、アメリカ製のハイテク兵器によってもたらされるものではない。
 不破氏のアメリカ批判には、このような民族自決の観点はまったくない。

 それをやらないで、使いなれた方法というか、戦争という手段に訴えてしまった、しかも、アメリカなど一部の国の決定だけでそれをやってしまった。しかも、その戦争は、報復戦争という色合いを日増しに強めています。ここに、大きな問題があります。

 不破氏のアメリカ批判は、国連を通じてやるべきことをやらずに「戦争という手段に訴えた」から問題だということにつきる。
 湾岸戦争以後これまで、アメリカ帝国主義は、自国に向けられるテロ行為に対しては、国連などおかまいなしに軍事力の行使で応えてきた。その際、化学兵器生産の可能性があるという理由でスーダンの製薬工場を爆撃(98年8月)するなどの犯罪行為を繰返している。
 ビンラディンに対しても、すでにアメリカは、彼の首に多額の懸賞金をかけてきたし、アメリカにおける彼の資産凍結、「アルカイダ」施設に対する爆撃(98年8月)などの「警察的」手段をつくしてきた。今回の「報復戦争」は、これまでの武力攻撃・警察手段に留まらずに、テロ組織をかくまっているタリバンを打倒するという侵略行為に踏み切ったところに、その画期がある。
 不破氏が力説してやまない「国連主導の平和秩序」を本気で追求するのであれば、こうしたアメリカ帝国主義の戦争行為(これこそ世界最大のテロである!)に対する断固たる糾弾と闘争を展開し、世界中のどこにも軍隊を派遣できなくなるくらいにアメリカ帝国主義を追いつめる努力こそ必要なのである。

※テロ対策として避けて通れない問題に、テロ組織の資金源となっている麻薬密売や武器密売の取り締まりがある(ちなみにアフガニスタンは世界最大の麻薬生産国である)。とりわけ違法な資金の「洗浄」のためにしばしば利用される「タックスヘイブン」の問題にメスを入れる必要があろう。いずれにせよ、これらの手立ては軍事・非軍事に限らず「制裁」をうんぬんする以前にもできることである。

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