朝日記者との不破インタビューを評す

5、政治的力関係の軽視

 最後は、「テロ対策特別措置法」の成立にいたる小泉内閣の「手法」についての捉え方である。不破氏は次のように語っている。

 私がこんどのいきさつで注目しているのは、後藤田正晴氏のように、これまで自衛隊海外派兵などの問題で苦労してきた人が、「このやり方は何だ」と言い出していることです。いままでなら、憲法を破るなら破るなりに、それなりの論立てを積みながらやっているわけです(笑い)。ところが、こんどの“小泉手法”というのは、論立てなしが特徴です。たとえば、巡航ミサイルを発射したところは戦闘地域かと質問すると、「ミサイルが真っすぐ飛んでゆけば戦闘地域で、あとから人の操作がくわわれば戦闘地域でない」とか、どこにもちだしても噴飯ものの議論が、とめどもなく飛び出してくる。法案の法解釈そのものが、法律的にまったくの無防備なんです。

 自己の優位を「笑い」で誇示する不破氏のクセの善し悪しはさておき、この法案の成立をめぐる政府答弁の支離滅裂さについては、まさしく彼の指摘通りである。
 だが、われわれ革新・護憲勢力にとってより重要なことは、政府答弁のレベルの低さをあざ笑うことではなく、むしろ憲法9条をふみにじる法案が、いいかげんな答弁でろくに審議もされずにやすやすと国会を通過してしまう日本の政治状況をどのように捉え、それをいかに打開していくのかにある。
 しかしながら、不破氏はこうした政治状況について、その困難さに立ちむかい、いかに活路を開くかという政党指導者としての観点はなく、評論家的な態度に終始し、事態を楽観視している。

 たしかに自公保の数の多数はあるのですから、この数にものをいわせて、国会を突破することはできます。しかし、大きな問題は、小泉内閣はこの無責任な政治手法でどこへ日本をもっていこうとしているのか、このことについて、国民のあいだに非常な不安が広がりつつあることです。

 このような不破氏の見方に対して、インタビュアーが「いまだに小泉内閣の人気は高いのですが、これはどう思いますか?」と向けても、例の「笑い」で答える始末である。

 ものごとはやはり質的な変化をおこすには一定の時間がかかりますからね。まだそこまではきていない。(笑い)
 しかし、いま沈殿しつつある批判の累積というものは、やがて政治をも動かす非常に大きな力になってくると思いますね。

 さらに、この10年間の政治的右傾化、憲法9条がないがしろにされていく過程をどうみているのかという質問についても、同様の楽天的な答えを繰りかえしている。

 政治の舞台の変わり方と、国民レベルの変わり方とは違うと思うんですよ。先ほど憲法問題についての「朝日」の世論調査の結果を話しましたが、そこにはやはり健全なものが現れています。
 日本の改憲派は、憲法九条の改定を直接問題にするということではどうもことはうまくすすまないと考えて、九〇年代のはじめごろから、「環境問題がふれられていない」とか「在日外国人の権利が明記されていない」、だから「憲法は古くなった」など、からめ手から攻めようという動きに出てました。そのとき、私たちは、日本の憲法は、国民の権利の問題でも世界のなかで先進的な内容をもっているということを大いに強調しましたが、いずれにしてもそういう議論が横行したのです。その結果でしょうか、先日の「朝日」の世論調査では、からめ手を本気にしての憲法改定の意見が比較的多くありましたが、改憲派が改悪をねらっている本命の憲法第九条については、「守るべきだ」が多数になっている。これは大事な結果だと思いました。
 政治のほうはどうか。自民党の政治というのは、昔から「理屈はあとからついてくる」といわれた世界なのですが、このごろは、あとからでも理屈をつけること自体が嫌になって(笑い)、理屈なしで走ってしまうというところまできてしまっている。これも、私はそう長続きできるものではないと思います。国民がこうした政治手法にたいする危なさを感じているというのは、戦争問題と生活問題の両面でいま並行してすすんでいることですから。

 このように、政治的右傾化について聞かれた不破氏は、世論調査の一部だけをとりあげ、それには「健全なもの」(!)があるから「長続きできるものではない」と評論家よろしく答えるだけなのである(実際には、この10年で改憲を支持する世論が護憲を上回るように変化してきている)。政党指導者としての政治的責任や使命をどれほど考慮に入れているのか、はなはだ疑問に思わざるをえない。
 現在の日本の政治状況は、もちろん、国会内における保守・改憲派と革新・護憲派の力関係が圧倒的に保守の側に優位にあることを背景にしていることは言うまでもないことである。しかしそれだけでは、小泉内閣の強引なやり方を説明することはできない。それは、日本人の犠牲者も出した米同時多発テロによって、世論が全体として右へシフトし、国会外の運動の力が弱めらているからこそ可能になったのではないのか? 主として多国籍企業に利害関係を有する層からの在外邦人の安全に関する不安とそれを背景にした「危機管理」意識の強まりなど、この間の国民各層の意識変化を押さえておく必要があろう。それらを踏まえた上で、事態を打開するためにいかに闘いを組織していくのかが共産党に問われているのである。
 だが、世論に「健全なもの」があると語る不破氏は、憲法9条をめぐる問題についても、「日の丸・君が代」法が国会に提出されたときの「国民的討論」論を性懲りもなく繰りかえしている。「日本は国連協力も『非軍事』で」の項目の中で、不破氏は次のように語っている。

 今年の憲法記念日の前に、朝日新聞で憲法についての世論調査を発表していました(五月二日付)。憲法そのものにはいろいろ意見がありますが、第九条を守るか守らないかといったら、「守る」というのが多数派でした(第九条を「変えない方がよい」74%、「変える方がよい」17%)。あの自民党総裁選の直後で、政界では改憲論が活気づいた時期の調査だっただけに、注目しました。
 私は、これは、いまみたいなコソコソした議論ではなく、真正面から議論すれば、国民は意思統一できると思っています。いままでの歴代政府がやってきた、正面からの議論を避けてごまかしで憲法を崩してゆこうというのが、政治も憲法も堕落させる道です。

 運動の閉息状況を十分理解している不破氏は、「日の丸・君が代」問題のときに彼がそう考えたように、「正面からの議論」を主張することで、憲法の問題でも事態を打開できると信じているのかもしれない。そうだとすれば、それは、運動を起こすための起爆剤を「上から」投下するという一種の政治的博打(ばくち)である。つまり、国民の世論を信じて下から闘争を高揚させていくのではなく、地道に続けられている運動をもてあそぶ行為である。われわれはそのようなやり方を断固として拒否する。

 以上のように、このインタビューは、日本共産党の議長である不破氏が、思想的にもマルクス主義から離れ、帝国主義秩序を擁護する側にますますつきすすんでいることをこのうえなく明らかにしている。もはや不破氏に共産党の指導をまかせるのは危険である。われわれは不破氏を議長職から即解任することを要求する。

2001/11/6-8、 17-19 (T・T編集部員)

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