右傾化の新段階
 ――海上保安庁法改悪案に賛成した日本共産党

1、党史上はじめて安保関連法に賛成

 日本共産党は、10月16日の衆院テロ問題特別委員会で、海上保安庁法「改正」案に賛成した。日本の安全保障関連の法律に賛成したのは、党史上はじめてのことである。
 今回の海上保安庁法「改正」案とは、海上保安庁の巡視船が「不審」と認めた船に対して、この船が停戦命令に従わないときに、相手の船体を射撃し人命殺傷しても罪を問われないという「危害射撃」を認めるものである。この海上保安庁法「改正」案は、政府がこの5年間で成立をめざす「中期防衛力整備計画」の主要な柱の一つであった。今回の同時テロ事件のような特殊な背景がなければ、猛烈な反対世論との衝突は避けられず、およそ今国会の形式的な審議で強行できる類のものではなった。
 この法律は、戦力の不保持、「武力による威嚇」はもとより、「武力の行使」を認め、しかも武力の行使にあたっては「先制攻撃」を認めるという明確な憲法違反の法律である。日本共産党は当初、これらの法案を審議するための特別委員会の設置や、国会での趣旨説明に反対した。しかし、海上保安庁法「改正」案については採決の当日に、与党3党と自由党、民主党らともに突如賛成に回った。さらに29日の参院本会議でも賛成にまわった結果、憲法違反の法律が、参院の96%(反対したのは社民党の8名のみ)という圧倒的な賛成によって成立してしまうという異常事態がおこった。
 日本共産党は、16日のテロ対策特別委員会での採決について、翌17日の「しんぶん赤旗」で、ほとんどの読者が気づくことのできないような小さな記事で、次のように報道した。

日本共産党/海上保安庁法改正案に賛成 2001.10.17「しんぶん赤旗」
 衆院テロ問題特別委員会で16日、海上保安庁法改正案の採決がおこなわれ、日本共産党は賛成しました。
 海上保安庁法改正案は、日本の領海内に侵入した外国の「不審船」が、停船命令に従わず、逃走しようとした場合に、海上保安官が威嚇だけでなく、船体への射撃ができるようにするもので、射撃によって人に危害を与えても違法性をとわない要件を定めるものです。
 海上警備は海上保安庁の任務であり、日本共産党はその権限強化は必要なことだとして賛成しました。自衛隊法改悪法案も、自衛隊に同様の権限を与える規定を盛り込んでいますが、これには反対しました。

 これは、いったいどういうことか? 「射撃によって人に危害を与えても違法性をとわない」という言葉は、他でもない我が党自身の言葉である。日本共産党は人命殺傷を認めるというのか? テロ関連3法を阻止するために私たちは集会を組織していたのではないのか? いつ、どうやってそんな方針がだされたのか? このような基本的な疑問に、この記事はなに一つ答えなかった。「さざ波通信」にも投稿が寄せられたが、党本部には少なくない疑問の声が寄せられたに違いない。
 翌18日、ようやくこの問題に関する公式見解が発表された。以下が全文である。

海上保安庁法改正案─主権侵害に対抗する警察力の強化は必要
2001年10月18日(木)「しんぶん赤旗」

 日本共産党は、十六日の衆院テロ問題特別委員会で、海上保安庁法改正案に賛成の態度をとりました。
 日本の領海内で挙動不審な行動をしたり犯罪の疑いがある外国船舶に対応するのは警察力であり、それが海上保安庁の任務です。
 いわゆる「不審船」などによる領海侵犯などがあった場合、軍隊である自衛隊ではなく、第一義的には警察力で主権の侵害を守るのというのが、日本共産党の考えです。
 その海上保安庁の能力に問題があれば、きちんとした機能強化が求められます。たとえば、海上保安庁の巡視船の速度が遅くて「不審船」などに追いつけない状態では困りますから、巡視船の高速化、大型化が必要です。
 また現行法では、法令違反などの疑いがあり、停船命令を出しても従わず、逃走する「不審船」を停船させる手段として武器の使用を認めています。このとき威嚇射撃はできますが、人に危害を与える恐れのある、直接船体に射撃することは許されていません。
 今回の改正では、当該船舶が法令違反などの疑いがあり、かつ停船命令を出しても抵抗・逃亡しようとする場合に、最終手段として、人に危害を与えても罪に問われない「危害射撃」を認める要件を定めるものです。
 日本共産党は、「不審船」に対する立ち入り検査などは必要なものであり、停船命令に従わずに逃亡する場合には、危害射撃によって逃亡を阻止することが必要との立場から、今回の法改正に賛成したものです。
 こうした危害射撃は、実際の運用では慎重さが求められることはいうまでもありません。
 なお今回の自衛隊法改悪法案で、自衛隊に海上保安庁と同様の権限を与える規定をもりこんでいましたが、日本共産党はこれには反対しました。

 この公式見解は、法案に賛成した理由についての説明を試みているが、そもそもなぜ説明が採決の前ではなく、「事後報告」となったのかという点は答えていない。つまり、「抜き打ち」で賛成にまわったということは、事実上認めたものとなっている。
 また内容についても噴飯ものである。武力の行使を「主権の侵害に対抗」と言い換え、危害射撃の容認を「警察力の強化」と言い換える。これは、「構造改革」という名で、国民生活を破壊する小泉・自民党の手法とほとんど同じだ。すでにトピックスで批判をしたとおり、99年に「不審船」が能登半島沖で発見され逃走したという事件に対して、「もっと有効に対処しなければならない」「法整備をしてしっかりとした防衛を」といった政府・マスコミのキャンペーンに日本共産党もまんまと乗せられたかたちになってしまった。

 そもそも共産党のような階級政党にとって、日本の主権問題を、なんら定義をすることなく論じることなどできるだろうか? 単刀直入に言えば、現在の日本で、日本人民の「主権」をもっとも脅かしているのは、アメリカ帝国主義と日本独占資本である。この「2つの敵」が日本の政治を支配し、経済・外交・軍事を牛耳り、さまざまな権力機構を通じて人民を支配している。たとえ、選挙権があっても、彼らの権力が揺るがないためのあらゆるハードルが設けられている。このしくみに批判的な世論はマスコミでは決して扱われない。日本共産党の主要な任務は、このような政治支配体制を打ち破っていくことである。
 しかるに、今回のテロ関連3法案とは、アメリカを中心とした「普通の国」列強による世界秩序のなかで、日本が本格的にその役割を担っていくためのものであり、「2つの敵」による支配を、このうえなく強化する法案なのである。
 また、護憲・平和運動にとっても、「警察力」増強によって「主権」の侵害に対抗せよという主張は、二重・三重の裏切りである。たとえ自衛隊の解消をめざしたものなのだと釈明したとしても、やろうとしていることは武装船による危害射撃なのである。これは、海上自衛隊のかわりに海上保安庁を軍隊化させる主張である。しかも、現実の国会では、今回の海上保安庁法「改正」は、自衛隊の解散・縮小とセットで提出されたものではまったくなく、逆に国家機密法の一部を取り入れた自衛隊法の改悪とセットで提出された。自衛隊の存在が前提である以上、国会議員団がとった行動と党指導部の説明は、現実には軍拡をもたらす行動であり主張なのである。これは軍事費の削減を掲げているわが党のこれまでの政策にも反する。党の路線、大会決定にしたがうなら、どう解釈しても賛成などできるものではない。

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