かつて、戦後間もない時期に海上保安庁が設置され、その「警察力」を肥大化させたり、軍事的性格を強化させるように企てられたときに、日本共産党は徹底して闘い、その危険性と支配層の狙いを明らかにしてきた。
例えば、1950年に、海上保安官の武器使用基準が広げられ、量的にも警察力の増強がなされようとしたときには、これが人民支配の体制を強化するものであると指摘し厳しく批判した。
第7回参議院本会議(1950年5月1日;板野勝次議員の国会質疑)
共産党はこの法案に反対であります。
この改正案の第一の特徴は、地方の管区本部が国警の全国六管区制と完全にマッチするよう改正されましたけれども、管区本部の設置箇所の争奪に会いまして現行通りにはなりましたが、明らかに警察力増強と共に海上保安庁が人民弾圧の武器に性格を変えようとするものであります。
第二の特徴は、旧海軍軍令部から受け継いだ管船課を主とする新設の船舶技術部と現地採用によつて旧海軍軍人が圧倒的多数を占める哨戒課が警備救難部の中心となつて、管船区と同様に旧軍人からなる掃海課を中心として動く航路啓発所のいわゆる第一線の勢力が、事実上海上保安庁の中枢を占めるように強化されるのであります。
第三の特徴は、海上保安官が任務遂行に当って武器の使用範囲が警察官と同様拡大されたこと、又非常事変に察しまして附近にある人及び船舶に対して協力を求めることにしてありますが、これこそ曾ての国家総動員の戦後版であります。
第四の特徴は、主として62隻の旧海軍掃海艇に乘つて瀬戸内海方面の掃海に従事していた掃海課所属の旧軍人約2000名は、海上保安庁職員の定員1万名から除外されており、新らしく警察権を持つ海上保安官に登用されるような巧みな措置がとられ、臨時職員だという名目で増員される危険性が多分にあります。
改正の主な特徴点は以上のようなものでありますが、本法案の改正の裏には、警察力の増強に対応した保安庁機能の強化と旧海軍省の復活が企図されているのであります。即ち昨年七月下旬に結ばれた海上保安庁と国警との業務協定、並びに同年十二月九日に結ばれた海上保安庁と国家消防庁との協力規定、及びマル秘となつております非常配備規定等は、警備救難部哨戒課が中心となつて旧海軍の戰時船舶部署標準等を参考として作成したもので、国警や自治警の非常事態発生に対する配備規定に呼応し、想定される事態は天災地変と犯罪暴動の二つでありますが、明らかに大衆運動仰圧の意図を秘めているのであります。
また1951年に、政府が海上保安庁内に海上保安隊(52年4月に設置され同8月に分離独立したのち、54年に海上自衛隊になった)を設置してその軍事的性格を強めようとしたときには、憲法の平和主義を最大の武器として徹底抗戦した。
第12回衆議院内閣委員会(1951年11月16日;加藤充議員の質疑)
日本共産党は本法案に対して反対であります。
日本はその憲法において、ただ、戦争と武力による威嚇または武力の行使はせぬと宣言しただけではなく、その宣言を履行するために、陸海空軍その他の戦力は一切保持せず、国の交戦権を認めないと規定しておるのであります。だから戦力である迫撃砲やロケット兵器を持つような警察予備隊や国警、海上保安隊を持つこと、及び軍事協定により日本が提供するものが、軍事力であろうと、軍事基地その他の方法であろうと、他国と共同防衛の協定を結ぶがごときは明らかに憲法違反であります。このことは自衛権だというようなごまかしは断じて許されないのであります。
さらに最近においても、海上保安庁の巡視船の武装ぶりを調べあげ、武装した巡視船は、憲法の平和主義に抵触し、およそ対外的に用いることなどできないという立場から論陣を張った。90年の不破委員長(当時)の国会質疑をみてみよう。
衆議院;国際連合平和協力に関する特別委員会 (1990年10月25日)
○不破委員 今度は、海上保安庁の船舶を利用するという条項がありますが、海上保安庁のどんな船を使うつもりですか。
○丹羽政府委員 お答え申し上げます。
基本的には海上保安庁の巡視船を使用するつもりでおります。
○不破委員 さっきの防衛局長の話だと、小さいものじゃ無理なようですね、派遣するのに。中型、大型の巡視船が何隻ありますか。
○丹羽政府委員 海上保安庁の巡視船につきまして、中型、大型というのがどこまで当たるかというのはいろいろな考え方があると思いますが、仮に私どもがつけておりますPL型、PM型ということで考えてまいりますと、PL型が全部で四十七隻、それからPM型が四十七隻でございます。
なお若干、先ほどの御質問につきまして単純にお答えしましたものですから、真意が伝わらないといけませんので申し上げますが、海上保安庁の巡視船を輸送に使うというつもりではございません。
○不破委員 海上保安庁の巡視船の一番大型のものは、私の調べですと十隻あって、十隻全部四十ミリ機関砲、二十ミリ機関砲、三十五ミリ機関砲で武装していますね。それから、今言われたPLという大型巡視船は、三十七隻あるうち三十六隻が四十ミリ機関砲、二十ミリ機関砲で武装しています。それから、中型PMも、三百五十トンですが、四十二隻のうち四十隻が二十ミリ機関砲で武装しています。こういう巡視船を今度の平和協力隊に協力を求められますか。
○赤尾政府委員 三条二号の「平和協力業務」がいろいろとございますが、その中に被災民の救済等がございまして、主として平和協力本部の……(不破委員「武装の話ですよ、どんな任務であろうが」と呼ぶ)依頼します任務のことでございますね。私は今、どういう仕事を頼むのかというふうに理解しましたものですから私が出てまいりましたけれども、考えられる業務といたしましては、例えば被災民の巡視船による救済でありますとか、傷病者に対する救急医療活動、あるいは沿岸国への搬送等の業務が考えられます。
○不破委員 答弁する人は、質問がわかる人に立ってもらいたいですね。海上保安庁といったって、巡視船は圧倒的部分が、中型以上は武装しているのですよ、二十ミリないし四十ミリの機関砲で。その機関砲を持った船を協力隊にそのまま動員できますかということを聞いているのですよ。だれか、やはり将来の本部長、答えてくださいよ。
○柳井政府委員 輸送ということではございませんけれども、海難救助等に海上保安庁に御協力いただくわけでございますが、その際、そのような装備を持った船を使うということを考えているわけでございます。そのような場合にそれを取り外すというようなことは考えておりません。
○不破委員 そうすると、ほとんど使える船はないんですよ。わざわざ海上保安庁を動員して、船舶を動員すると言っても、原則非武装とあなたは言われるけれども、原則非武装の巡視船なんてほとんどないんですよ。そういうことをほとんど担当者が理解もしないままつくった法律だとすれば、私は、本当にこれが将来運用の中でどれだけ肥大化するかということを恐れをなしますね。
このように、1990年当時の不破氏は、たとえ海上保安庁の巡視船といえども、それがかなり強力な武器で武装していることを問題とし、それが国連への平和協力の一環として海外に出されることに対し、厳しい追及を行なっていたのである。ところが今では、自衛隊と海上保安庁を機械的に分離し、海上保安庁が主体になるならば、たとえ、相手の船舶に直接武力で攻撃を加えて死傷者を出すような行動をとっても、「警察的行動」であるから問題はないという議論を展開しているのである。
以上見たように、共産党が、平和と憲法の問題をめぐって、大きな変質を遂げたことは明らかではないだろうか。