ついに10月20日の参院本会議で、いわゆるテロ関連3法――自衛隊の海外派遣と参戦を容認するテロ対策特別措置法、自衛隊による平時米軍警護と国家機密法的条項を盛り込んだ自衛隊法改悪案、不審船への船体攻撃を容認する海上保安庁法改悪案――が成立した。共産党は、この関連3法のうち、最初の2法には反対したが、海上保安庁法改悪案には、衆院に続いて賛成に回った(社民党は反対)。われわれは共産党指導部および議員団の裏切り行為を断固糾弾するものである。
今回の法案は、日本の戦後史を根本的に切り替えるものであった。曲がりなりにも戦後50年間、戦争に自国の軍隊を直接参加させことのなかった9条の国が、米軍が領域外で行なう戦争に直接参加することを決定し、ただちに自衛隊は「報復戦争」という名の侵略戦争に後方支援を行なうことになった。これは、国際法の常識、戦争の常識から言って、明白な参戦行為であり、しかも、自国が攻撃されていないにもかかわらず、他国の戦争に直接参加するのだから、明らかに集団的自衛権の行使である。戦闘行為に直接参加しないから、9条に違反しないというのは、とんでもない詭弁である。戦争というものは、前線で直接ミサイルを打ち込むこんだり、戦闘機から爆弾を落としたり、地上戦で銃撃戦を行なうことだけで成り立つものではない。ミサイルの打ち手にミサイルや食料や装備や燃料を渡すことなしに、どんなミサイルも発射されない。日本はついに戦後50数年目にして、戦争に直接参加するという歴史的行動に足を踏み出したのだ。
これほどの画歴史的な悪法が数週間であっさりと衆参を通過して成立したのは、本来なら信じがたいことである。もちろん、日米支配層は、こうした方向性を以前から目指していたし、99年に成立した周辺事態法もそうしたものをめざしたものだった。しかし、もし今回のテロ事件がなければ、これほどの短期間で、これほどの世論の支持で、これほどの悪法が通ることもなかっただろう。今回通ったものの中には、これまで成立を試みて、猛烈な反対運動にあって挫折し、二度と上程できないような状態にあった国家機密法的なものも含まれている。支配層は、今回のテロ事件のドサクサに、懸案であった多くの課題を一気に果たすことができた。本来なら、今回通過した法案のどれ一つとっても、何年にもわたる攻防が行なわれ、国民的反対世論を大規模に盛り上げることが可能であったものばかりである。それがすべて一気に数週間で通過したのである。
同じことはアメリカでも起こっている。テロとの戦いという錦の御旗のもと、愛国的反テロ法が短期間にあっという間に成立し、帝国主義者はアフガニスタンへの大規模空爆を行ない、人気のなかったブッシュ政権は9割の支持を獲得した。これまでアメリカに距離を置いていた各国政権も、今回の事件でアメリカに接近した。世界的に孤立の道を歩んでいたブッシュ政権は、今回の事件で一気に失点を取り返し、逆に得点を稼いだ。アメリカ全土で愛国心が盛り上がり、反グローバリズムの運動は取り返しのつかない後退を強いられた。今回のテロリズムの背景には、アメリカ主導のグローバリゼーションがあるという安直な「背景説明」は、反グローバリズム運動に対する逆包囲に役立っただけである。いまやアメリカでは、反グローバリズムの活動家たちは、テロリストの親戚のように見られている。
かくして「テロリスト」たちは、アメリカと日本の反動勢力に対し、いかなる右翼も、いかなる帝国主義者も真似のできない多大な歴史的貢献を行なったのである。今回のテロリズムは、アメリカの帝国主義的支配体制に微塵の打撃も与えなかっただけでなく、アメリカ帝国主義の一極支配を一気に強化した。
われわれは、テロ事件直後の9月12日付トピックスで、次のように述べた。
アメリカ政府はこのテロ事件を最大限利用し、「これだけ無茶なことをやられたのだから、テロリストを退治するためには、どんなことをしても許される」という国内的および国際的世論を動員することができるようになるだろう。アメリカ政府は、無差別テロの悲劇的な犠牲者、自由と人命の擁護者という後光を手に入れるだろう。アメリカ帝国主義は、これまでにもまして、テロ根絶を名目に、他国への軍事介入、侵略、ミサイル攻撃などを行なうだろう。アメリカ国家の治安体制、弾圧体制もいっそう強化されるだろう。この事件は、かつての真珠湾攻撃のように、アメリカ国民を「自由」擁護のための聖戦に動員する決定的なきっかけとなるだろう。
この予想は不幸なことにことごとく実現された。われわれはこのときのトピックスで書いたことを何度でも繰り返す。「テロで世の中を変えることはできない。それはただ反動勢力にとっての道具になることができるだけである」。(S・T編集部)