『さざ波通信』第25号

日本共産党と「賀詞」問題
――かつてわが党はどう主張していたか

 すでにトピックスで厳しく批判したように、昨年12月、皇太子妃の雅子が出産をしたさい、共産党は国会で「賀詞」の議決に賛成した。その賀詞はまず天皇に対して、恭しく次のように述べている。

このたび皇孫殿下のめでたく御誕生あそばされましたことは、国民ひとしく喜びにたえないところであります。ここに衆議院は、国民を代表して、謹んで慶祝の誠を表し、あわせて皇室の御繁栄をお祈り申し上げます。

 さらに、皇太子に対しては次のような言葉を奉っている。

このたび内親王殿下のめでたく御誕生あそばされましたことは、国民あげて喜びにたえないところであります。ここに衆議院は、国民を代表して、謹んで慶賀の誠を表し、あわせて内親王殿下のお健やかな御成長を心からお祈り申し上げます。

 このような醜悪で読むにたえない文章が、共産党の国会議員が全員一致で賛成した「賀詞」である。それは、天皇家を特別扱いし、国民の上に置き、勝手に「国民を代表」して「皇室のご繁栄をお祈り申し上げ」ている。そして、「国民ひとしく喜びにたえない」だの、「国民あげて喜びにたえない」などという全体主義的空文句を並べ立てている。このような賀詞が、主権在民を定めた憲法に真っ向から違反するものであるのは明らかである。
 ところが、共産党指導部は、この賀詞賛成の暴挙をわざわざ中央常任委員会で正当とみなし、外部ないし下からの批判を完全に封殺した。また一般党員のあいだでも、天皇制廃止は将来の課題にすぎないのだから、現在は護憲の立場から「賀詞」に賛成してもいいのだ、という意見を言う人が少なからずいる。そのような「護憲」論は果たして成り立つだろうか? もちろん成り立たない。このことを誰よりも力説していたのが、実は、ほんの数年前の共産党自身なのである。
 今回の出産騒動の主役である雅子が浩宮と結婚したのは、1993年6月のことであるが、このときも国会で「賀詞」が議決された。このとき共産党は全員一致できっぱり反対した。そのときの『赤旗』を以下に引用しておこう。

 衆院で「賀詞」議決――日本共産党は反対、主権在民に反する
 衆議院は3日の本会議で、9日に予定されている皇太子の「結婚の儀」に際して「賀詞」を天皇、皇太子にささげることを、日本共産党以外の賛成多数で議決しました。
 「賀詞」」は、天皇家の私的行事にすぎない「結婚の儀」を皇太子がおこなうことを「国民あげて喜びにたえない」などと賛美。また、国権の最高機関を構成する衆議院が「国民を代表してこの盛儀を祝」すとして、皇太子の結婚を国家的行事とする意図がこめられています。また、天皇への「賀詞」では、同様に「国民を代表して……皇室の御繁栄を祈りもうしあげます」などと、国民のうえに皇室をおく重大な内容となっています。
 日本共産党は、皇太子の結婚は私的なものであり、国権の最高機関がそれを祝ったり、皇室の「繁栄」を祈る議決をすることは、憲法の主権在民原則に反するものであり、おこなってはならないという立場から反対しました。(1993年6月4日付『赤旗』)

 このように、当時の共産党は、皇室の私的行事にすぎない皇太子の結婚に国会が「賀詞」を議決することに憲法違反としてきっぱり反対し、「国民あげて喜びにたえない」とか「国民を代表して皇室の御繁栄を祈りもうしあげます」といった文言を厳しく批判したのである。このときの『赤旗』の説明によるなら、「国民を代表して……皇室の御繁栄を祈りもうしあげます」などという「賀詞」の文章は「国民のうえに皇室をおく重大な内容」だったのである。ところが今回、雅子の出産という「皇室の私的事柄」を1993年のときとまったく同じ文章で祝う「賀詞」に共産党は突如賛成にまわったのである。そして、党指導部は、これがこれまでのわが党の立場とどのようにして整合するのかについていっさい説明しなかった。共産党指導部は、かつて「重大な内容」だと厳しく指摘したものに賛成するという、許しがたい行動をとったのである。
 さらに翌日の『赤旗』は、参院での「賀詞」にも共産党が反対したことを次のように報じている。

 皇太子結婚 参院で「賀詞」議決――主権在民に反する、日本共産党が反対
 参議院は4日の本会議で、皇太子の「結婚の儀」当日の「賀詞」を、日本共産党をのぞく全会派の賛成で議決しました。
 「賀詞」は、皇太子の私的なものにすぎない結婚を「国民のひとしく喜びとするところ」「国民慶祝の至情を代表し……賀詞をささげます」などと、国民に祝意を強制するかのような表現となっています。
 また、天皇には「皇室の御繁栄とわが国の進展に一層の輝きをそえるもの」とのべています。
 日本共産党は、皇太子の結婚は私的なものにすぎず、国権の最高機関である国会がそれを祝ったり、皇室の「繁栄」を祈る議決をすることは、憲法の主権在民原則に反するものであり、おこなってはならないという立場から反対しました。(1993年6月5日付『赤旗』)

 ここでもわが党の立場は実にはっきりしている。当時の共産党は、「国民のひとしく喜びとするところ」などという内容は、「国民に祝意を強制するかのような表現」であるとして厳しく批判し、「皇室の『繁栄』を祈る議決をすることは、憲法の主権在民原則に反する」とはっきり述べていたのである。
 さらに、当時の共産党は単に、「賀詞」の議決に反対しただけでなく、皇太子の結婚フィーバーを厳しく批判していた。わざわざ、『赤旗』で「『皇太子結婚報道』の現場から」という連載をもうけて、当時の全体主義的結婚報道を痛烈に批判した。また、次男の礼宮と紀子が結婚したときも、『赤旗』は当時のフィーバーぶりを何度となく記事に取り上げて厳しく批判した。ところが今回、当時の結婚騒動と勝るとも劣らぬ出産フィーバーに対し、『しんぶん赤旗』は一度も批判的な記事を掲載せず、完全な沈黙を守った。今や『しんぶん赤旗』は、真実を伝える勇気の新聞ではなくなった。日本共産党と『しんぶん赤旗』はもはや、政府とマスコミによる天皇賛美の大合唱に異議申し立てをする勇気をなくし、天皇タブーに屈服してしまったのである。

2002/1/18 (S・T編集部員)

←前のページ もくじ 次のページ→

このページの先頭へ