雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

国会議員の秘書給与問題と日本共産党

日本共産党に向けられた非難は不当である
 今年3月に週刊誌によって報じられた社会民主党の辻元清美氏による政策秘書給与の流用問題は、「党ぐるみ」を疑われている社民党だけにとどまらず、与野党ともにその現状・実態が問われ、さらには制度上の問題にまで、その波紋を広げている。
 そんななか、各種の報道によると、日本共産党もまた、元共産党秘書によって秘書給与の「強制寄付」として告発され、自民党などからも「ピンハネ」と批判されている。ネット上の議論にいたっては、「秘書給与によって中央勤務員の給与分が浮くのだから公金の詐取」だという批判や、「党が憲法違反とする政党助成金と同じものを受け取っている」という非難も一部にみられる。
 だが、共産党に向けられたこれらの告発や批判・非難について、私たちはいずれも妥当なものだとは考えず、この問題については、基本的に党指導部を擁護するものである。

 中央サイトのページ「国会秘書の活動と給与 日本共産党はこうしています」の説明によれば、国会秘書の給与は、党本部勤務員の給与を規準にし、差額を議員団・秘書団の共同経費に当てるという方法をとっている。その特徴を列挙してみよう。
 第一に、共産党の常任職員として職種による給与差別を行なっていないということである。つまり、国会秘書になったからといって高額な給与がもらえるわけではない。これは共産主義(労働者)政党として妥当な処遇であるし、議会主義的堕落に対する一定の歯止めとしての意味も持つ。このようなシステムをとらない場合、どのようなことになるか? 4月23日付『朝日新聞』の「国会議員・公設秘書アンケート」をみれば、共産党のシステムの優位性が一目瞭然である。その記事によれば、私設秘書の待遇は1人当たり年間295万円で、一般のサラリーマンと比較しても厳しいが、一方の公設秘書は、私設秘書の3倍近く(平均で年間約840万円)の給与を受け取っているのである。
 第二に、プールされた差額は、あくまで選挙で選ばれた国会議員とその秘書の活動費用に当てられるということである。つまり、それは共産党独自の政党活動のための費用ではない。したがって、議員活動のためにではなく政党活動のために公金支出している政党助成金とは性格が異なり、これを同一視することはできない。
 第三に、この経費は特定の国会議員の事務所経費として使われるのではなく、議員団・秘書団の共同経費になるということである。この点は、組織政党としての特徴といえよう。
 また、あえて指摘するのもばからしいが、本部勤務から国会秘書勤務となることで、本部勤務員には欠員が生じるのだから、「本部勤務員の給与を浮かせている」という主張はまったく批判になっていない。
 ただし、党の方法にまったく問題がなかったのかと言うとそうではない。元秘書による告発や自民党による批判は、共産党の国会秘書給与が、いったん国会議員団名義の口座に一括振込まれるという問題点を突いたものであった。しかし、それも5月の給与から秘書個人の口座に振込まれるように変更することになっている(『アサヒ・コム』4月11日付)。また同じ『アサヒ・コム』の報道(4月15日付)で、自民党が、秘書のあり方をめぐる協議を各党に呼びかける方針を固めたと報道されているが、この問題について胸をはることのできる共産党こそがもっと攻勢的に政党助成金の問題も含めて積極的に提案・提言すべきであったと思われる。
 なお、秘書が完全に党からの派遣という体制をとっていることは、秘書団が個々の議員に対する党中央の統制手段として機能していることをも示している。個々の議員が党中央の意向にそむけば、秘書の協力を得られないという事態になるだろう。しかしながら、こうした問題に対する対処の仕方は、秘書を個々の議員の個人的部下として扱うという方向ではなく、党そのものの民主化という課題と結びつけて考えるべきだろう。

社民党の「党ぐるみ」疑惑は晴れたか?
 一方、辻元氏の秘書給与流用問題は、「名義借り」という明らかな不正行為であり、法律に形式的に違反するというだけでなく、政治的な問題でもあった。しかしながら、辻元氏が追及した「ムネオ疑惑」などと比較すれば、この問題だけでただちに議員辞職に値するほど重大であるとはいえない。それが発覚した時点での対処の仕方しだいでは、議員辞職ではない方向もありえた。
 ところが辻元氏は、ただちに記者会見を開いて、疑惑を全面否定するという大ウソをついた。これは、政治的にも道義的にも、はるかに重大な誤りであり、議員辞職に十分値する背信行為であると私たちは考える。
 さらに重大なのは、辻元氏が自分の思いつきで「名義借り」をやったとは考えられず、実際に、土井党首の元秘書が指南したとされていることだ。社民党の原氏が自らのホームページで政策秘書の名義貸しを持ちかけられていたことを明かにしたことを踏まえるなら、少なくとも新人議員に関しては党ぐるみで「名義借り」を一般にやっていたと考えるべきであろう。とすれば、本来、政党としての責任が問われるべき問題である。
 社会民主党は党内調査においてこの点を否定し、4月25日の辻元氏の参考人質疑においても、党内調査の結果が踏襲されたが、それによって疑惑が晴れたとは言いがたい。実際に少なくとも2名の議員に「名義借り」が持ちかけられている以上、それが「党ぐるみ」なのか、それとも特定の個人のいきすぎなのか、いきすぎなら党としての管理責任はどうだったのか、問題を明るみに出して是正する必要がある。この点を曖昧にしてよいのか。良識あるすべての社会民主党員は何よりも身内のこの不正を厳しく批判すべきではなかろうか。

問題の根源はどこにあるか
 勤務実態のない事実上の「名義借り」で政策秘書を雇い、秘書給与を事務所の経費にあてるという行為は、与野党を問わず行なわれており、寄付報告を怠った一部議員だけの問題ではない。それでは、そもそも現在の秘書制度に根本的な問題があるのだろうか? たしかにあれこれの改善の余地はあるだろう。しかし、どのような制度であれ、それを悪用する者がいるかぎり、腐敗はなくならない。むしろ、秘書給与を流用することを前提に「合法」的に秘書制度を悪用しているすべての議員・政党の政治倫理が問われているのではないだろうか。『朝日』のアンケート(4月23日付)でも、政策秘書自身は、「『悪いのは制度ではなく、悪用する議員に責任がある』とする声が多くを占めた」そうである。また、現在、提案されているさまざまな「改革案」を仔細に検討してみると、現状を改善するよりも弊害がもたらされることの方が懸念される。
 たとえば、個々の議員に秘書給与の総額を支給し、その総額の枠内で議員自身が自由に秘書を雇い、給与の分配を行なうようにすれば、名義貸しのような不正行為は行なわれないのではないか、という改革意見(=プール制)はどうか? この改革案はアメリカの秘書制度を参照したものだが、アメリカと日本ではそもそも雇用慣行に大きな違いがある。アメリカでは、直属の上司に解雇を含む人事権がある。上司が「お前はクビだ」といえば、本当に解雇になる。日本では人事権はその会社の人事部に集中しており、直属の上司に解雇権はない。アメリカでは、こうした雇用慣行があるため、上司による恣意的な首切りがまかりとおっているし、セクシュアル・ハラスメントの温床にもなってきた。アメリカでは雇用におけるセクシュアル・ハラスメントや人種差別は厳しく規制されているが、そもそも直属の上司に解雇権があるという雇用慣行がそうした事態を生んでいるのである。
 他方、そうした雇用慣行があるため、部下の方も、より有利な就職口があれば、すぐにそちらに移行する。ある議員秘書が、さっさと別の議員の秘書に鞍替えするという事態も頻繁に見られる。日本では、秘書が議員を渡り歩くという現象はあまり見られない。個人的な主従関係、ないし師弟関係の色合いが強い日本の議員-秘書関係を念頭に置くならば、秘書給与が全額議員に支払われ、そこから議員の個人的判断で秘書に給与が支払われる制度は、こうした主従関係をいっそう強めることになりかねない。したがって、アメリカ式やり方が必ずしも現状の改善になるとは思われない。
 そのほか、「近親者の採用禁止」は、それによって議員の妻や子どもが無給で議員のために働かされることになるという弊害を生む。「兼職禁止」もまた、ブルジョア議会主義を助長する効果がある(民主主義の観点からいえば、労働者でありながら、議員や秘書をやる、ということも可能であるべきだろう)。さらに、「寄付の禁止」は、秘書の私的行為を制限することになる。
 また、秘書の「資産公開」を義務づけてはどうか、という改革意見もある。しかし、秘書は、有権者から選ばれたわけではなく、形式的には一労働者にすぎない。そうした秘書の資産の公開を義務づけることは、プライバシー権という観点から見て疑問がある。

 この間、「ムネオ疑惑」に始まって、加藤紘一・元自民党幹事長の元事務所代表の「口利き疑惑」や、井上裕・前参院議長の政策秘書の「裏金受領疑惑」といった事務所ぐるみの「政治とカネ」の問題が次々と明るみに出ている。こうした金権政治、あるいは利権政治の現象をみるとき、その根底に横たわっているのは、なによりも企業団体献金が当たり前のように行なわれている現実である。これを禁止しない限り、あれこれの制度をいじってみても政界浄化はありえない。今こそ、あらゆる形態の企業団体献金の禁止を求める世論を広げよう。

2002/4/27-30 (T・T編集部員)

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