雑録

 この「雑録」は、日本共産党とその周辺をめぐる動きの中で、短くても論評しておくべきものを取り上げて、批判的に検討するコーナーです。

破綻するアメリカ型カジノ資本主義

 周知のように、アメリカの花形企業である最先端の通信・精密機器関係の大企業であいついで大規模粉飾決算などのスキャンダルが暴露され、アメリカの株価の低迷をまねいている。昨年、エネルギー関連大企業のエンロン社の粉飾決算が暴露され、同社の株価が急落し、アメリカ戦後史上最大級の倒産に結びついたのは、まだ記憶に新しい。このときすでに、株価の動向にすべてをゆだねるアメリカ型のカジノ資本主義のもろさが暴露されたが、今回、このエンロン社スキャンダルを越える大規模な企業スキャンダルがあいついで表面化している。
 たとえば、全米第2位の長距離通信企業であるワールドコム社は、38億ドルを越える粉飾決算をしていたことが暴露され、ついに破産申請を行なうことになった。しかも、その会計を監査する大企業もその粉飾に加担していたことが明らかになっている。ワールドコムの資産規模は1000億ドルを越えており、これは昨年のエンロン社倒産の規模をはるかに上回るアメリカ最大級の倒産劇となる。またゼロックス社は、97年からの5年間で売上高を64億ドル水増ししていることが明らかになった。さらに、ケーブルテレビ会社のアデルフィア・コミュニケーションズ社は創業者一族への簿外融資が数十億ドルにのぼることが露呈した。その他にも、大小さまざまな企業スキャンダルが、この間あいついで暴露されている。
 今回の企業スキャンダルは、株価全般の低迷を招いてアメリカ経済を直撃しているだけでなく、ブッシュ政権の閣僚をも巻き込む形で発展している。たとえば、ブッシュ政権の副大統領であるチェイニーは、エネルギー大手のハリバートンの最高経営責任者(CEO)をつとめていたときに、まだ契約が成立していない長期プロジェクトの売り上げを収入として計上していた疑惑が取りざたされている。さらには、大統領であるブッシュ本人に関しても、ハーケン・エナジー社の役員だったときに、ハーケンが2300万ドルの損失を発表する前に85万ドル相当の自社株を売却して巨万の富を手に入れたことが、インサイダー取引にあたるのではないかとの見方が強まっている。今やブッシュ政権はスキャンダルまみれの政権なのである。
 これらの事件は、株価に依拠した資本主義、およびそれに立脚した新自由主義政治の本質を赤裸々に暴露した。アメリカがグローバルスタンダードとして世界中に押しつけようとしているアメリカ型資本主義が実際には、粉飾決算とインサイダー取引によってかろうじて成立しているシステムであることが明らかとなった。
 株式発行による直接金融に依拠するアメリカ企業は、その命運を株価の持続的上昇に依存させている。そして株価は企業の短期的な利益の大小に依存している。役員の給料自体が自社株で支払われており(ストック・オプション)、従業員の年金も株価に依存している。そこで、アメリカ企業は、その短期的決算を何としてでも黒字にしなければならない。そのために、過酷なリストラを繰り返して、人件費を押し下げなければならない。だがそうやっても、いつまでも企業成長が持続できるわけではない。そこで、最後の手段として粉飾決算をしてでも、帳簿上、黒字になっていなければならないのである。アメリカ型資本主義は粉飾決算の危険性を必然的にともなうのである。
 だが、アメリカ型システムの信奉者たちは、こうした危険を回避するためのシステムがちゃんと存在すると主張してきた。それが外部の会計監査会社であり、最終的には連邦政府の証券取引委員会による監督である。だが、今回の企業スキャンダルが明らかにしたのは、会計監査企業も粉飾決算に加担していたこと、大企業よりの証券取引委員会が厳しい監督などいささかも行なっていなかったことである。
 これらの事実は、日本の変革戦略を考えるうえでいくつかの重要な示唆を与えている。
 まず第1に、アメリカ型資本主義が公正でも進歩的でもないことが多くの人々にとって明らかとなったことである。新自由主義的グローバリズムに対する闘争を呼びかけてきた勢力にとって、このことは今さらながらの教訓である。だが、今では、この教訓は多くの人にとってより説得力を持つようになっている。われわれは倦まずたゆまず、竹中平蔵や小泉政権がお手本にしようとしているグローバルスタンダード(アメリカンスタンダード)が、労働者にとって残酷であるだけでなく、資本主義的公正ささえ維持できない、不正に満ちたシステムであることを宣伝しなければならない。
 第2に、政府と官僚と企業との癒着体質、利権政治を日本独特のもの(開発主義?)とみなし、そこからの脱却を特殊日本的な課題とみなすという一部の左翼の発想の誤りが明らかになったことである。今回の企業スキャンダルは、まさに政府ぐるみ、官僚ぐるみのものであることが明らかとなっている。昨年破綻したエンロン社をはじめ、多くの粉飾決算企業がブッシュ政権に多額の献金をし、ブッシュ政権がその見返りとして甘い行政的監督を行なっただけでなく、京都議定書に対する執拗な妨害に見られるように、その具体的な政策においても、こうした企業の要求を受け入れてきた。これは、典型的な政官財癒着の利権政治である。日本と違うのは、利権と癒着の対象が主として伝統的な土建企業なのか、洗練された現代的企業なのか、という点だけである。政府と大企業とが癒着し、政府が大企業のための政治を行なうのは、資本主義の本質、逃れられない運命である。それは、現代資本主義と切っても切り離せない。かつて、マルクス主義者はそれを「国家独占資本主義」の体制と呼んだ。この言葉を用いるかどうかを別にして、あたかも政官財癒着の構造があたかも日本だけの特殊現象であるかのように言うのは、結局は資本主義そのものを美化することにしかならないだろう。
 第3に、アメリカ型資本主義に対する批判が中途半端に終わり、ヨーロッパ型資本主義ならよいとする共産党指導部や一部の左翼知識人に見られる傾向に与することの誤りである。いやそうではない。資本主義が資本主義であるかぎり、政治と大企業との癒着はなくならない。それはあるタイプから別のタイプになるだけである。資本主義の枠内で、政治と大企業(とりわけ多国籍大企業)との癒着の根を断ち切ることは不可能である。日本の変革戦略にとって、このことを強調することはきわめて重要である。

2002/7/21  (S・T編集部員)

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