不破講演の民族主義的本質――岩本兼雄氏の投稿への反論

3、占領について

 次に岩本氏は、不破氏の発言――「日本が戦争に負けたとき、ポツダム宣言を受諾しました。……これは、国際的な正当性を持っていました。しかし、そのときに、世界は、この占領が21世紀まで続こうとは、だれも予想をしていませんでした」という発言に対するわれわれの批判を引用して次のように述べている。

  いわんとするところは、敗戦直後の占領から、半占領へ、そして「事実上の従属国」へと変化してきた日本共産党の綱領上の認識を60年前の占領状態へと逆戻りさせているということであろう。しかし、この非難は正当であろうか? 言葉尻をつかまえた非難ではなかろうか?
 貴紙が最初に引用した不破氏の発言にあるように、不破氏は「アメリカの事実上の従属国」と言っているのであるから、ここでいう「占領」もその文脈で理解するのが普通の読み方ではなかろうか。

 はたしてそうだろうか。「事実上の従属国」はあくまでも「事実上の従属国」であって、「占領」ではない。この決定的な違いについては、戦後の共産党綱領をめぐる大論争の中でとりわけ先鋭なテーマになった。岩本氏は「従属」をめぐる当時の激しい論争を忘れてしまったのだろうか。
 不破氏の発言をもう一度よく見てみよう。彼は「この占領が21世紀まで続いた」と言っている。「この占領」とは何を指しているか? ポツダム宣言を受諾し、その直後から始まったアメリカによる「占領」のことである。誤解の余地はない。それは言葉尻を捉えたものだなどと言って不破発言を擁護するのは、あまりに甘い評価である。不破氏は共産党の議長である。そして、講演は党創立記念集会でのものであり、おそらくは何度も推敲を重ね、記事にするにあたっても何度も多くの人がチェックを入れたはずの文章である。実際の講演の内容と、「赤旗」に掲載されたものとが時おり食い違うのは、よく知られた事実である。講演での間違った言い回しや政治的にまずい表現は「赤旗」に掲載される際にはきちんと訂正されている。われわれのような素人と違って、プロの校正記者たちがわが党議長の偉大な講演をぞんざいにチェックしたとは思われない。
 不破氏が講演の別の箇所で「事実上の従属国」という言い方もしているのは、共産党の伝統的な表現との連続性を維持するためである。しかし、不破氏は一方ではこうした伝統的言い方をしながら、その具体的な内容について説明する段になると、その中身を著しくゆがめ、あたかも、終戦直後の占領状態が続いているかのような明らかに誇張した大げさな言い方をしている。そうすることで、党員の意識を「従属」問題を第一義とする方向に誘導しようとしているのである。
 この講演全体の趣旨がまさにそのような性格を持っている。一つの講演ですべてのことについて語れない、というのはその通りである。しかしながら、共産党創立を記念したこの長い長い綱領的講演の中で、戦後史についてもっぱら「従属」の側面しか語らないというのはいったいどういうことか? このことの意味について後でもう一度触れる。

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