不破講演の民族主義的本質――岩本兼雄氏の投稿への反論

6、不破講演の本質について

 そもそも、党創立記念集会での綱領的講演でありながら(志位演説は情勢論が主題だったので、党の存在意義に関するそもそも論は不破演説の担当だった)、日本の戦後史を語る文脈では、ただひたすら日本がアメリカの従属国にされたということだけを語るということが、どうして可能になったのか? これこそが大問題である。戦後史において日本がアジアやその他で果たしてきた抑圧的・搾取的・環境破壊的役割について完全に沈黙したまま、ただひたすら「被害者」としての側面だけを語るということが、この本格的な帝国主義化の時代において、どうして許容しうるのか?
 真面目な党員研究者や党活動家たちはみな、今日、日本の帝国主義化、帝国主義的対外進出、日本企業の多国籍化、日本ナショナリズムの台頭といった問題に本格的に取り組んでいる。共産主義者のみならず、真面目な自由主義者も、日本における愛国イデオロギーの新たな高揚、右翼民族派の台頭、国民主義の跳梁跋扈、といった現象に危機感を覚え、それに対する批判を最重要課題の一つにしている。にもかかわらず、不破氏は、党創立記念の綱領的講演の中で、1300年の歴史の中で初めて日本が外国の従属国になったことに「悲憤慷慨」し、戦後の日本があたかも一方的な被害者であったかのごとき議論を展開したのである。
 これはけっして偶然ではない。それは、この間の共産党指導部の基本路線と完全に合致している。規約を改訂して「日本国民の党」という規定を前文にあえて挿入したこと、古い国籍条項にしがみつき、外国籍の者を外国勢力の手先とみなす恐るべき差別発言を党大会で行なったこと、国旗国歌の法制化を積極的に容認し、結果的に「日の丸・君が代」の法制化に手を貸したこと、多数の死者を出した不審船撃沈に対して何ら抗議の声をあげず、反対にその後、海上保安庁法改悪に賛成したこと、日韓投資協定やテロ資金規制法に無批判に賛成したこと、等々、等々。この間の民族主義的改良主義の事例はまさに枚挙にいとまがない
 従属規定に純化した今回の不破講演はまさに、こうした民族主義的逸脱の方向性と完全に一致している。このことこそ根本的に問題にすべきことではないのか? にもかかわらず岩本氏は、『さざ波通信』に対するあげ足取り的批判に終始し、不破氏の民族主義的偏向を免罪している。いったい氏の価値観においては何が優先課題なのか? 氏のこれまでの投稿を読むかぎり、氏は一定の理論的関心をもった党活動家のようである。氏の能力をもってすれば、もっと建設的で相互発展的な議論が可能なはずである。それだけに、問題の本質を完全にはずした今回の氏の投稿は、残念でならない。

2002.9.5  S・T編集部員

 P・S この論文を書き上げた後、9月9日付けで新たに岩本氏から投稿をいただいた。その中で岩本氏は、『さざ波通信』の悪しき左翼性を高飛車に批判したうえで、次のようなありがたい助言を授けてくれている。

 大事なことは、自己の議論を広い視野から再検討しつつ、軽信せず、軽々しくレッテルを貼ることを避け、批判は厳格な論証を自己に課しつつ、相互に対話が可能な議論の仕方を工夫することである。

 この文章を読んでわれわれは苦笑せざるをえなかった。この言葉をそっくりそのまま岩本氏にお返ししたい。岩本氏がこの間の投稿でわれわれに投げつけたレッテルを簡単におさらいしておこう。
 「論旨が支離滅裂」「悲憤慷慨ばかり」「大音量をまき散らして走り回る右翼の街宣車のようなもの」「全く馬鹿げた議論」「理解不能」「唯我独尊」「滅茶苦茶」「独断と偏見」……。
 以上が8月18日付投稿での岩本氏がわれわれに投げつけたレッテルのささやかな一覧である。古色蒼然たる左翼であるわれわれでさえも、これほど短い文章の中でこれほど多くの罵倒語を一度に共産党中央にぶつけたことはない。岩本氏のレッテル癖はこれで終わらない。今回の9月9日付投稿を見てみよう。
 「片言隻句をとらえて、烙印を押しまくる議論」「日本左翼の悪しき伝統のようなもの」「救いようがない」「『教団』の外部からアクセスする者には閉鎖されたサイト」「レーニン『帝国主義論』にいまだ直接依拠」「悪しき伝統に従った古色蒼然たる議論の仕方」…とまあ、こんな具合である。「厳格な論証」も「相互に対話が可能な議論の仕方」も、まったくどこにも見当たらない。岩本氏の助言の対象には、どうやら自分自身は入っていないらしい。自分だけは(しばしば論証抜きに)どんなに相手を罵倒してもいいが、自分以外のすべての者は岩本氏が設定するルールに従うべきだというわけだ。このような「自分だけを例外にする態度」こそ、「悪しき伝統に従った古色蒼然たる議論の仕方」ではないかと愚考するのだが、いかがか? (2002/9/10)

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