不破講演「レーニンと市場経済」によせて

はじめに


 2002年8月27日、不破議長は中国社会科学院の要請にこたえて「レーニンと市場経済」と題した講演を行なった。全文は9月4日付『しんぶん赤旗』に掲載された。
 不破氏がこの講演を行なったことは、これ以前の『しんぶん赤旗』紙上で報じられた。
 ソ連などの社会主義国で「計画経済」が思うように進まなかったことは周知のことであり、その解決のためにさまざまな努力がはらわれ研究も行われてきた。この中で、市場経済を取り入れるということも重要な選択肢のひとつであった。
 「レーニンと『資本論』」など長期にわたって膨大な著作を著し、長年にわたって研究に携わってきた不破氏がこのテーマで講演をするという記事を読んで、なにがしかの新しい研究成果が見られかもしれないと多少は期待したが、この講演の中には理論的成果も目新しいものも何一つ見られなかった。氏は人生の大半を党の専従活動家として過ごし、世間から理論家としての評価も受けているのだが、この程度の「内容が乏しい」話しかできないものかと率直にいって落胆した。
 不破氏は、マルクスは市場経済と社会主義の問題を本格的に取り上げたことはなかったとか、レーニンがこの問題に挑戦した最初の共産主義者だったとか、多少とも社会主義に関心のある人ならば誰でも知ってるようなことは述べているが、中国が、あるいは「社会主義を目ざす国々」が、直面する現実についてヒントとなるようなことは何も語っていない。
 不破氏の理論作業は、『マルクス・エンゲルス全集』と『レーニン全集』を字面だけを追って読み、この解説に終始することがまことに多い。彼らが直面した現実や歴史を分析することはほとんどないし、彼らが引用した原典にあたることなども極めて希である。今回の講演にもこの特徴が遺憾なく発揮された。
 不破氏の著作には、都合のよい片言隻句だけを取り出し、文脈から切り離して引用する手法がしばしばみられることについては定評がある。また、過去の見解、主張から180度転回しても、そのことについて語ることもまずほとんどない。しかし、ここではこれらについては触れないことにするが、不破氏が実にたくさんのことを知っていることは認めるものの、このような不破氏の手法からは、彼の理論家としての誠実さに疑問を持たざるをえない。
 不破氏のこの講演では、講演という性質上からか、引用した著作、出典を詳細には明示していない。『しんぶん赤旗』紙上などの印刷物にするときには、この程度の親切心があってもよさそうなものであるが、それはしていない。
 不破氏がテーマとした「レーニンと市場経済」と表現した「市場経済」中には、いわば「価値論」ともいうべき原理的な問題が含まれていることは彼も極めて簡単に触れているが、これは問題の大きさ、深さに比べて、その触れ方は不相応に小さい。この点は今日のマルクス主義経済学においても未解明の課題と考えられるので、今後の研究に委ねられるべきものとして本稿においても「価値論」については触れないことにする。

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