不破史観の確立と発展――『日本共産党の80年』の批判的検討(下)

23、1980年代後半(1)――第17回党大会と天皇問題

  第17回党大会
 過去の党史に比べて3分の1に簡略化された『80年史』は、単に都合の悪い歴史や理論的解釈をまるごと削除してしまっているだけでなく、しばしば、現在の立場から見ても記述してよさそうな重要な事実をも抜かしてしまっている。
 たとえば、1985年の11月に開催された第17回党大会に関する記述を見てみよう。この大会のいちばん重要な提起は核兵器廃絶に関する取り組みであり、国際的には、反核国際統一戦線の構築を「あらためて厳粛に呼びかけ」るとともに、国内的には「非核の政府」の樹立を主張した。またこの第17回党大会は、核兵器問題のみならず、多くの重要な理論的・実践的提起を行なっている。『70年史』に記述されているだけでも、ざっと次のような提起がなされた。
 1、戦後40周年であることをふまえて、第2次世界大戦の教訓を4点にわたって明確化したこと。2、社会主義諸国の「併党」論と覇権主義を厳しく批判し、それが資本主義国の革命的発展に否定的な役割を果たしていること。3、中曽根内閣の「戦後政治の総決算路線」が軍国主義と日本型ファシズムの時代を再現しようとし、日米軍事同盟体制国家づくりを狙っていること、4、日本政治の翼賛政治化が進んでいるが、日本社会の「深部の力」に確信を持つべきこと、5、革新3目標を現状に合わせてさらに発展させたこと、6、「国政選挙での一進一退」の問題を解明し、それを党の政治路線の誤りとみなす立場を批判したこと(同時に東大院生による「分派行動」を「敗北主義」として糾弾)、7、党綱領を改定して覇権主義の克服を明記したこと、8、「資本主義の全般的危機」という規定を綱領から削除したこと、9、核兵器廃絶の課題を綱領の「行動綱領」部分に明記したこと、10、対米従属のもとでの日本独占資本の「帝国主義的特徴」が経済面のみならず、軍事、外交、経済の全面にわたっていることを明らかにし、日本独占資本が「世界の帝国主義陣営のなかで」「軍事、外交、経済のあらゆる面で積極的・能動的」役割を果たし、日本人民を抑圧するとともに、他民族をも抑圧していることなどを、綱領に補強したこと、11、規約を改正して、「真のヒューマニズムと同志愛に満ちた党生活」を確立し、党員の第一義的課題として党大会や中央委員会決定を速やかに読了すること、などである。
 しかしながら、『80年史』における記述は次のようなごく簡単なものになっている。

 「1985年11月、党は、第17回党大会をひらき、中曽根内閣の『戦後政治の総決算』が、軍国主義と日本型ファシズムを再現しようとするものであり、日米軍事同盟体制国家づくりを危険な段階におしすすめようとしていることをあきらかにしました。
 大会は、綱領を一部改定し、『覇権主義の克服』を綱領上の課題として明記するとともに、軍事、外交、経済のあらゆる面で積極的・能動的役割をはたしている日本独占資本の現状の分析を補強し、『資本主義の全般的危機』という誤った規定を削除しました」(『80年史』、240頁)。

 このように、核兵器問題については無視されるとともに、『70年史』では紹介されていた11の論点のうち3と7と8と10の4点しか紹介されていない。しかも、最後の「10」に関しては、日本独占資本の「帝国主義的特徴」にかかわるものであることが『80年史』で省略されているため、「軍事、外交、経済のあらゆる面で積極的・能動的役割をはたしている日本独占資本」という記述がまったく意味の曖昧なものになっている。

  天皇在位60周年と象徴天皇制批判
 1986年に中曽根内閣のもとで、天皇在位60周年の大キャンペーンがおこなわれ、昭和天皇があたかも即位以来ずっと「平和の人」であったかのような歴史歪曲と天皇制美化の宣伝が大々的に繰り広げられた。『70年史』は、この問題を重視し、このキャンペーンについて次のように書いている。

 「86年3月の第2回中央委員会総会(第17回党大会)は、『天皇在位60年キャンペーン』についての党議員の追及にたいして、中曽根首相が治安維持法流の皇国史観を展開したことをきびしく批判し、絶対主義的天皇制と不可分な天皇個人の戦争責任問題の追及とともに、党綱領が明確にしているとおり象徴天皇制が憲法の主権在民に反する存在であることをあきらかにしていく重要性を強調した」(『70年史』下、244頁)。

 このような記述はもちろんのこと、現在の不破=志位指導部にとってはきわめて都合の悪いことなので、『80年史』ではまるごと削除されている。
 また、この80年代後半は、日本共産党指導部がとりわけ天皇問題を重視した時期であった。たとえば、1988年11月に開催された第3回中央委員会総会(第18回党大会)において、宮本議長は象徴天皇制を主権在民の観点から批判することの重要性を強調した。『70年史』は次のように述べている。

 「党は、11月、第3回中央委員会総会(第18回党大会)をひらいた。宮本議長は冒頭発言で、天皇裕仁が戦前の暗黒支配、侵略戦争、植民地統治、軍国主義の責任者であり、戦後は、象徴天皇制が、日米支配層のあたらしい反動支配の道具としての役割をはたし、アメリカによる沖縄の占領継続を希望し、広島への原爆投下を容認するなど、愛国精神を書いた象徴的存在となったとのべ、天皇問題を主権在民の立場からとりあげていくことを強調した」(『70年史』下、323頁)。

 以上のような記述ももちろん、『80年史』では削除されている。

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