以下の一連の記事は、綱領改定案に関するトピックスでの論評を再録したものです。
(03.8.4)綱領改定案の討論報第1号が発行される
今回の綱領改定案をめぐる討論報(『日本共産党綱領改定案公開討論』)の第1号がようやく発行された。そこに掲載されている意見の多くは予想通り、綱領改定案によってわかりやすくなった、歓迎するといった提灯持ち投稿であるが、いくつか厳しい批判意見も見られた。
天皇問題
まず、兵庫の南沢大輔同志は、「『憲法の枠内でのみ天皇制を認める』ことは不可能である」と題する投稿において、天皇制を事実上容認している綱領改定案を厳しく批判している。
「そもそも、2000年の皇太后死去の時から、天皇制について党は明確な方針転換を行っている。これはわが党の歴史における重大な汚点であった。不破報告は、『全般として否定する態度をとっておりません』というが、歴史を捏造してはならない。それ以前に賀詞・弔辞に対する賛否の基準としてそのようなことを述べたことがあるのならば、ぜひその典拠を示していただきたい。」(14頁)
「憲法の枠内でのみ天皇制を認めるということは、一見『原則的』にみえるが、じつはそれは不可能である、ということを銘記しなければならない。天皇制は、憲法の他の民主的条項と衝突せざるをえず、常にどちらかを選択しなければならない。」(14~15頁)
「昭和天皇死去の時、私は、他の党はすべて腐っていると強く確信し、わが党の態度に感動した。それが私の入党の最大のきっかけであった。しかし、いまやわが党もまた誤った道へと進みつつある。全同志に訴えたい。決してこの問題は妥協してはならないものだということを。そして、その誤りの禍根は甚大なものになるということを。」(15頁)
同じくこの天皇問題に関しては、さらに別の党員も反対意見を述べている。たとえば、東京の団拓人同志は綱領改定案での天皇制規定が「反対の明確さ、党としての意思表示を欠いている」と批判し、「一般的にわが党は筋を通す党と思われているのだから、その考え方を貫徹するべき」としている(19頁)。
また、岡山の令名敏同志も、冒頭で「『天皇制廃止』のない綱領案にショック」と書き、次のように述べている。
「不破報告では、憲法において天皇には国政に関する諸権能即ち統治権がないので君主制とは言えないと定義づけられている。さらに、『天皇制』(『君主制』の表記ミスか?――引用者)といえば憲法の主権在民の理念から主権がどこにあるか誤解をまねくともいわれている。このことは、党内のみで通用する詭弁で、現在の国民が主権が国民にあることは誰でも理解していることで、『立憲君主制』だから天皇に主権があるとは思っていないし、教科書でもそのように教えていることでしょう。
また、天皇は世襲制であり、新憲法で戦前の天皇とは全く位置づけ、権限が異なっていても従来の天皇家が存在し、しかもその存続に莫大な税金が費やされ……、生活実態は主権者である国民の労苦や貧困とは全く乖離した異常な状況であることから、共和制に至っていないと考えるのが妥当と考えられる。
まして、規約第二条で『真に平等な社会の実現を』目標としている党が、当面天皇制と共存し時期が熟すると国民が決めるなど他力本願の日和見主義としか言えません。
是非、現状を君主制の一変型と位置づけ、綱領にその廃止を明記し……、国民と共にその先頭に立つべきではないのか。」(47頁)
自衛隊問題
他の問題でも批判意見が少なからず寄せられている。まず自衛隊問題では、兵庫の山口泰徳同志は次のように述べている。
「80年の社会党の右転落と我が党が指摘した際に、土井たか子(石橋政嗣の誤りか?――引用者)の『違憲・合法論』をさして、社会党は右転落した、『ルビコン河を渡った』とも指摘しました。その問題と今回の自衛隊の記述については同じようにしかうけとれません。その後社会党は党名も変え、自民党との連立政権を樹立しましたが、やがて破綻しました。我が党も同じような道を歩むのでしょうか?」(39頁)
また、同じく東京の梶山達史同志も次のように述べている。
「改定案における自衛隊存続論は他の部分と両立しない。……自衛隊だけを切り離して金庫の中に保存できるものではない。結合した反動勢力の支配は、それをバラバラに見るのではなく、変革の立場から見る。この観点は現綱領理解の中心問題であった(『日本革命の展望』)。
また改定案の憲法への対応では、天皇条項は『憲法に書いてあるから』綱領にも受け入れるが、平和条項は『憲法に書いているにもかかわらず』棚上げする。従来と比べ、ベクトル(力の方向)が反対を向いている。…… 今、憲法制定から57年経って、再び自衛権を強調している。そして30年前と違うのは、憲法を飛び越えて自衛権に基づく軍備を合理化しようとしていることである。今や米軍への……支援を主たる任務とする自衛隊を、自衛権の担保として存続させようというのが改定案の意味するところである。いよいよ戦死者が出ようとしているこの時期に。」(40~41頁)
帝国主義論
帝国主義論の問題に関しては、東京の佐方基同志は次のように述べて綱領改定案および不破報告の帝国主義論を厳しく批判している。
「今回の綱領改定案およびそれに対する不破議長の報告内容は、日本共産党がその創立以来、とりわけ、61年の綱領確定以来、一貫してとってきた科学的社会主義にもとづく帝国主義論の立場を事実上放棄するものである。
不破報告は、独占資本主義と帝国主義とを単純に同一視しないという立場から飛躍して、帝国主義を独占資本主義がとる侵略と抑圧の政策に解消し、帝国主義が独占資本主義の本質的な存在形態であることを否定し、既存の帝国主義国が独占資本主義体制を維持したままで、非帝国主義的な政策がとりうるかのような議論を展開している。とりわけ、とっくの昔に世界最大最強の帝国主義国になっているアメリカ帝国主義でさえ、とくに革命などなくても、現在の独占資本主義体制を維持したまま、将来においては非帝国主義国になりうるかのようにさえ述べている。……
今回の不破報告は、……まさに『カウツキー流の帝国主義弁護論にほかならない』と言えるだろう。」(17頁)
「もし、独占資本主義体制のままで非帝国主義的な平和政策を実行できるのならば、なぜこの日本では、反独占の民主主義革命が必要なのか? 不破氏の理論にもとづくなら、この日本でも、単なる世論の圧力だけで、自民党政府を平和の政府にすることができるはずだし、またそうすることが可能なら、民主主義の政府にすることだって可能だろう。さらに、アメリカ帝国主義が独占資本主義体制のままで非帝国主義国になりうるなら、日米安保条約も非侵略的なものになることだって可能だろう。不破氏の理論は、実際には、天に唾をするものであって、自分の党の根本的な存在理由そのものを否定するものである。」(17~18頁)
労働者の闘い
労働運動の衰退とそこにおける党活動の弱点については複数の同志が問題を指摘している。東京の加藤栄一同志は、党の活動における大衆闘争の呼びかけの視点の弱さについてこう述べている。
「戦前の軍国主義的熱狂の時代、労働者運動が決して国民の多数派でなかった時代でも党は『赤旗』を通じて絶えず労働者を励まし闘いを呼びかけていました。その点で『しんぶん赤旗』の主張は、労働者に闘いを呼びかける視点に弱く、『学者の解説』のようです。『政府の責務です』(『主張』6/16)『本腰を入れた対策が必要です』(同6/30)。闘いの呼びかけの視点が弱い『主張』が多い。」(35頁)また千葉の佐藤功一同志は、労働運動が年々弱まりつつある事態に対して注意を喚起しつつ次のように述べている。
「国鉄労働者は、そして全労働者も、革命をやる力を持っている。それは61年綱領の下でも何回も示された。その力が革命にまで、あるいは革命に向けて正しく発展させられなかったのは、また労働運動における上記のような落差を生んでしまったのは、綱領が民主主義革命綱領で、社会主義革命の綱領でなかったからではないと思う。理由は『社民』の労働運動支配、それを克服できない党の小ささ、および党の労働運動にたいする取り組み・指導の点での不十分さ・欠陥だと思う。」(38~39頁)
少子化問題、その他
われわれがトピックスでも指摘した「少子化傾向を克服する立場から」という綱領改定案の文言に対しては複数の批判が寄せられている。広島の音重子同志は、綱領改定案の当該箇所に対する修正意見を述べたうえで、次のようにその理由を説明している。
「政治のあるべき目的はあくまで、『少子化傾向を克服する』ためではなく、大人も子どもも人間らしく生きられる社会をの実現です。……『生めよ増やせよ』の圧力が物理的にはもちろん、精神的にも個人にかかるようなことだけは絶対にあってはなりません。」(15~16頁)同じく兵庫の柴田たかし同志は「少子化傾向を克服する立場から」という綱領改定案の文言を削除するよう求め、その理由をこう説明している。
「子どもの福祉は、少子化傾向を克服する立場からすすめるものではなく、なによりもその子ども自身のために行なうものであるから。」(21頁)
それ以外にも、社会主義と共産主義との伝統的な区分論を否定した不破報告に反論したもの(東京の福田肇同志)、千島列島と歯舞・色丹諸島の返還要求を削除するよう求めた意見(柴田たかし同志)なども見られた。 以上のような批判意見、批判的投稿があったとはいえ、全体としての投稿の基調は、綱領改定案を「わかりやすくなった」というレベルで支持し、あるいは、一部の投稿者に至っては、もっとわかりやすくするために、「階級」や「革命」や「統一戦線」という言葉さえなくすよう提案している。これは、政党の科学的で厳密な基本方針・理念・目標を提示した政治綱領の基本的あり方を否定し、ブルジョア社会の「常識」レベルに合わせようとするものであり、本質的に解党主義的意見である。増村耕太郎のような幹部党員でさえ平然とそのような俗流的意見を出しているのだから、現在の日本共産党が陥っている日和見主義の泥沼はきわめて深刻であると言えるだろう。
なぜインターネットにアップしないのか
ところで、今回発行された討論報は、特別に注文しないかぎり、党員であっても入手できないようになっている。地区委員会などにも在庫はおいておらず、党員が気軽に入手できないようになっている。しかも、それは8月1日にはすでに発行されていたにもかかわらず、『しんぶん赤旗』で報道されていない。
さらに、現在のようなインターネットの時代において、この討論報の中身をどうして日本共産党の公式ホームページにアップしないのか? 実物の討論報をすべての党員に無料で届けるのは財政的に困難であろうが、ホームページにアップすれば、すべての党員のみならず、党外の人々も自由に閲覧することができるのである。本気で綱領改定案をめぐる党内討論を活発に展開するつもりならば、最低限、それぐらいの措置はとるべきであろう。
そうしたすぐにできる措置さえとらず、討論報を事前に注文しておいたごく一部の人々にのみ配布するというやり方は、現在の党指導部の反民主主義的な姿勢をはっきりと示している。(S・T編集部員)