以下の一連の記事は、綱領改定案に関するトピックスでの論評を再録したものです。
(03.6.25)筆坂政策委員長・参議院議員がセクハラで辞職
すでに、報道などで周知のように、党の政策委員長で、参院の比例選出の国会議員である筆坂秀世氏が女性に対するセクハラが原因で国会議員を辞職することが、24日に党の記者会見で発表された。これは党内のみならず、国内にも大きな衝撃を与えた。国会議員が性的な不祥事で辞職するのは、数十年ぶりのことだそうである。しかも、それが共産党の顔とでも言うべき筆坂議員であったことは、大きな驚きをもって迎えられた。
党自身の発表によると、被害女性が中央委員会に訴え出たのは5月27日で、事件そのものはその数日前に酒の席で起こった。このことを筆坂氏本人に党が確認したところ、事実を認め、その場で国会議員の辞職を申し入れるとともに、一党員としてやり直したいとの意向を表明した。党中央は、この事実を踏まえて、7中総で筆坂氏の中央委員の役職を解くとともに、その事実について総会の場で報告し、記者会見でも明らかにした。
事件そのものを隠蔽することなく、別の口実で筆坂氏を更迭するのでもなく、セクハラの事実をきちんと公表して、議員辞職という形をとったことは、評価できることである。クリーンなイメージを最大限重視している党としては、重大な打撃になることを承知でこの道を選択することには、相当の勇気がいったと思われる(もちろん、被害者本人の承諾を得ていることが前提であるが)。
しかしながら、この事件の詳細については、党内でも、また今回の記者会見でもまったく明らかにされていない。被害者のプライバシーを尊重してとのことであるが、この説明はわからないでもないが、被害者の個人的プライバシーにかかわらない範囲でも、もっと明らかにするべきことはあるはずである。たとえば、セクハラが悪質なものであったのかどうか(誰もその様態を細かに描写せよとは言っていない)、その酒の席はどういう性格のものであったのか(筆坂氏が個人的に飲みに行った場だったのか、それとも党関係者が多数いたかなり公の酒の席だったのかどうか)、被害者が党関係者かどうか(これは党内の権力関係にかかわるので、重要な事実である。もし被害者が党関係者であり、筆坂氏が党内の権力関係を悪用してセクハラに及んだとすれば、酒の席で羽目をはずしてしまったというレベルではなく、より重大なものになる。それは市民道徳の問題ではなく、政治的問題である)、等々。これらはいずれも、セクハラの重大性をはかるうえで欠くことのできない要素である。にもかかわらず、これらの点について、党中央はすべて「発言を控えさせていただく」として頑強に事実の公表を拒否している。
これはきわめて問題である。まず第一に、筆坂氏は単なる党役員ではなく、国民によって選挙で選ばれた国会議員である。職を辞するかぎりは、国民に対するそれ相応の説明責任があるはずである。
第二に、今回事件がおきた「酒の席」というのが、筆坂氏が個人的に飲みに行った場ではなく、そこに多数の党役員がいたかなり公の酒の席であった可能性がきわめて高い。というのは、記者会見で明らかにされたように、事件は、5月27日の「数日前」に起きている。この日付は6中総の開催時期と見事に重なっている。6中総が開催されたのは、5月24日と25日である。もしかしたら、6中総の終わったあとに、「打ち上げ」として党役員や本部職員などが多数参加した酒宴が行なわれ、そのときに起きた事件かもしれない。とすれば、筆坂氏個人の責任のみならず、そこに参加していた党役員全員の責任が問われなければならないだろう。
また、共産党は、党の本部専従に、自宅以外での飲酒を内部規定として禁じている。もしこの酒の席が、誰かの自宅以外の場であるとしたら、党幹部自身が自らの定めた内規を破っていたことにもなる。
さらに、今回の事件が、そのときたった一回だけ起きた偶発的なものだったのか、それとも同じようなことが何度か繰り返されていて、被害者がついに中央委員会に訴え出たものなのか、この点も明らかにされなければならない。もし後者だとすれば、問題はより根深いものとなり、党指導部全体の責任がより厳しく問われることになるだろう。
なお、この事件をめぐって一部に、党内抗争の現われであるかのような陰謀論が見られるが、それはまったく荒唐無稽な議論である。国会議員がセクハラで辞職することによって党が受ける打撃の方がはるかに大きい。筆坂氏は忠実な不破派であったし、また党内における不破氏の権力は絶対的なものであって、党上層に反乱分子がたとえ現われたとしても(その可能性自体、現在の党の水準からすればありえないが)、ごく普通の党内手続きで反乱分子を取り除くことができたろう。今回の事件は、何よりも、新しい改良主義路線によって世論に取り入ろうとした不破指導部にとって、その出鼻をくじくとてつもなく大きな打撃となるスキャンダルである。彼らにはそれを隠蔽する動機はあっても、あえてそれをでっち上げる動機はかけらもない。(S・T編集部員)