次に、現行綱領の行動綱領にはなく、新たに綱領改定案の「民主的改革」の項目につけ加えられた政策を見ていこう。
まず「国の独立・安全保障 ・外交の分野で」のところでは、まず「日本が過去におこなった侵略戦争と植民地支配の反省を踏まえ、アジア諸国との友好・交流を重視する」が新たに加わった政策である。これはとくに問題はないだろう。
二つ目は、すでに部分的に述べたが、「国連憲章に規定された平和の国際秩序を擁護し、この秩序を侵犯・破壊するいかなる覇権主義的な企てにも反対する」という項目が新たに加わっている。この「国連憲章」絶対化の立場についてはすでに詳しく批判しておいた。
三つ目の新条項は「一般市民を犠牲にする無差別テロにも報復戦争にも反対し、テロの根絶のための国際的な世論と共同行動を発展させる」である。ここでは、「無差別テロ」と「報復戦争」の両方に反対するとしながら、「国際的な世論と共同行動を発展」させるのは「テロの根絶」のためだけ、というまったくアンバランスな内容になっている。報復戦争による犠牲者の方がはるかに多いこと、またそれが軍事的超大国による貧困でほとんど武力のない国や地域に対する爆撃という形式をとっていることからしても、より強く「国際的な世論と共同行動を発展」させるべきは、「報復戦争」(実際にはしばしば「先制戦争」であり「八つ当たり戦争」である)に対してだろう。
四つ目の新条項は「紛争の平和解決、災害、難民、貧困、飢餓などの人道問題にたいして、非軍事的な手段による国際的な支援活動を積極的におこなう」である。これ自体に特に問題はないだろう。
次に「憲法と民主主義の分野で」は、まず「国会を名実ともに最高機関とする議会制民主主義の体制、反対党を含む複数政党制、選挙で多数を得た政党または政党連合が政権を担当する政権交代制は、当然堅持する」が新たに加わっている。そもそも「民主的改革」の政策を掲げるべきところで、すでにあるものを「堅持する」ことを書くというのは、まったく格好の悪い話である。これでは、現在の「議会制民主主義の体制」にも「複数政党制」にも「政権交代制」にも何ら「民主的改革」をするべき余地などなく、すでに十分に民主主義的であるとわが党がみなしているかのようである。このことのうちには実は、これまでのわが党の基本的立場をくつがえす重大な転換が潜んでいるのだが(先ほど少し触れておいた)、それは後で述べる。
二つ目の新条項は、「社会的経済的諸条件の変化に対応する人権の充実をはかる」である。これは抽象的にはもちろん必要な条項ではあろうが、具体的に何を指しているのかをはっきりと明示するべきだろう。
三つ目の新条項は「汚職・腐敗・利権の政治を根絶するために、企業・団体献金を禁止する」である。これはとくに問題はないだろう。
この「憲法と民主主義の分野で」のところには、天皇制に関する新規定が見られるが、これも章を改めて論じることにする。
次に「経済的民主主義の分野で」のところでは、「すべての国ぐにとの平等・互恵の経済関係を促進し、南北問題や地球環境問題など、世界的規模の経済問題の解決への積極的な貢献をはかる」が新たに加わっている。これは一見とくに問題がなさそうであるが、よく見るとおかしな部分が多い。「南北問題や地球環境問題など、世界的規模の経済問題」とあるが、まずもって「地球環境問題」は単なる経済問題ではないし、「南北問題」もそうである。またそれらは、「すべての国ぐにとの平等・互恵の経済関係を促進」することによって解決されるものでもない。この部分は、わが党が非常に単純で機械的な経済主義の立場に立っていることを示唆している。あたかも南北問題や地球環境問題が、経済や技術の発展の単なる不均等と不十分さから生じているかのようである。環境を破壊しない技術が発明され、それが貧しい国に導入されれば、南北の格差が是正され、かつ環境を破壊することなしに経済発展が可能である、と考えているかのようである。
以上が「民主的改革」として新たに加わった条項である。こうしてみると、加わった新たな条項は、企業団体献金の禁止という昔からの伝統的要求を除けば、あまり具体的な政策的・手段的裏づけのない抽象的で理念的なものがほとんどであることがわかる。
不破報告はこの部分については「42年の歴史と経験をふまえて、綱領の政策的な側面を発展させ」たと自信満々に述べているが、実際には行動綱領にあったきわめて具体的で切実な諸要求の多くが削除され、残ったものもかなり曖昧で漠然としたものにされ、新たに加わった政策はごくわずかで、しかもだいたいが抽象的・理念的なものばかりである。
現在進行している軍事大国化政策に反対する諸要求(憲法改悪反対、教育基本法改悪反対など)や新自由主義政策に反対する諸要求(規制緩和反対、民営化反対、福祉の市場化反対、非正規雇用の拡大反対、非正規労働者の権利と地位の向上)さえまったく入っていない。現在の切実な闘争課題と切り結んだ形で綱領をつくるのではなく、そうしたものと切り離したレベルで、将来の上からの抽象的な改革課題・理念を平板に列挙するというのが、綱領改定案の立場なのである。
この間の『学習党活動版』臨時増刊号で行なわれている公開討論でも、綱領改定案を支持するという投稿者からさえ、低賃金問題や失業問題や非正規労働者の問題、青年の雇用問題、さらには教育問題や子どもの問題などで、あまりにも綱領改定案が一般的・抽象的であることに強い不満の声が多数出されている。これでは、不破指導部が目標にしているはずの、綱領そのものを支持集めの手段にするという狭い目標にさえ役立たない。それはせいぜい、現行綱領にある戦闘的な諸要求を削除することによって、「共産党は怖くないよ」というマヌーバーの手段として役立つだけだろう。