第23回党大会と不破綱領の本質

1、党内民主主義と綱領のあり方

 まず不破報告は、この間の全党討論について簡単に振り返り、「全国的な討論の流れは、この改定案に賛成の意見でありました」と述べている。党指導部の提案なら何でも賛成することを何十年と習慣にし体質にしてきたわが党ならば、今回のようなこれまでの革新的伝統を裏切るような内容の綱領改定案でも賛成意見が「全国的な討論の流れ」となるのも無理はない。それは、自主的に思考する共産主義者の結社としての共産党のあり方の破産を示すものであって、けっして誇るべき性質のものではない。
 しかし、それと同時に、綱領改定案に対する批判意見、反対意見、修正意見もかなりの数が見られた。不破は、「全国的な討論の流れ」にのみ言及し、討論のもう一つの側面については言及さえしない。もしまともな民主主義的感覚を持った党指導者なら、こうした多くの批判意見の存在にも冒頭できちんと言及し、そうした批判の声を含めた多様な議論こそが党綱領をよりよいものにすることができるのだと言ったことだろう。
 どんな方針であれ決議案であれ綱領案であれ、何でも機械的に全面的に支持し、礼賛だけしかしないような「忠実な」党員は、実際には最もあてにならない存在である。宮本時代には宮本綱領を賛美し、不破時代には宮本綱領をさっさと否定して新しい不破綱領を賛美する。このような党員は、次の別の最高指導者の奏でる音色に合わせてどんな歌でも歌い、平気で不破綱領をも否定することだろう。

 不破報告は続いて、「よせられた意見、注文を見ますと、綱領の性格をはっきりさせたら解決すると思われるものもかなり多く見受けられました」として、綱領と政策の違いについて次のように述べている。

 「意見ではいろいろな政策的な要望が出されました。しかし、綱領は、要求の総まとめでも政策の集大成でもありません。国民的な要求との関連について言いますと、国民諸階級・諸階層の多様な要求を実現するためにどんな改革が必要であるかを確定するのが、綱領の任務であります。政策は、綱領のその路線をふまえて、各分野で、またその時々の情勢に照らして、要求実現の方向を具体化してゆくのが任務であります。党綱領が当面する改革の大きな方向を打ち出していることは、わが党の政策活動が一貫性を持ち、体系性を持つことの保障となるものであります。綱領と政策などのこういう関係をよくつかんでいただきたいと思います」※。
 ※注 ところで、この引用文の最後に不破は「よくつかんでいただきたいと思います」という言葉を使っている。この教師的な説教調の言葉は、いわば彼の好みの常套句であり、この報告でも同じような表現が何度も使われている(「そこをよく見ることが必要であります」「この改定の意味をよくつかんでほしいと思います」「深く読み取ってほしいと思います」など)。あれこれの意見や批判が出るのは、指導部の側に何らかの欠陥や不十分性があるからではなく、批判する側が「よくつかんでいない」からであるということを、この表現は含意している。いつでも問題は、われわれ平党員が「よくつかんでいない」から起こるのである! よくつかみさえすれば疑問は解消される。愚かな党員諸君、よくつかみたまえ、というわけだ!

 もちろん、不破が言うように綱領が種々の諸政策を書かない場合もありうるだろう。綱領のスタイルは理論的にはさまざまでありうるからである。
 しかし、まず第一に、61年綱領は行動綱領として民主主義的・社会的・経済的な諸要求を列挙するという形式をとっていたのであり、それにはちゃんと理由があったのである。もし「綱領は、要求の総まとめでも政策の集大成でもありません」という一言で片づくのなら、どうして40年間もこのスタイルを踏襲していたのか、なぜ不破は最高指導者の一人として30年にもわたってこのスタイルを擁護してきたのか、それを説明しなければならない。共産党はこれまで、「わが党は綱領に部落差別をなくすことを書いている唯一の党です」とか、「わが党は綱領にアイヌ差別をなくすことを明記している唯一の党です」などといって宣伝してきたし、綱領に書かれている諸要求を読んで共産党に共感をもって入党してきた党員も多数存在する。このことについてきちんと説明するべきだろう。
 第二に、共産党の歴史的使命は単に政権に入ってから行なう行動に限定されるものではない。何よりも共産党は現時点における労働者・市民の苦しみに共感を寄せ、彼らの当面している諸問題に取り組み、その最も切実で中心的な諸要求を取り上げ、その実現のために奮闘する存在なのである。わが党はこのことをこれまでずっと誇りにしてきた。だからこそ、政権入り後の「改革」なるものに国民の諸要求の実現を丸投げしてしまうことは許されないのである。
 また、労働者・市民の諸要求は、政権が変わったからといって、あるいはその政権の行なう種々の政策によって一挙的に実現するものばかりではない。たとえば、福祉の充実や課税民主主義などの要求はまさに政権の政策が決定的な意味を持つだろう。だが、部落差別やアイヌ差別のような社会的差別の解消といった課題は、社会的な持続的取り組みによってしか実現しえないものである。不破綱領は、要求実現のいっさいを共産党の政権入り後の「改革」に収斂させることによって、共産党の本質的な役割の一つを綱領から排除してしまったのである。これが党の議会主義的変質と表裏をなしていることは言うまでもない。

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