次に不破報告は、戦後の章の中身に入って、まず異常な対米従属の問題について論じている。この部分において不破は、この間のイラクへの自衛隊派遣問題や憲法改悪の策動について、それらをもっぱら対米従属問題に結びつけて論じている。すなわち、日本政府がイラクに自衛隊を送るのも、憲法を改悪しようとしているのも、すべて支配層がアメリカに従属してその言いなりになっているからであって、もう一つの支配層であるはずの日本独占資本(不破の好む表現では「財界・大企業」)の要求にもとづくものではない、というわけである。それどころか、戦後一貫して(その動きの強弱は歴史的にさまざまであったとはいえ)自民党がめざしてきた憲法改悪の策動もみな、アメリカからの介入によって説明されている。念のため不破の報告から該当部分を引用しておこう。
「憲法の改定が簡単にはできないということは、アメリカの関係者自身が最初から分かっていましたから、実際の再軍備は憲法第九条の条文には手をつけないままでという、なし崩しのやり方でおこなわれました。その第一歩が、1950年、朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)の直後に、占領軍総司令官マッカーサーの命令で強行された『警察予備隊』の創設でした。これが、4年後の1954年には自衛隊になりました。いま『解釈改憲』と呼ばれている路線も、こうして、アメリカの直接の命令で押しつけられたものであります。
この『解釈改憲』路線をもっとも極端なところに推し進めてきたのが最近のあいつぐ海外派兵の暴挙ですが、それらもすべて、強烈なアメリカの圧力のもとにおこなわれていることは周知のことではありませんか。
“自主独立”どころか、この五十数年間、憲法改悪の最大の推進力となってきたのがアメリカの要求であることは、あまりにも明らかな歴史の事実ではありませんか。」
日本の再軍備も軍隊の海外派兵も悪いのはすべてアメリカだ、というわけだ。何という単純化された戦後史観だろうか。もちろん、日本の軍国主義的復活においてアメリカ帝国主義がきわめて重要な役割を果たしたことは言うまでもない。しかし、わが党が旧綱領のもとでこれまで一貫して主張してきたように、この勢力と並んで日本独占資本の帝国主義的復活の衝動もまたこの軍国主義復活の重要な推進力であったのである。まさにこの二つの勢力の合作の結果として、憲法改悪の試み、警察予備隊発足から自衛隊への発展、そして最近のイラク派兵が存在するのである。
不破新綱領による「アメリカの対日支配」と「財界・大企業の国内支配」という単純化された整理は、実際には、日本の軍国主義復活などの軍事外交問題に関してはもっぱらアメリカの対日支配によって説明し、日本独占資本を免罪することを隠れた目的としている※。
※注 同じ傾向は、第23回党大会決議においても明白である。そこでは、イラク派兵に反対する闘争という当面する最も重要な課題が、第2章の「『異常な対米従属』からの脱却を求めるたたかい 」の中でのみ論じられている。決議や報告などは「異常な対米従属」をまさに「異常」なまでに強調しているが、しかし実際には、日本政府が対米協調・追随を最重視していることの背景には、日本独占資本の本格的な帝国主義化によって生み出された対外派兵の衝動が存在するのである。侵略の過去や憲法の存在、アジア諸国の警戒心、国内の反対運動の存在などから「自分の名前で」海外派兵できない日本独占資本は、アメリカ帝国主義の要請に応じる形で帝国主義的強化をはかろうとしているのである。
こうしたまったく民族主義的な改悪の一環として、日本の帝国主義的復活が綱領から削除されたのである。旧綱領では、軍国主義の復活強化と帝国主義の復活強化が並んで記述されていたが、不破新綱領では軍国主義の復活強化だけが残されて、帝国主義の復活強化は削除された。これは、軍国主義復活をもっぱらアメリカからの圧力によって説明することに真意があることが、今回の大会報告によっていっそう明らかになったといえよう。
ちなみに、今回の大会報告でも、7中総報告における「対米従属のこの体制を打破することは、21世紀の日本が直面する最大の課題であ」るとする認識があえて引用符付きで繰り返されていることについても確認しておいてよいだろう。