不破報告は次に世界情勢の問題に移っている。この部分に関しては、多くの批判すべき内容があるが、すでに過去の『さざ波通信』で何度も取り上げた問題が多いので(国連憲章美化、野党外交の自画自賛、など)、三つの論点に絞って検討しよう。
まず第一に、戦後における世界情勢の変化の問題である。
不破は報告の中で、もっぱら植民地体制の崩壊を強調し、戦後におけるアメリカ帝国主義を中心とする軍事ブロック(帝国主義同盟)とそれによる政治的・経済的・軍事的な世界支配体制、新植民地主義、南北の極端な格差と北による搾取と収奪の問題などをすべて、きれいさっぱり無視している。旧綱領ではこの問題について次のようにはっきりと述べられていた。
「帝国主義陣営の内部では、情勢の変化に対応するために、アメリカを中心とする軍事ブロック化がすすんだ。アメリカ帝国主義は、軍事ブロックを手段として、発達した資本主義国をふくむ多くの国ぐにの主権を侵害し、また各国の独占ブルジョアジーは、その支配を維持するなどの目的で、アメリカ帝国主義の力をかりるために、自国の主権を犠牲にしてきた。資本主義の不均等発展により、帝国主義陣営の内部の矛盾はつよまっているが、帝国主義と反動の国際勢力は、平和、民族独立、社会進歩の運動を抑圧し、世界諸国民への支配をつづけるため、アメリカ帝国主義を盟主とする軍事的・政治的同盟にひきつづき結集している。この軍事ブロック政策は、アメリカの経済的な覇権や権益を追求する経済的な覇権主義と不可分にむすびついている。」
この程度の認識は、マルクス主義者のみならず、社会民主主義者やまともな自由主義者などにとっても常識的な事柄であるが、不破はこうした支配形態の新たな変化については何も述べず、もっぱら古典的な植民地体制の崩壊のみに言及しているのである。国内問題に関しては、不破は、日本独占資本の経済的支配と政治的支配を区別することによって、政治的介入や支配の特殊な形態を分析することができるのだと豪語しながら、国際問題においては、この新しい政治的・経済的支配については何ら具体的な分析を行なわず、旧来の支配形態の崩壊のみを強調するという奇妙な構成になっている。
これはいわば、日本国内に関して、戦後社会の変化を述べるのに、戦前の天皇制国家と侵略体制の崩壊のみを述べて、アメリカ帝国主義による支配や日本独占資本(不破の好きな表現では「大企業・財界」)による新たな支配について何も述べないようなものである。
このような一面的強調の意図は言うまでもなく明らかである。それは、後述する帝国主義論の俗流化につなげるためであり(「ブッシュのアメリカ=唯一の帝国主義」論!)、世界的な規模の革命闘争や世界革命なしに、あれこれの外交的努力(「野党外交」!)や単なる平和運動によって非帝国主義的な国際秩序が実現できるかのような幻想を振りまくためである。このような議論は、かつてわが党が壊滅的な批判を加えたフルシチョフ修正主義をさらにいっそう右寄りにしたものであるのは明らかであろう。このような信じがたい国際情勢論が何の抵抗もなしに大会でまかり通るところにも、日本共産党の度しがたい改良主義的変質が明瞭に示されている。