第23回党大会と不破綱領の本質

7、世界情勢の諸問題(2)――中国美化論の苦しい言い訳

 国際情勢論で論じるべき第二の論点は中国に対する評価の問題である。不破報告は、二つの体制の共存について議論する中で、例によって中国の市場経済化を全面的に礼賛している。しかし、この議論は党内においてもかなり不評だったようで、不破は、今回の報告ではこの問題について苦しい言い訳をせざるをえなかった。少し長くなるが引用させていただく。

 「一つは、“中国・ベトナムなどを『社会主義をめざす』流れと評価しているが、そこで起こっているすべてを肯定するのか”という質問であります。
 私たちが『社会主義をめざす』流れ、あるいは『社会主義をめざす』国と規定するのは、その国が社会主義への方向性を持っていることについて、わが党が、わが党自身の自主的な見解として、そういう判断をおこなっていることを表現したものであります。
 これまでにもいろいろな機会に説明してきましたが、この判断は、その国の政府や政権党の指導部の見解をうのみにしたものではなく、実証的な精神に立っての私たちの自主的な判断であることを、重ねて指摘しておきたいと思います。
 わが党は、その国の人々が自ら『社会主義』を名乗っているからと言って、それを単純に受け入れて『社会主義国』扱いするという安易な態度はとりません。このことは、わが党がソ連問題から引きだした原則的な教訓の一つであります。どの国についても、それは、私たち自身の実証的かつ自主的な判断によるものであります。
 この判断は、方向性についての認識・判断であって、その国で起こっているすべてを肯定するということでは、もちろんありません。改定案自身が、これらの国ぐにの現状について『政治上・経済上の未解決の問題を残しながらも』と明記している通りであります。
 ただ、他国の問題を考える場合、日本共産党は、社会の変革過程についての審判者でもないし、ましてや他国のことに何でも口を出す干渉主義者でもないことに、留意をしてもらいたいと思います。社会主義へのどういう道をすすむかは、その国の国民、その国の政治勢力がその自主的な責任において選ぶことであります。私たちはあらゆる国の状況について積極的に研究し、吸収する価値のあるものは吸収します。しかしそこに、自分たちのいまの考えに合わないところがあるとか、自分が問題点だと思っていることを解決するのに時間がかかっているとかを理由に、あれこれ外部から批判を加えるというのは、日本共産党のやり方ではありません。
 私たちは、その国の政府や政党から公然と攻撃や干渉を受けた場合には、公然と反論します。そうでない限り、それぞれの国の国内問題については、全般的には内政不干渉という原則を守り、公然とした批判的な発言は、事柄の性質からいってもともと国際的な性格を持った問題、あるいは世界への有害な影響が放置できない問題に限るという態度を、一貫してとってきました。
 これは、日本共産党が数十年にわたって守ってきた対外政策の原則であります。この態度は、いろいろな国、いろいろな文明との共存の関係を発展させるうえで、重要な節度だと私たちは確信しています。」

 つまり、中国国内のさまざまな問題を指摘するのは内政干渉になり、事柄の性質からして国際的な性格を持つか、あるいは世界への有害な影響が放置できない問題以外は沈黙を守ることが、「日本共産党が数十年にわたって守ってきた対外政策の原則」であるというのである。これのような言い分は正当性をもつだろうか?

 まず第一に、共産党の従来のいわゆる内政不干渉原則はあくまでも、相手が社会主義国であることを前提としているが、ここで不破は、一般に「他国の問題を考える場合」に内政不干渉が原則になるという言い方をしている。これは、明らかにわが党の歴史を偽造するものである。これまでは、相手が社会主義国でない場合には、国内問題を『赤旗』などで批判的に取り扱うことを何ら躊躇したことはなかった。アメリカ国内で進んでいる貧困の格差の増大やリストラの横行について、『しんぶん赤旗』はこれまで繰り返し批判的に報道してきた。もしここで不破が言っているように、一般に「他国の問題を考える場合」に、その国の国内問題については公然と批判しないという自己規制が一般原則になるならば、そもそもいかなるジャーナリズムも成り立たないだろう。ましてや、いかなるタブーももたないと自称する共産党の機関紙『しんぶん赤旗』の場合はなおさらであろう。それとも、『しんぶん赤旗』は読者に対してこう説明するのだろうか。「赤旗にはいかなるタブーもありません。しかし、日本以外の国の国内問題については全般的に沈黙します」と。このような最も広範かつ最大級のタブーが存在する反骨ジャーナリズムとはいったい何か? 
 以上の批判を揚げ足どりではないかと思う方もおられるかもしれない。不破が言いたかったのはやはり、相手が社会主義国か共産党である場合の原則であって、すべての外国を包括する原則ではないのではないか、と好意的に解釈する方もおられるだろう。しかし、以前の『さざ波通信』で取り上げたように、野党外交において不破は、東南アジアの強権的政権が解雇自由化の法律を制定した問題について、それは内政問題だからわれわれは触れません、と言っているのである。
 本来の「内政干渉」とは、外国の権力機関がはっきりとした政治的・経済的圧力ないし軍事的手段を用いることによって、内政を恣意的に変えようとする行為のこことである。したがって、野党である共産党が『しんぶん赤旗』や党大会などを通じて、あれこれの国の国内問題に批判的な言及をすることは、何ら内政干渉の範疇に入らない。もっと原則的に言えば、「万国の労働者団結せよ」を根本精神としている社会主義者にとって、そもそも発言してはならない「内政問題」などこの世に存在しない。労働者運動にとって、どの国、どの地域であれ労働者や農民、勤労大衆がこうむっているあらゆる搾取と収奪と抑圧はすべて国際問題である。これこそ、100年以上にわたって確固として存在してきた社会主義の根本原則である。
 不破がたてまつるようなタイプの「内政不干渉」原則とは、自国の国民・労働者を支配し搾取し抑圧する権利はその国のブルジョアジーと政治的支配層にあり、他国のブルジョアジーと支配層はそれにあれこれ口出しせず自国民の支配に専念せよ、という徹頭徹尾ブルジョア的・反動的な原則の変種にすぎない。

 第二に、100歩譲って不破のこの新原則を認めたとしても、それでもなお中国における深刻な諸問題について沈黙することは正当化されない。なぜなら、中国で起こっているさまざまな問題の多くは人権問題であり、共産党自身がソルジェニーツイン事件などをきっかけにこれまで言ってきたように、人権問題は国際問題だからである。
 さらに、中国国内で労働者がかつての高度成長期の日本をはるかに上回る超低賃金・超長時間労働を強要されていることによって、世界中の労働者の賃金水準を引き下げることに役立っている。また、中国が無制約に多国籍企業を受け入れ、それにさまざまな便宜を図ってやることによって、世界中の経済と労働者の生活に深刻な打撃を与えている。今や「世界の工場」となっている中国労働者人民の抜本的な生活向上と、その労働者としての権利を守り発展させるための闘争は、すべての労働者、すべての社会主義者にとってきわめて重要な国際的な課題となっている。
 さらに、中国国内で進んでいる深刻な環境破壊は、国境をやすやすと越えて、周辺国に大きな被害を与えている。環境問題に国境は存在しない。中国当局は、環境規制よりも経済成長を重視しており、そのために、高度成長期の日本以上の深刻な環境破壊、住民の健康破壊が進んでいる。
 また、いわゆるチベット問題も深刻な国際問題である。民族抑圧は、レーニンを持ち出すまでもなく国際問題である。チベットの民族自決権を擁護することはすべての社会主義者の政治的義務である。このことは、チベット問題を口実にして中国に本当に内政干渉したがっている極右派の策動を容認することではない。このような本当の意味での内政干渉を防ぐためにも、世界の社会主義者、国際労働運動による、チベット問題に対する批判的立場が必要になるのである。
 以上見たように、中国国内で生じている多くの諸問題はいずれも、不破的基準によっても国際問題である。これらすべてが純粋な国内問題にすぎず、他国の組織が言論でもって批判することさえ許されないとすれば、それは根本的に労働者の国際主義も国際民主主義も否定することになるだろう。

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