共産党の敗北の原因としてもう一つ指摘しておかなければならないのは、共産党が一昨年の8月以来追求してきた野党連合政権構想のせいで、民主党との争点が曖昧化したことである。
共産党は、民主党との連合政権の思惑から、この2年間というもの、ほとんど民主党に対する根本的な批判を回避してきた。民主党の党首が、大手の総合雑誌で堂々と憲法9条の廃棄を主張したときも、共産党は『しんぶん赤旗』で小さく取り上げただけで、その危険性に対してほとんど警鐘を鳴らさなかった。また、民主党が、規制緩和、「小さな政府」を追求する新自由主義政党であり、新ガイドラインに関しても有事立法に関してもそれを支持する立場であることについても、ほとんど宣伝してこなかった。
たとえば、5月31日の『赤旗』に発表された総選挙政策において、民主党に対する批判は次のようなわずかな章句だけしかない。
いま自公保の与党だけでなく、民主党や自由党など野党からも、「福祉目的」という名目で消費税引き上げの声があがっています。民主党は、所得税の課税最低限の引き下げも主張しています。
野党第一党の民主党は、自民党との違いを“政権をとってみないとわからない”などとしかいえず、自民党政治に対抗する政策の足場がつくれないでいます。
しかし、このようなわずかな批判も、次の一節ですっかり台無しになっている。
…自民党の悪政から一歩でも二歩でもぬけだすために、選挙の結果、野党が多数になるなどの条件ができたときには、野党連合政権の協議に積極的に応じる用意があります。
自民党や公明党は、日本共産党が政権に入ると政治が混乱するかのようにいっていますが、国民の暮らしの向上を経済の根本にすえる、自主的な平和の外交をおこなう、憲法を守って政治と社会のゆがみをただす――この政治のどこが混乱でしょうか。
自民党と対抗する政策的足場が民主党にまったくなく、それどころか、自民党と同じく消費税増税勢力であるとすれば、どうして、そのような政党と政権を組んで、「国民の暮らしの向上を経済の根本にすえる、自主的な平和の外交をおこなう、憲法を守って政治と社会のゆがみをただす」政策が実行できるのか? このようなまったく矛盾した態度は、一方では、共産党の本来の公約に対する不信を有権者に植えつけるとともに、他方では、民主党に対する幻想を著しく強める結果になった。「1歩でも2歩でもよりまし」でさえあればいいのなら、何も共産党に投票する必要はない。そのような政府を実現する近道は、民主党に投票を集中させることである。
選挙最終盤になっても、民主党に対する批判は慎重に控えられつづけ、民主党との違いを有権者に印象づけることができなかった。他方で、政策が曖昧なまま政権協議に応じる姿勢を下手に強調することで、綱領問題を攻撃する絶好の口実を与党勢力に与えた。こうして、非自民の中間的な批判票は共産党にではなく、民主党に行くことになってしまった。