総選挙の敗北は何を語るか――問われる指導部の責任

共産党の敗北の原因(3)
 ――革新系有権者への裏切り

 しかし今回、共産党に最大のダメージを与えたのは、この間の指導部のあまりにも露骨な体制迎合路線が、本来の基盤である革新系有権者に大きな幻滅と困惑を与えたことである。とくに、投票日近くになって、不破指導部が、自衛隊と天皇制という革新の大義の根幹にかかわる大問題において、これまでの基本的立場を大きく裏切ったことは、直接的に重大な影響を選挙に与えた。それは、質的にもこれまでの日和見主義路線の段階を画する内容を持っているだけでなく、よりにもよって、選挙直前に打ち出されたことで、革新系有権者の投票動向に直接の影響を及ぼした。
 おそらく、6月8日付『朝日』に報じられた自衛隊活用論、そして、その後の「皇太后」への弔意表明と参院での弔詞文への賛成という決定的な2つの事件がなかったとしたら、革新系有権者は、たとえそれまでの不破指導部の姿勢に大いに批判意見を持っていたとしても、投票を控えるところまではしなかっただろう。現在の議会政党をながめるなら、やはり共産党は腐っても共産党であり、社会民主党などよりもはるかにまだ左のスタンスを有している。だが、有事における自衛隊の活用を肯定し、「皇太后」への弔意を表明し、国会で弔詞文にさえ賛成したことで、もはや社民党の代わりに共産党に投票する意義が見出せなくなった多くの左派有権者が生まれた。もし共産党と社民党に、基本的政治問題での差があまり見出せないのだとすれば、党内民主主義の点でまだより自由であり、また市民派の候補者を一定出馬させている社民党に投票するほうが有意義であると感じた人々が多数出ても何らおかしくはない。また、社民党を積極的に支持していなくても、共産党にお灸をすえる意味で社民党に投票した人も一定数いたにちがいない。
 そして実際、共産党が98年参院選より150万票も減らし、その代わりに社民党が120万票増やしたことを見比べるなら、明らかに、これまで社会党(ないし社民党)から共産党へと流れていた票の一部に逆流が生じ、共産党から社民党へとかなりの票が移動したことは間違いない。あるいは、幻滅した一部が棄権に回った可能性も大いにある。
 また、この点で興味深いのは、小選挙区制の票の出方である。小選挙区票に関しては、共産党は96年総選挙の時と比べて、得票率では下がっているが、得票数ではあまり変化がなく、むしろ若干増やしている(約710万から約735万)。これは、小選挙区制に関しては引き続き共産党に投票しながら、比例区では別の政党に乗り換えた、あるいは棄権したかなりの数の投票者がいることを意味している。小選挙区で民主党ではなく共産党に入れたことから、この部分は基本的に革新系有権者だとみなすことができる。とすれば、比例区で別の政党に投票ないし棄権したということは、明らかにこの間の共産党の右傾化に対する幻滅ないし批判が重要な動機の一つとしてあったと思われる。
 さらにもう一つ指摘しておくべきことは、新社会党の基礎票のゆくえである。共産党が820万票を獲得した98年参院選において、新社会党は約90万票を獲得している。今回、新社会党は反動的な選挙制度のせいで比例区に候補者を立てることができなかった。したがって、98年に新社会党に投じられた90万票は、当然、共産党か社会民主党のどちらかに投じられることになる。新社会党と最も政策が近いのは明らかに共産党である。社会民主党とは、もともと同じ政党であったという親近性はあったとしても、最重要政策で言えば、最も一致しているのは共産党である。もし、共産党がこの間の右傾化路線をとらず、革新の大義を守りつづけたとしたら、新社会党に投じられた90万票の多数は共産党に流れただろう。したがって、この1点だけからしても、共産党は、98年参院選よりも大幅に得票を増やす客観的条件があったのである。
 にもかかわらず、共産党は票を増やすどころか、150万票も票を減らした。明らかに、この間の共産党の右傾化路線に失望した新社会党支持者の票のかなりの部分が社民党に流れたのである。とはいえ、前回新社会党に投じた人で今回共産党に投じた人もやはりそれなりの規模でいただろうから、それでも共産党が150万票失ったということは、共産党から離れた票数は表面上の数字よりもっと多いと考えるべきだろう。
 もう一つ注目すべきは、社民党候補者が小選挙区で劇的な勝利を飾った沖縄3区である。本来、自衛隊合憲、安保容認の立場をとった社民党よりも、はるかに共産党のほうが沖縄の声を代表するにふさわしい政党だったはずである。にもかかわらず、この選挙区で勝利したのは社民党の候補者だった。共産党は、この沖縄3区での得票を大きく減らしている。すでに述べたように、共産党は全体として小選挙区では96年の時と大差ない得票をとっているにもかかわらず、この沖縄3区では、前回11・98%の得票率に対して、今回、4・91%の得票率へとまさに激減している。これも、この間の右傾化路線と無関係ではないはずだ。

 私たちはすでに、この間の共産党の得票増の主要原因が、社会党の崩壊によって革新票が共産党に一極集中しはじめことにあると指摘し、この流れがひとおおり終息したなら、共産党の得票増は頭打ちになるだろうと指摘してきた。すでに、昨年のいっせい地方選挙の後半戦において、そうした「頭打ち」現象が一部見られており、私たちはそのとき『さざ波通信』第3号の座談会で、次のように指摘しておいた。

 まず大きな要因について言うと、1995年以降から生じた共産党の上昇カーブというものが、ちょうどこの時期に一つの頂点を向かえ、勢いが落ちたということが考えられます。共産党の躍進は基本的には、社会党の崩壊によって伝統的革新票が共産党に一極集中されるようになったこと、自民党政府による新自由主義政策によって構造的に不利益をこうむる階層が、伝統的保守から離れ始めて共産党に向かい始めたこと、です。
 まず前者に関しては、伝統的革新の総得票にはある一定の限界があり、しかも、昨今の日本の帝国主義化によって構造的に掘りくずされていく傾向があります。したがって、かつては社会党に投じていた人々の票がおおむね共産党に移った時点で、この部分からの得票増は必然的に頭打ちになります。これが、全体としての頭打ちの最大要因ではないかと思います。

 また、同時に私たちは、この間、共産党の足腰が弱り、大衆運動分野においても党建設分野においても停滞と後退が著しく、こうした状況のもとでいつまでも得票増を続けることはできないと繰り返し指摘してきた。たとえば、『さざ波通信』第10号の5中総批判論文において、次のような危険性を指摘している。

 実力と得票数との乖離がいつまでも続くことはありえない。いずれ得票増は頭打ちになるだろう。そのとき、指導部が、いっそうの得票増をめざして政策を(そして場合によっては綱領そのものをも)いっそう大胆に右傾化させることになりかねない。

 この危惧はある意味で私たちの予想よりもずっと早く現実のものとなった。私たちはもっと先を想定していたのだが、政権入りの幻想に取りつかれた不破指導部は、この総選挙の直前に、新しい段階を画する「大胆な右傾化」を実行した。
 さらに私たちは、『さざ波通信』第12号の雑録論文-1の中で、現在の右傾化路線が土台そのものを侵食する危険性についても警告を発しておいた。

 下からの運動が停滞ないし後退しているもとで、いつまでも選挙における躍進を続けることはできない。土台が侵食されつつあるもとで大きな建物を――しかも政権という大建造物を――建てようとするならば、その建造物もろとも土台が崩壊しかねない。しかも、その建造物そのものが手抜き工事の産物である。不破指導部は、しっかりと大衆運動という土台に根を張った柱や壁で建物を建てるのではなく、必死になって右にウイングを伸ばして、建築材料になりそうなものを片っ端からかき集め、まともな設計図(政策)もなしに突貫工事で建設しようとしている。このようにして建てられた建物は、少しでも嵐が吹けば倒壊し、その中の住民の生命を脅かすとともに、しっかりとした柱や土台部分までも崩壊させることだろう。

 この予想はすでに一部現実のものとなっている。しかし、結局、政権入りが果たされなかったことで、共産党の最終的な崩壊はなお回避されている。今ならまだ間に合う。早急に現在の指導部の基本路線を変更し、革新の大道に立ち戻らせ、下からの大衆運動を真剣に構築することが必要である。

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