総選挙の敗北は何を語るか――問われる指導部の責任

2つの道――さらなる右傾化か革新の大道か

 以上見てきたように、今回の共産党の敗北は基本的に、この間の右傾化路線、体制迎合路線によって引き起こされたものであり、有権者による明白な審判である。右からは謀略ビラによって切り崩され、中間票は民主党との争点の曖昧化によって逃し、左からは、自らの露骨な右傾化路線によって票を失った。いずれも、この間の不破指導部の戦略と戦術の破綻をはっきりと示すものである。
 しかし、選挙後の党指導部の発言や動向を見るかぎり、彼らはいかなる反省の弁も示していないし、これまでの路線を改める気配も見せていない。今のところ、今回の敗北がどのような形で党指導部の動きを規定するのかは、不明である。しかし、私たちは基本的に現時点で2つの道がありうると考える。
 1つは、ブルジョア・マスコミや右派世論によって期待されている、さらなる右傾化の道である。綱領や党名をそのままにし、その中に記されている「革命的」諸要求や目標を「将来のこと」として棚上げして、現在の保守意識に追随する路線は、いつまでも維持できるものではない。やがては、現在の「現実主義」路線と綱領との一致が求められるようになる。だが、共産党が綱領を改訂し、党名を改めることで、議会主義的な意味で何らかの前進が勝ち取れると思ったら、それはまったくの幻想にすぎない。社会党の前例がはっきりとそのことを示している。現在、社民党は一定の復調を見せているが、それは革新の大義を裏切ったおかげではなく、それにもかかわらず共産党の右傾化と社会状況全体の急速な右傾化に対する反発によって生じている。共産党が、社会党と同じ道を歩むならば、それは愚かな政治的自殺の道である。
 もう1つは、革新の大義をあくまでも擁護し、本来の革新の基盤と基軸をしっかり保持した上で、現在の新自由主義と帝国主義化の路線と正面から対決し、民衆の切実な要求を取り上げ、その実現のための下からの闘争を組織していく道である。この立場は何も、教条的な原則主義や最大限綱領主義を意味するものでは断じてない。それどころか、保守勢力へのおもねりとはまったく違ったレベルでの柔軟性が大いに必要とされる。
 私たちはすでに、今回の総選挙において、小選挙区すべてに独自候補を立てるという方針を批判し、革新の総議席を増やすために、少なくとも新社会党候補者が出ている唯一の選挙区である兵庫3区で党の候補者を降ろすよう要求した。選挙結果を見ると、新社会党候補者と共産党候補者の得票を足しても、1位当選者には1万票あまり及ばない(1位当選者6万6547票(民主)、新社会党と共産党の合計得票数5万6116票)。このことをもって、革新候補を1本化しても結局は勝てなかったという意見が見られる。しかし、これはまったく一面的である。小選挙区制とは、基本的に、最も勝てる可能性のある候補者に多くの票が集中する制度である。新社会党と共産党がそれぞれ独自の候補者を出した時点で、一般有権者の目から見てどちらも勝てる可能性のある候補者ではなくなった。したがって、せめて与党候補者を当選させないためにという配慮から、勝てる可能性のある民主党候補者に革新票の一部が回った可能性がある。もし、革新候補が1本化していたなら、この候補者こそが勝てる可能性のある候補者となり、新社会党と共産党が個別に獲得した得票をはるかに上回る票を獲得しただろう。
 このことをはっきり裏書きしているのが、狛江市長選の結果である。革新統一候補であった矢野ゆたか氏は自自公プラス民主党のオール与党勢力を向こうに回して圧勝した。もし共産党が兵庫3区の岡崎宏美氏と政策協定を結び、同氏を唯一の革新候補にしていたなら、1万票の差など楽々クリアし、自民党と民主党の両候補者に勝利したであろう。そして、共産党の道徳的・政治的権威は大きく増大し、共産党に対する共感が高まっただろう。
 共産党は、この間、一貫して漠然とした野党共闘を掲げつづけ、政策がまったく曖昧なまま野党の連合政権を提唱してきた。民主党が共産党と政権を組む意志のないもとでのこのようなメリハリのない共闘路線は、自公保か民主かという政権選択が争点の中心になるやいなや、完全に共産党の独自性を見えなくさせてしまう。このことが結局、中間層を民主党に食われる結果を招いたのである。これは、政権入りを目指す党指導部の日和見主義的思惑にとってさえマイナスでしかなかった。
 共産党は、課題によってはもちろん全野党共闘にも積極的に参加するべきだが、しかし基本的には、「護憲と革新の第3極」を構築することへとその共闘路線の照準を定めるべきである。それは、一方では、新社会党や市民派左派との末端組織や大衆運動レベルでの地道で誠実な共闘を積み重ねること、他方では、社民党を民主党ブロックから引き離し、「護憲と革新のブロック」に引きこむことを意識的に目指さなければならない。とりわけ、今後の国会で焦点となるであろう憲法改悪と有事立法、消費税増税、社会保障改悪(民営化路線を含む)などをめぐって、国会の内外で広範な統一戦線を構築し、その闘争の先頭に立たなければならない。これらの問題において、民主党や自由党は基本的に自自保と同じ立場であり、鋭く共産党の立場と対立している。これらの問題において全野党共闘など問題になりえない。
 共産党が、誠実な党内討論と自己批判を伴ってこれまでの連合政権路線をきっぱりと放棄し、これらの切実な諸課題において下からの運動の先頭に立ち、基本原則をめぐる諸問題で革新の立場を再び原則的に擁護するなら、共産党はこれまでの失策と裏切りによる政治的ダメージを回復し、再び有権者の、とりわけ革新系有権者の信頼を取り戻ることができるだろう。これこそが、共産党が生き残り、発展していくことのできる唯一の道である。

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