不破政権論について改めて考える

1、「不破政権論の破綻」とはどういうことか

 まず最初に、「不破政権論が破綻している」とする私たちの判断に対して、どういう意味で破綻しているのかという疑問がタケル同志から出されています。改めて、『さざ波通信』第1号のインタビューをふりかえってみましょう。
 その中で、冒頭、インタビュアーはこの間の経過をふりかえりながら、次のように総括しています。

しかしその後、金融問題に関して、銀行に公的資金を投入するということで与野党の合意がなり、さらに労基法改悪でも共産党以外の野党が修正自民案に賛成するという事態になって、不破政権論のリアリティが急速に失われていきます。

 そしてインタビュアーはこう述べてしめくくっています。

さらに、11月19日には、自自連立の党首合意がなって、不破政権論は、当面する話題としては完全に姿を消します。

 こうした経過をふまえて、私たちは不破政権論の破綻とみなしたわけですが、これはどういうことでしょうか。まず何よりも問題なのは、民主党が大銀行への公的資金の投入や労働基準法の改悪を支持したこと、あるいは、自由党が消費税減税の公約を後景に押しやり、ついには対決相手であるはずの自民党と連合を組んだこと、こうした事態は、たまたま民主党や自由党が反自民としての姿勢が未成熟だったから生じたことなのかどうか、ということです。
 私たちはそうはみなしませんでした。それは、民主党と自由党の階級的本質からくる必然的な事態であったというのが、私たちの判断です。これは最初から明らかなことでした。したがって、今さらながら、銀行への60兆円の投入や労働基準法改悪に民主党が賛成したことに驚き、民主党の野党としての未成熟を嘆く不破指導部の姿勢は自らの政治的混迷ぶりを露わにするものでした。
 共産党が持っている基本政策と根本的に相反する、逆方向の政策を有している政党と、今なお不明だが何らかの緊急の政策で一致して連合政権をつくれる、とわが党指導部が判断したことそのものが、根本的に誤っているのです。そしてその誤りが、その後の一連の過程で明々白々になった、それゆえ、不破政権論は破綻したと私たちは言ったのです。
 不破政権論は何か特定の政党を念頭において語られたものではない、単に、総選挙で与党が少数派になったときの基本姿勢を明らかにしただけだ、という反論がタケル同志より出されています。しかし、このような反論は2つの点で成り立たないと私たちは考えます。
 まず第1に、共産党は、いつの総選挙の前にもこのような連合政権論を出していたわけではありません。過去にも暫定連合政権構想は出されたことがあるのは事実です。しかし、戦後20回行なわれている総選挙において、たった2回しかその種の暫定連合政権構想は出されていません。次の総選挙で与党が少数派になる可能性があるからだというのはその通りですが、次の選挙で与党が少数になる可能性は、実際には、93年総選挙のときの方がはるかに高いものでした。にもかかわらず、そのとき共産党は、この種の暫定連合政権構想を、「論」としてもまったく出していません。なぜそのときに出さず、今回出したのか? それは、明らかに、単なる基本姿勢としてではなく、特定の政党との組み合わせを念頭においていたからです。では、その特定の政党とは何か。
 それは、当時の事実関係を見れば明らかです。一昨年の不破政権論が、参院選挙後の首相指名選挙で共産党議員が第一回目の投票から民主党の菅直人に入れたすぐ後に出されているのは、はたして偶然でしょうか? そして、第一回目から菅直人に入れた政党は、当事者である民主党を除けば、共産党と自由党だけでした。そして、自由党とは、消費税減税という一致点もありました。こうした政治的組み合わせの実現こそが、不破委員長をして、総選挙後の暫定連合政権の大きな可能性を感じさせるものだったのです。
 そして実際、3中総において、志位書記局長は「今日の情勢は、これまでのどの時期とくらべても、この方針[「よりましな政府」]がリアルな現実性をもっている」と述べています。一般に次の選挙で与党が少数になる可能性があるからではなく、「これまでのどの時期とくらべても、この方針がリアルである」から、今回の不破政権論は出されたのです。
 第2に、これまでの暫定連合政権構想は、総選挙が始まってから、あるいはその直前に出されています。今回は、次の総選挙がいつになるかまだわからない時点(98年8月)で早々に出されました。もちろん、そのとき、即時の解散総選挙を共産党を含む野党は強く要求していました。しかし、いくら即時の解散を要求しているからといって、選挙の日程が立つのはいずれにせよ、かなりの先です。にもかかわらず、これほど早々に暫定連合政権論について語られたのは、この政権論が、単なる基本姿勢の提示をはるかに越えた政治的意味を持っていたからです。

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