不破政権論について改めて考える

2、民主党を追いつめる戦術になりうるか

 タケル同志は討論の中で、先の問題と関連して次のように述べています。

ハッキリ言って、別に民主党がこの協議に応じなくたって、今回表明した暫定政権構想はいささかも傷つくものではありません。実体的には民主党を追い詰めている形になっていますし、戦術的にも正しいでしょう。

 この反論は奇妙です。民主党を追い詰めるためには最小限、具体的に民主党に対して、「君たちも一致できるはずのこれこれの政策で連合政権をともにつくろうではないか」と呼びかける必要があります。ところが、すでにタケル同志は、今回の不破政権論がそのような煮詰まった政権構想ではなく、単に、次の選挙で与党が小数になったときの基本姿勢を提示したものにすぎないとおっしゃっています。そのような一般的な「論」の提示にすぎないなら、民主党は別に無視すればいいだけの話です。ああそうですか、で終わりです。
 相手を追いつめるものとしての統一戦線戦術は、具体的な政策提起と、具体的な呼びかけを必要条件としています。もちろん、このような条件があったからといって、必ずしも相手を追いつめる効果を持つわけではなく、それに追加してのさまざまな十分条件が考えられますが(たとえば、提示する政策が人民にとって切実なものであること、その政策を実現するための強力な大衆運動があること、等)、少なくとも、相手を追いつめるためには、そのような具体性が不可欠です。どのような政策で連合するのか不明、ただ「自民党政治を部分的に打破する」としか言われておらず、しかも、どの政党に向けて提案しているのかも不明、これでどうして、民主党を追いつめることになるのでしょう。
 タケル同志が、今回の政権論が「民主党を追いつめている」と言ったことは、実際には、今回の政権論が民主党をまさに念頭に置いたものであることを、はからずも示しているのではないでしょうか。
 さらに、民主党が共産党との連立協議を拒否したからといって、それだけで民主党が追いつめられるでしょうか? 3月12日付『朝日新聞』に興味深いアンケート調査の結果が示されています。その中で、支持政党だけでなく、「支持したくない政党」についての調査結果も示されています。これは従来の拒否政党調査(各政党についてそれぞれ拒否感を持つかどうかの調査)と違って、第1番目に支持したくない政党を挙げてもらうというものです。この調査において、全体平均でトップをとったのは共産党でした。自民党の10%、公明党の19%を大きく抜いて、24%の拒否率です。これは、最も支持したくない政党の調査ですから、2番目、3番目に支持したくないを入れれば、この数字はもっと大きくなるでしょう。民主党支持者の中でも、17%が共産党を最も「支持したくない」に挙げていました(その反対に、共産党支持者の中では、民主党を支持したくない1番目に挙げたのはたったの2%でした)。
 つまり、民主党が共産党との連立を拒否しても世論的反発があまり強くないと言えます。逆に、共産党と連立することで、民主党支持者内部の「共産党を支持したくない」部分を離反させる危険性さえあります。
 また、実際には、民主党を「追いつめる」意思など共産党指導部にないことは、安保問題や憲法問題に対する姿勢を見れば明らかです。また、最近でも、共産党や社民党を狙い撃ちするものであるのが明白な選挙法改悪案に民主党は賛成の態度を明らかにしましたが、それに対する共産党指導部の曖昧な態度にもこのことは示されています。安保問題については後で述べるとして、憲法問題をめぐる共産党指導部の態度を見てみましょう。
 すでにこれまでの『さざ波通信』で詳しく述べているように(たとえば、『さざ波通信』第7号のメイン論文を参照)、民主党の鳩山党首は昨年、『文藝春秋』で堂々と改憲論を展開し、小沢以上の自衛隊肯定論を持ち出しました。しかしながら、共産党はこの改憲論をまともに批判しようとせず、鳩山党首当選直後の志位談話は「憲法問題など、わが党として同意できない大きな問題があるが、それは必要に応じて率直に討論していきたい」とさらりと流しました。それどころか、その直後の党首訪問では、不破委員長は鳩山に対して「お互いは笑顔でいきましょう」とまで言いきっています(『さざ波通信』第7号の雑録論文を参照)。
 さらに、昨年末に憲法調査会設置法が国会で強行可決されたとき、民主党もこの法案に賛成しましたが、共産党はまったく民主党を批判しませんでした。一昨年に銀行への60兆円支援に民主党が賛成したときには多少なりとも批判がなされましたが、その程度の批判さえ憲法調査会設置法のときにはありませんでした。民主党に対する共産党の態度は、一昨年と比べてさえ屈服的なものとなっています。
 こうした態度のどこに、民主党を「追いつめる」姿勢があるというのでしょう? その反対です。共産党は、政権に入りたいがために、民主党を「追いつめ」たくないのです。このことを率直に直視すべきではないでしょうか。

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