すでに見たように、タケル同志は、政党の綱領や本質とは無関係に、当面する政策で部分的に一致していたら連立政権を組んでよいと考えています。私たちは、そのような立場には絶対に反対ですが、この原則論に関しては後で論じるとして、では、いったいどのような一致点がありうるというのでしょうか。タケル同志は野党党首間の次のような合意事項を持ち出しています。
「3.金権疑惑については連絡を取りながら究明し、政治倫理の厳格な確立の立場で臨む。4.2000年度の予算についてはバラマキ、借金予算の無責任さを追及し、財政再建を先送りすることなく、その計画と展望の提示を要求する」
金権疑惑の解明は野党としてもできるので、政権をともに作って行なう政策としては「財政再建を先送りすることなく、その計画と展望の提示を要求する」が該当するでしょう。つまり、「財政再建をする」という一致点がありうる、というわけです。同じくタケル同志は、次のように、より積極的に、ありうる一致点について述べています。
そうした綱領的な立場の違いを「暫定」政権を作る上での障害としてはいけないのです。その違いを脇に置いて、当面する政策上の一致点で合意することが大切だと思います。ではどんな政策で合意できるのか。これは今回の野党3党の合意が参考になると思いますが、少なくとも官僚主導の無駄な公共事業の削減や、雇用確保の推進による不況打開対策などは一致できるのではないでしょうか。
ここでは「官僚主導の無駄な公共事業の削減」と「雇用確保の推進による不況打開対策」の2つが挙げられています。後者の「雇用確保の推進による不況打開対策」というのが具体的に何を念頭においているのか不明ですが、前者の「官僚主導の無駄な公共事業の削減」はよくわかります。先に挙げられた「財政再建」と基本的には重なるものとみてよいでしょう。
つまり、当面一致する政策としては何よりも、「無駄な公共事業の削減による財政再建」が考えられているわけです。では、この点に関して、本当に共産党と民主党は一致しているのでしょうか?
民主党は、今年の1月16日に、次の総選挙に向けた包括的な選挙政策を発表しました。この選挙政策の中で民主党は公共事業費について次のように具体的に提案しています。
当面は、現状の公共投資水準を維持しつつ、公共事業費の配分を徹底的に見直し、重点化をはかります。また、自然環境及び生態系への影響など環境コストを内部化したうえで、事前の費用便益評価や事後評価の両面からチェックする仕組みを確立します。これらの評価システムの導入と併せて発注方式の改革や工法の改善などを促進し、少なくとも、今後5年間で2割、10年以内に3割の公共事業費を削減します。
このように「当面は、現状の公共投資水準を維持」すると述べられています。そして、その削減規模にしても、5年間でようやく2割減です。5年かけて2割削減するということは、毎年、4%づつしか削減されないということです。現在、約50兆円の公共事業費が毎年計上されていますが、4%減ということは、民主党主導の連合政権ができたとしても、次の予算案でようやく2兆円だけ削減され、48兆円の公共事業費が投資されるということです。この程度の削減なら、自民党政府にだってできるでしょう。5年後にようやく40兆円。つまり、この5年間に220兆円もの公共事業費が投下されるということです。この予算のほとんどはもちろん、赤字国債の発行でまかなわれるでしょう。
そして、民主党の政策によれば、10年後にようやく3割削減になります。つまり、最初の5年間で10兆円が削減されるのに、次の5年間では5兆円しか削減されないということです。
さて、わが党は公共事業費の半減を要求しています。しかし、民主党の政策によるなら、この目標は10年たっても実現されません。しかも、すでに述べたように、最初の5年間は10兆円の削減ですが、次の5年間ではたった5兆円の削減です。すると、半減目標を達成するためにはさらに10兆円の削減が必要なので、この調子で行くと、さらに10年間が追加的に必要になります。つまりトータルで20年かかります。とんだ「暫定」連合政権です。
また、口先の美辞麗句だけではなく、地方政治における民主党の実際の行動を見てみる必要があります。先の大阪府知事選と京都市長選において、民主党は自自公とともに、大型公共事業推進と福祉切り捨ての候補者を応援しました。地方政治では自民党政治を継承している政党が、中央政治ではそれを部分的にでも打破できると言うのでしょか。
問題はまだあります。民主党は、財政再建の中心を必ずしも無駄な公共事業の削減に置いているわけではありません。民主党の財政再建策の要は何よりも、公共部門をできるだけ民営化し、政府の仕事をできるだけ地方自治体に委譲することで、「小さな政府」を実現することにあります。実際、公共事業費問題についての政策を語った直後の部分で、次のように言われています。
さらなる民営化をはかるために
国が行う事業は、民間でできない事業に限定します。この観点から、国のすべての事業を民間参入の可能性の観点から見直します。民間の参入が可能な事業分野は、国の事業から分離し、民営化を推進するとともに、民間参入を自由化して競争を促進します。「民営化する国の事業の政府保有株式の売却」「遊休地などの国有資産の売却」などによって財政の健全化を推進します。
こうした立場は、この選挙政策の別の部分でも強調されています。たとえば、「国の事務を限定する」という項目では次のように言われています。
国が行う事務を明確に限定し、具体的に列挙します。「国の事務」は、外交・防衛・皇室・司法・通貨の外、ルールの設定とそのチェックに特化させ、指導行政にかかわる事務や実施事務は、原則、地方に移管します。社会保障における国の役割も、その財政調整機能と最低基準の設定に限定し、具体的な実施・給付については、地方自治体に委ねます
国として最も大切な社会保障事業さえ、地方に委ねてしまうわけです。これは、ていのいい福祉リストラ政策に他なりません。さらに、「地方への権限委譲とスリムな中央省庁化のために」という項目では、次のように言われています。
看板の掛け替えにとどまった現在の中央省庁再編に代え、地方への権限委譲を踏まえて、スリムな中央省庁に再編します。国の事務を「企画部門」と「実施部門」に整理し、公権的強制力行使を伴わない実施部門は、行政本体から切り離し、原則として民間に委託します。どうしても民間委託が不可能な分野についてのみ、独立行政法人によって実施します。
このように、民主党が目指しているのは徹底した民間委託化と独立行政法人化であり、まさに新自由主義的政策です。ちなみに、この立場は教育の分野においても貫かれています。たとえば高等教育について、先の選挙政策では、次のように述べられています。
国立大学を民営化・公立化する
国立大学への手厚い保護が、国立・私立間の公平な競争を阻害し、非効率的な経営につながっています。一方、難易度の高い国立大学の学生の家計収入は高く、国立大学の安い授業料が低所得者層への機会均等になっているわけではありません。そこで、国立大学は、原則としてすべて民営化をめざします。ただし、地方自治体が希望する場合には、公立化にします。国立大学は、民間のインセンティブが働きにくい基礎研究などを行う少数の大学院大学に限定します。
国立大学の民営化によって、競争条件が対等になれば、消費者が選択できる教育機関の幅が広がり、各大学には教育の質の向上、差別化へのインセンティブが与えられます。また、予算、人事面など組織運営に関して大学側の自由度が向上するとともに、大学の経営努力が促されます。
研究開発費に関しては、「産学協同」体制による民間からの資金協力を基本に置きます。
独立行政法人化された大学においてはもちろん、大学自治は否定されます。民主党自身、その政策の中で、独立行政法人の長への「権限の集中」を要求しているからです。
また医療の分野においても、同じ新自由主義は貫かれます。現在、自自公政権は医療費抑制を口実として、診療費の包括化(政府が基準に定めた診療や検査を越える診療や検査をしても診療報酬として算定しない仕組み)、定額化を推し進めようとしていますが、民主党の政策はまさにこの方向性をいっそう徹底させるものとなっています。
さて、「財政再建」において重要なのは、「歳出」だけでなく、「歳入」の方もです。民主党はいったいどのような税制改革政策を持っているでしょうか? まず所得税については、各種の「人的控除制度」をなくして課税ベースを拡大し、かつ、「税率の引き下げ」が公然とうたわれています。すでにこの間の自民党政治による「金持ち減税」のおかげで、所得税の最高税率が大幅に引き下げられたというのに、なおいっそう引き下げようというのです。その一方で、各種の控除をなくすことでその分の埋め合わせをしようというわけです。まさに庶民増税、金持ち減税です。
さらに、法人税については、大企業優遇税制の是正については何一つ述べられておらず、反対に「法人事業税の外形標準課税化」がうたわれています。「外形標準課税」というのは、石原新税によって一躍有名になりましたが、この税制度は実際には、普遍的に適用されるなら、大規模な大企業減税、中小零細企業増税になるものです。粗利益にかかわりなく税金をとるので、当然、利益の少ない中小零細や労働集約的な企業は大増税になります。その一方で粗利益の大きい大企業は減税になります。今回の銀行の場合のように、不良債権を粗利益から引くことが許されている場合には、外形標準課税化は大銀行に対する増税になりますが、そうではない普通の大企業の場合には、むしろ大幅の減税になるのです。だからこそ、財界は外形標準課税化を政府に要求しているのです。また、人件費を含めた全体に税金がかかるので、外形標準課税化はいっそうのリストラ、低賃金不安定雇用の拡大を促進するでしょう。
さらに、民主党は消費税の福祉目的税化を主張しています。現在の消費税収入でまかなうとすれば、現在の貧困な社会保障費ですら維持することはできませんので、必然的に消費税を大幅に増税させることが必要になります。
以上が民主党の財政再建&構造改革案です。「財政再建」という言葉だけが一致していても、その具体的な内容となると、多くの場合、共産党の政策と真っ向から対立する新自由主義的政策が主張されているのです。当面する政策でも共産党と民主党は一致していないと『さざ波通信』第1号のインタビューが主張したのは、はたして根拠のないことだったでしょうか?