以上、不破報告の順番に基本的に沿って、重要と思われるいくつかの論点を取り出し、批判的に検討した。だが、不破報告は、それが語っていることだけでなく、それが語っていないことにも注目しないかぎり正当に評価することはできない。よく読めば、いくつかの重要問題について語られていないことがわかる。
まず第1に、3月末に日本全国をにぎわせた不審船事件とそれに対する戦後発の海上警備行動の発動について、何も語られていない。共産党指導部は当時、志位書記局長および不破委員長の談話の中で、全容の究明についてのみ語り、明確な政治的判断を保留した。あれからすでに2ヵ月半がすぎた。全容究明には十分な時間が経過したはずである。だが、なぜこの重要問題について、この4中総でまったく触れられていないのか? いったいいつになったら全容が究明されるのか? 自衛隊が実際に戦闘行為を行ない、少なくとも憲法9条が禁止する「武力による威嚇」を行なったというのに、なぜ今なお沈黙を続けるのか?
不破委員長は、今回の報告のなかで、繰り返し戦争法案の発動を許さないこと、憲法9条第1項を擁護することについて語っている。さらには、「憲法擁護の広大な戦線をきずきあげることに特別な努力」をするよう呼びかけてもいる。だが、周辺事態法が発動されるよりも前に、すでに海上警備行動が発動され、自衛隊が護衛艦から数十発の威嚇射撃をし、P3Cが爆弾を何十発も落としたというのに、すでに目の前で憲法9条第1項がふみにじられているというのに、なぜこのことを糾弾しないのか。
この事件を利用して、領海警備の強化がマスコミを挙げて喧伝され、政府も領海警備の強化に向けて着々と準備をすすめ、自衛隊法の改定をも目標に定めているというのに、わが党は、不審船事件に対する政治的評価ができないため、この一連の動きに対して何らまともな対応ができていない。これは非常に深刻で、由々しき問題である。
第2に、不破委員長が『新日本共産党宣言』で、第20回党大会決定および第21回党大会決定に違反する「自衛のための軍事力」を肯定する発言をしたことについても、何も言われていない。この解釈改憲発言についてはすでに、『さざ波通信』第2号の雑録論文と『さざ波通信』第3号のインタビューで詳しく論じた。大会決定上も、憲法解釈上も、そして憲法学者の多数意見に関しても、不破委員長の見解がことごとく誤っていることを、われわれは完膚なきまでに明らかにした。ここから必然的に出てくる結論は、あの発言を正式に撤回し、憲法9条と大会決定の精神に戻ることである。
第3に、5月8日付『朝日新聞』の記事に関するコメントがないことである。トピックスおよび『さざ波通信』第4号の雑録論文で紹介したように、『朝日新聞』 は『新日本共産党宣言』での不破発言をもって、「共産党が事実上自衛隊を容認」したのだと解釈している。また、不審船事件に関しても、共産党が政府を非難しなかった事実を、共産党が政権に入ったときに同じように自衛隊を利用する可能性を考慮してのことだと解釈している。こうした解釈はきわめて重大なものであり、もしそれが本当なら、共産党指導部は完全にその政治的原則を裏切ったことを意味する。そうでないというなら、当然にも、このような誤ったでたらめな記事に対して、党として断固たる反論をしなければならないはずである。なぜ沈黙するのか? われわれが憂慮するように、党員に対しては自衛隊を容認していないと説明しつつ、党外に対しては、自衛隊を容認したと思われてもよいと考えているからなのか? この問題についてわれわれは誠実な回答を求める。
第4に、「経済・財政政策の転換のための闘争」の項では、あいかわらず無駄な公共事業の問題のみが取り上げられ、軍事費の削減について何も語られていない。