決議案の第1章における20世紀論についてはほとんど修正がなされていない。われわれは『さざ波通信』第16号で、環境問題や民族紛争の問題を取り上げたが、報告でも修正のうえ採択された決議でも、この点に関しては何の説明も補正もなされていない。日本共産党にとって地球環境という大問題は、20世紀を総括する上でまったく論じる価値のないものであるようだ。
90年代論に関して報告および決議の修正部分で注目すべきなのは、90年代における党勢の後退や先の総選挙の敗北に関して、「主体的条件」とともに「客観的情勢」が持ち出されていることである。90年代半ばから共産党が選挙で躍進するようになって以来、党指導部は、この躍進に浮かれて、90年代後半から第三の革新高揚期に入ったという幻想を振りまいた。この種の幻想が最初に典型的な形で示されたのは、昨年の7月22日に行なわれた党創立77周年の不破講演である(『さざ波通信』第6号の批判論文を参照)。さらに今年の1月に開かれた5中総の不破中間発言で、その楽観論に拍車がかけられた。そこでは、現在が第三の革新高揚期にいるだけでなく、現在の客観的条件は「70年代の躍進の時期にはもたなかった厚みと深さがある」とさえ断言された(『さざ波通信』第10号の5中総批判論文参照)。
このように、党指導部はこの間、客観的情勢の成熟と主体的とりくみの立ち遅れの矛盾という伝統的命題を繰り返し、主体たる党員や党組織にはっぱをかけるという姿勢をとってきた。
しかし、そのような議論に説得力がないことは、現場で実際に具体的な大衆運動を担っている党員たち、末端で党活動を行なっている党員たちにとっては明白であった。また前号の『さざ波通信』で数字を示して明らかにしたように、90年代における共産党の得票増は、総体としての革新獲得票の減少を伴っている。さまざまな事実を総合するならば、現在が「第三の高揚期」ではなく、新しい反動期であることは明白である。しかしながら党指導部は、末端の党員が感じている苦労をまったく知らず、得票数の増大だけで第三の革新高揚期を吹聴していた。しかし、そのような議論もさすがに維持できなくなったようで、この志位報告の中では、久しぶりに「客観的条件」が持ち出されている。その部分を引用しておこう。
同時に、討論のなかで、「どうして党勢がこんなに後退したのか」という疑問が、数多く出されました。この後退については、客観的条件と主体的とりくみの両面から、その原因を明らかにしたいと思います。
客観的条件では、戦後第二の反動攻勢、旧東欧・ソ連の崩壊という世界的激動のもとでの反共の逆風が、九〇年代の半ばまでつづいたことが、党勢拡大にも重大な困難をもたらしました。そのもとで、党活動の弱点ともむすびついて、政治的・理論的に確信を失って党を離れたり、党員としての実態がなくなったりした人びとも生まれました。同時に、そうした世界的な逆風のもとでも、基本的にわが党がその陣地をもちこたえたことの意義は、きわめて大きなものがありました。その根本にはわが党の綱領路線の正確さと、それにもとづく全党の同志のみなさんの不屈の奮闘があったことを、あらためて誇りをもって確認したいと思います。(拍手)
だが、おそるおそる「客観的条件」を持ち出したものの、これではまったく不十分である。この報告によると、反動攻勢や反共の逆風は「90年代の半ばまで」しか続かなかったことになる。すでにその「半ば」から5年が過ぎている。この5年間にどうして党勢はほとんど増大しなかったのか?
また、「戦後第二の反動攻勢」が90年代半ばまでしか続かなかったのだとしたら、90年代半ば以降はいったいどういう時期に分類されるのか? すでに述べたように、昨年7月の不破講演、今年1月の5中総における不破中間発言は、「新しい第三の高揚期」ないし「躍進期」を高らかに宣言している。にもかかわらず、決議案でもこの大会報告でも、「新しい第三の躍進期」について言うことができない。現在がどういう時代なのかを明確にすることこそ、党大会決議の最も重要な任務の一つであるはずなのに、この点については慎重に沈黙を守っている。
言うまでもなく、現在がどういう時代ないし時期にあるかを明確にすることは、党の戦術を規定する最も重要な課題である。なぜなら、戦術は、全体としての戦略とその時々の中短期の情勢の両方に直接依拠しているからである。反動期に攻勢をとったり、高揚期に守勢や傍観的態度をとることは、共産党として最もやってはいけない戦術的誤りである。
この点について党指導部が沈黙を守っているのは偶然ではない。一昨年の参院選以来、党指導部は、現在が第三の高揚期にあるという情勢認識にもとづいて、野党連合政権に向けて大胆に舵を切るという戦術を取ってきた。われわれはそれに対して、現在は新しい反動期であり、したがって、そういう時期に安直な政権入りをめざすことは、党の戦略的路線を逸脱させ、現状追認に向けた右転落につながると警告してきた。その後の情勢の展開は、われわれの警告の正しさをはっきりと証明した。
党指導部は、自らの原則的誤りを認めることができないため、一方では、言葉のうえで「客観的条件」を持ち出しながら、「反動攻勢は終わった」とする情勢認識をあいかわらず堅持し、他方では、右傾化する情勢に合わせる形で現状追認路線をますます推し進めることを余儀なくされている。この矛盾は小手先の手段では解決されない。情勢認識を根本的に改め、現状追認路線を抜本的に転換することが必要である。