さて、次に、第2章の具体的な記述に話を進めよう。改定案は第2章の冒頭を次のように書き始めている。
「第二次世界大戦後の日本では、いくつかの大きな変化が起こった。 第一は、日本が、独立国としての地位を失い、アメリカへの事実上の従属国の立場に落ち込んだことである。」
この出だしは、昨年の党創立80周年記念集会における不破演説の党史論にもとづいている。すでにわれわれは『さざ波通信』第27号の論文「民族主義的自画自賛に終始した共産党史論」でこうした見地を批判しておいた。61年綱領の制定をめぐる党内論争は、日本の従属国化を一つの重要な論争点にしていたが、その際、宮本顕治が「独立国からアメリカの従属国に転落した」とか「落ち込んだ」といった表現は用いたことはなかった。そのような表現は、あたかもかつての「独立国」としての地位(すなわちアジアにおける最悪の帝国主義的侵略国としての地位)が現在よりもましなものであるかのように受け取られかねないからである。不破の価値観の中では、たとえ帝国主義的侵略国であっても、その方が他国の従属下に落ち込むよりもましなのである。
ちなみに、『さざ波通信』27号の批判論文においてわれわれは、この80周年記念講演の全体像について次のように批判した。
「不破議長は、日本共産党の戦後史をめぐっては『日本の従属国化に対する闘争』と『ソ連覇権主義に対する闘争』についてしか語っていない。綱領にさえきちんと書かれている日本の帝国主義的復活についても、戦後日本が行なった周辺国への帝国主義的経済進出についても、あるいは、日本独占資本による支配についても、アメリカの侵略に対する全面協力についても、ほとんど、ないしまったく語られていない。あたかも日本が、第3世界型の半植民地国で、ひたすら可哀想な被害者であったかのごとくである」。
この文章は今から見ると何か予言的なものにさえ見える。まさに「綱領にさえきちんと書かれている日本の帝国主義的復活についても、戦後日本が行なった周辺国への帝国主義的経済進出についても」、今回の綱領改定案では見事に削除されているからである(後述)。この80周年記念演説の時点ですでに、綱領から日本の帝国主義的復活を消し去るつもりだったのだろう。
さて不破は、綱領改定案のこの部分に関して、報告の中で次のように説明している。
「変化の第一点は、日本が、独立国家の地位を失って、対米従属の状態におちいったことであります。この状態は、すでに半世紀以上も続いています。この対米従属の根幹をなすのが、1951年に結ばれ、60年に改定された日米安保条約――この軍事同盟条約にあります。そして、この従属国家の状態から真の主権独立国家に転換するということが、今日、日本が直面する最大の国民的課題となっています」。
さらに、もう一度念を押すように次のように述べている。
「対米従属のこの体制を打破することは、21世紀の日本が直面する最大の課題であって、この課題に真剣に対応しようとしないものは、21世紀に日本の政治をになう資格がありません」。
この引用文をよく読んでもらいたい。不破は、従属状態からの脱却して「独立」国になることこそが「今日、日本が直面する最大の国民的課題」、「21世紀の日本が直面する最大の課題」であると述べている。ところで先に紹介した昨年の80周年記念講演においても、不破は次のように述べていた。
「この状態を打破して、主権国家としての日本の地位を全面的に回復するということは、私は、21世紀に日本がなしとげるべき最大の国民的課題の一つだと思います」。
われわれは、『さざ波通信』27号の批判論文において、この文言を次のように批判した。
「『主権国家としての日本の地位を全面的に回復すること』が『21世紀に日本がなしとげるべき最大の国民的課題』だとすれば、日本独占資本の支配の打倒というもう一つの課題はどうなるのか? それは、2次的な課題なのか? この不破演説は、アメリカ帝国主義と日本独占資本の支配を『2つの敵』とした日本共産党綱領の立場さえ踏みにじるものである」。
この批判に対し、『さざ波通信』のある読者は、「『さざ波』27号を批判する」という批判投稿を寄せ、われわれの引用が不正確であると指摘した。
「その論評の論理が独断と偏見というばかりでなく、まず引用自体がフェアでない。不破氏は『最大の国民的課題の一つだ』といっているのであり、貴紙のように『最大の国民的課題』だと言っているわけではない。貴紙が不破氏をどのように考えようと自由であるが、引用する発言は正確にする義務があろう」。
この批判に対してわれわれは、『さざ波通信』第28号の論文「不破講演の民族主義的本質」において、この不破講演の全体の趣旨からしてわれわれの論旨そのものに変化は生じないと反論した。
さて、このちょっとしたネット上の論争を不破が読んでいたのかどうか知らないが、今回の綱領改定報告の中で、不破はこの論争に明快な決着をつけてくれた。なぜなら、不破自身の言葉で、従属からの脱却が「今日、日本が直面する最大の国民的課題」「21世紀の日本が直面する最大の課題」というふうに、「の一つ」という限定を除いた言い方を行ない、しかも2回にわたって念入りに行なっているからである。これによって、日本の「独立」を最重視する不破の基本的立場が、誰の目にも明らかになったと思われる。